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魔法学の先生  作者: 市村
第一章 幼少編
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10. 持続性についての考察

 

 キース達と一緒に過ごすようになって、一週間経った。


 魔術講座はもちろんのこと、俺が魔術の練習でミレイさんのところに行くときも、キース達はついてくる。

 最初の頃は、まるで俺が保護者だ、とでも言い出しそうな感じだった。

 結局はミレイさんにいいようにあしらわれているし、他の子達に先んじて魔術を教えてもらえると気づいてからは雰囲気が子供らしいそれになった。

 でもせっかくの講座が意味ない感じになってるんだけど、キースもミレイさんもそれでいいのか。



 一週間もあれば、俺の方も成長する。

 具体的には、火種の魔術ならほぼ完璧にこなせるようになった。

 暴発こそしてしまったが、幸いなことに魔力の放出の感覚はあれで覚えることができた。

 わざわざ力を込める必要のない、純粋な放出法だ。

 後は詠唱の発音さえ淀みなければ問題ない。

 まだ無詠唱ができるほどじゃないのが残念だが、すぐにキースに追いつくことを保証しよう。


 そんなキースは今、あの火の玉の魔術を練習中だ。

 キースが他の子供よりも少し先を行ける理由は、発音の綺麗さだったらしい。

 村に商人や旅人が来たときは、まず村長に会うことを勧められる。

 そして、同じ家に住むキース(とミーナ)は他の町や都市での発音を近くで聞くことになる。

 以前、この村は訛りが酷すぎて子供達のほとんどが詠唱で(つまづ)いている、とミレイさんはぼやいていた。

 その点、さすがは村長の息子。役得って奴だ。


 一方でリリィはその他の村人の多分に漏れず、訛りが酷かった。

 今でも火種の魔術を練習している。主に発音的な意味で。

 しかし意外や意外、本を一番読めるのはリリィである。


 この世界の文字は、というか言葉は、英語のような単語ありきの文法だ。

 記号の一つ一つに意味や発音があるわけではない(記号の名前、としての発音はある)。

 原型となったルーンこそ個々の記号に意味や発音があるが、現在の文字は基本的には組み合わせて使う。


 俺は言葉を覚えるのにも手間取ってしまったし、正直前世でも英語は苦手な部類だった。

 加えて今の両親は共に読み書きが出来ないときた。

 一度ミレイさんから本を借りようとしたこともあったが、家に持ち帰った後で知らない単語にぶち当たったら誰からも教わることができないので諦めたのは、つい最近のことだ。

 ちょっと悔しいが、まだ完璧にはほど遠いのだ。


 その点リリィの両親は読み書きが出来るのか、リリィは本を一冊ミレイさんから借りている。

 キースは読書するくらいなら追いかけっこでもした方がマシ、とか言いそうなくらいに行動派だ。

 結果としてリリィの方が文字が読めるという現状がある。

 個人的には、個性があって大変よろしいといった感じだ。


 ちなみに。

 俺が起こした魔術の暴発だが、そんなにポンポン起こるようなものでもないらしい。

 特に火種の魔術に限っては、魔力の放出もできないような子供が最初に覚える魔術ということもあって、まず起こらないとか。

 それをやってのけた俺は、別に誰からも痺れたり憧れたりしてもらってない。

 確かにイレギュラーだが、天才というよりはただのバカ。

 ってウィリアムさんが言ってた。

 ほんと、説得力が違うよね。



***



「……長いね」


 いつものようにミレイさんの家で魔術の練習をしていると、リリィがそんなことを言った。

 目線は俺の指先の炎である。

 指摘されるとは思ってもみなかった俺は、とりあえず火種の炎を消した。


「ん? なんの話?」


 そんなに大きな声でもなかったのに、キースまでやってきた。

 確か今は、外で火の玉の練習をしているはずだろう。

 と思って窓の外を見たら、案の定ミレイさんは苦笑している。

 キースは難しい話が嫌いみたいだが、これを言い訳に抜け出したんじゃないだろうな。

 っていうかよく聞き取ったな。地獄耳(デビルイヤー)か。


「そんなことないとおもうけど」

「ねえキース、バルドの火種って長持ちすると思わない?」

「そうか? バルド、ちょっとやってみて」


 二人が長い長いとくり返していることは、俺の魔術の持続性についてだろう。

 だが、せっかくの俺の個性を奪われるわけにはいかない。

 ……正直に言うと、せっかく追い付けそうになったのにまた引き離されそうで怖いんです。


「『火よ、我が指先にてその姿を顕せ』。はい」


 二人が食い入るように見つめてくる。

 うう、なんか別の意味で怖い。

 ほどよい時間で意図的に消す。


「嘘だ」


 その瞬間、リリィが無表情で即断した。

 こえぇよ! これで鉈でも持ってたらシャレにならんレベルだ。


「嘘なのか?」

「嘘。ぜーったい嘘。だってさっきはミレイさんよりも長くついてたよ」


 リリィは自分のことで精一杯みたいだったから、気付かないと思ってたんだけどなあ……。

 まるで「嘘つき!」と糾弾するような二人の目に射貫かれ続けて、俺はとうとう白旗を振った。


「……その、うそ、でした。ごめんなさい」

「どうやってたの?」

「俺も気になる」


 そう言われても、説明するのはちょっと難しい話だ。

 実際に知覚するには俺のような目が必要になるし、安全弁もこの目に頼っている。

 本人の感覚を頼りにできるならいいけど、この二人はまだ魔力の枯渇を経験してないはずだ。

 気づかないうちに倒れちゃいましたー、では話にならない。


「私も気になるー」


 なんでここで来るんですかミレイさん。

 止めて下さいよ。子供が危険な遊びに手を出そうとしてるんだから。

 俺の願いもむなしく、いつの間にか家の中に戻って来ていたミレイさんは二人の後ろで変わらずニコニコしている。

 この大きな子供め。


「えーと、ひがきえないようにまりょくをつぎたしているんです」


 俺が可能な限りシンプルに説明すると、三人揃って顔に疑問符を浮かべた。

 言いたいことはなんとなく予想できる。


「どうやって?」


 ほらー、めんどくさいことになっちゃったー。




 魔力というのは普段、全身に偏りなく分布している。

 その状態で魔術を行使すると、どうなるか。

 たとえば指先から魔力を放出する火種のそれなら、指先端の魔力から順に消費していき、周辺から掻き集められる量と魔術で消費する量が逆転した時点で、自然と魔術は終了する。

 そして体内の魔力は濃度の少なくなった部位へゆっくり流れていき、最終的には再び均等に分布する。

 これをくり返せば少しずつ全体の濃度が下がるんだから、いつかは枯渇する、という寸法だ。

 少なくとも、俺の目にはそう映っている。


 しかしここで、魔術のとある性質についても答えが出たのだ。

 その性質とは『魔術は連続使用に適さない』というもの。

 これ自体はよく知られたもので、魔物と戦うような冒険者達は、パーティーの最大火力となる魔術士のインターバルのために盾役(タンク)をスカウトするという。

 また、乱戦となって打ち出すタイミングを失った火炎弾(フレイムショット)を保持しきれず、そのまま足下に落としてしまい大やけど、なんて話も実際にある。


 前者は十分な魔力がすぐには行き渡らないからで、後者は魔術を持続するだけの魔力を集められなかったから起きた悲劇だ。

 しかし、魔力の分布を自由に変えられるなら、これらの問題は解決する。

 事実、熟練の魔術師は経験と鍛錬によってこの弱点を克服しているらしい。


 そして俺もまた、解の一つを知っている。

 俺を苦しめた忌々(いまいま)しき(くだん)の暴発も、元を辿ればあの『ポンプ式』に原因がある。

 あの時はもう二度とこんな方法でやるものかと思ったが、ポンプ式自体は有用だったのだ。

 ただ使い方が間違っていただけで。




 という説明をするのに一時間くらいかかった。

 子供らしい言動で、かつ子供にもわかるように、というのはとてつもなく難しいとよくわかった。

 途中で俺の言おうとしていることに気づいたミレイさんだったが、そこはやはりミレイさん。

 俺も覚悟はしていた三十分を二倍にしてくれました。さっすがー。


 しかも実際にやらせてみると、ほんのちょっぴり長持ちしたかな? ってレベルにしかならなかった。

 視てみるとわかるが、最初に集めた分を指の末端まで上手く輸送できず、結局肘から先の分くらいしか送れていないのだ。

 魔術の行使中に動かすのも難しいようで、発動前に溜めることのできた分が無くなれば、その後は魔力を補給できずに火が消える。


 つまり、誰一人としてろくに活用できないというね。

 俺の心配と苦労はなんだったのかと。

 

 伏線回のつもりが説明回もどきの日常回になってたでござる。

 もちろん有効活用するつもりですが、お披露目が予定より遅くなってしまうというか……。

 裏設定というか、裏事情を思わせるような文章は予定通りの場所にねじ込んでおきますので、どこがそれに当たるのか予想してみたりってどうですか。ないか。

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