表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学の先生  作者: 市村
第一章 幼少編
1/44

0. プロローグ

 

 ん、ん-?


 ふっ、と空でも飛んでいたかのような感覚に目を開けると、不自然なことに気がついた。

 やたらと動きにくい身体に、ぼやけた上にチカチカする狭い視界。

 立ち上がろうとしたが、身体に力が入らない。

 首すら持ち上がらないよ。何これ?

 時々、女の人? の声が聞こえるが、何を言っているかわからない。

 というか、この人誰? 俺彼女いないよ? 一人暮らしだよ?


 え? ここどこ? 本当に俺ん家?

 混乱する。焦りもする。

 でも急いては事をし損じるというし、落ち着くべきなんだろうな。

 難易度高いわー。


 ふむ。

 目がろくに見えないのは、多分眼鏡もコンタクトも付けてないからかな。

 動きにくいのはずっと寝たきりだったとか、そんな感じだろう。

 そう考えれば、突然何かの病気や事故で手術しなくちゃいけなくなって、でも日本の医者では難しいから外国で手術したとか。

 だったら言葉がわからないのも頷ける。


 でもなー。

 この視界の眩しさはなぜだろうか。

 なんか、光る埃がそこら中を舞ってる、みたいな。

 とはいえ、悩み続けるのはバカらしいので、適当にアタリをつける。

 多分目の病気だったとか。最悪失明レベルの。

 うん、確かに俺はド近眼の乱視だったし。そんなところだろう。

 施術後久しぶりに目を開けたから眩しいんだ。視野狭窄もそれが理由かな。

 よし、一安心。

 二度寝してもいいかな。いいよね? 病人だし?



 ……。

 …………。

 いや。

 いやいや。

 ないわー、それはない。

 だって俺いつ病院に行ったよ。

 眼科とか定期検診でしか行かないし。病気だとしても、健康診断では万年健康体だ。

 事故にしたって、そんな記憶ない。

 いや記憶が無いのはそれだけ致命的な事故だったのかも知れないけど。


 それに女の人の言葉は、あまりにも聞き覚えがない。

 日本の医術を超える国なんて限られてると思うし、少なくとも先進国だろうから全く聞き覚えがないなんてことはあり得ないはずだ。

 仮に言葉の異常を置いておくとして。

 学生保険や健康保険が下りたと仮定しても、家族が国外手術させられるほどのお金を持っていたとは思えない。

 両親は地方公務員(せんせい)ですもん。安定職だけど、労力と釣り合わない月給ですもん。

 我が家はそれに加えて三兄弟。もうお金が飛ぶわ飛ぶわ。

 もっと楽に稼げるならお前は別の仕事に就いた方が良いぞ、と親父に言われた記憶も新しい。


 もしや拉致? 手足の拘束に、何かしらの薬物。今の身体状況的にはあり得る。

 某国はいつまで経っても自重しないな。あ、でもあの国の言葉じゃないな。違う国?

 安全大国我らが日本といえど、どこかに本気で攻撃されたら後手に回るしかないのか。

 でもたかが三流大学の学生を攫ったところで、何か変わるか?

 別に攫う側からしたら誰でもいいのか。でもなんか違う気がする。

 尋問にしろ拷問にしろ、俺と会話できる人が近くにいないと、俺に喋らせても意味なくね。

 そもそも喋らせる事なんてないのか? 人質的な役割ってだけで。

 うーん、この可能性はないかな。


 しかし、目がまるで見えないから周りの情報を得られない。

 視野の狭さが悔やまれる。

 いや、本当に正面しか見れないんだって。

 周りを見ないんじゃない、見れないんだ。

 どうしようもない。

 今度こそ寝よう。

 次に起きたら事態が好転してますよーに。



***




 ……はっ!

 ふう。


 何も変わってなかった。

 いや、ほんのちょっと好転したのか。悪化したともいえるが。

 とりあえず、自分の現状は把握できた。


 さっきから話しかけてくれてた女性に、抱き上げられた。

 それはもう、恐ろしいくらいの浮遊感だった。

 たしかに昔から人より痩せているという自覚はあった。

 そのくせ外見よりもたくさん食べる(らしい。自覚はなかった)ので、友人から大食いキャラ認定されるという不名誉も受けた。

 だけど、こんなに簡単に抱き上げられるなんて。


 遠近感すらイマイチなので絶対とは言い切れないが、この女性だって結構小柄な方だ。

 小柄というよりも、痩せているといった方がいいかもしれない。

 この国は大丈夫なのか。生活保障とかないの? ないのか。

 まあ痩せてるといっても保障が必要なほどでもないか。

 っていうかこの人すっげーチカチカする。

 今もまだ空中を光る埃が舞っているように見えるけど、この人はすごい。

 顔にビッチリと、その埃がくっついている。衛生環境やばいって。


 なんて思っていられたのはそこまでだった。



 首を支えるように持ち上げられて、ようやく自分の身体が目に入る。

 意思とは切り離されたように動かない、煮込んだトマトのようにシワシワの手。

 ぼやけて見えるその先には、やっぱり動かない足。

 総じて、ちっこい。


 んなバカな。俺は平均くらいの身長はあったはずだ。

 少なくとも、この目の前の女の人よりは背が大きかった。女の人のパースがおかしくなければ。

 いや、それ以前に抱き上げられるという時点でおかしかっただろ。

 いくら痩せてても、たとえしばらく寝たきりだったとしても、そこは成人男性。

 女の人に、しかもこれだけ痩せてる人に、こんなに簡単に抱き上げられるとかないでしょ。


 でも、この状況。

 まるで()()()()()()()()()()()()()()ような、この状況。

 いやいやすべては縮尺がおかしいんだよ。そうとしか考えられない。

 そう、目の調子がおかしいんだ。手術直後だからなー。焦点が合ってないんだ。

 うん、完全に失明しなかっただけマシじゃないか。

 ここまで見えなくなるとどっちにしろ日常生活に問題が出ちゃうような気もするけど。

 多分大丈夫。視力によらない仕事だってあるさ。江戸時代の琵琶法師みたいな。


 この手で弾けんのかな。

 こんなにしわくちゃで?


 えー……?



***


 その日、俺は自分が生まれ変わったことを知った。

 すぐにふて寝したのは、言うまでもない。

 

 出来れば三人称で書きたかったんですが、赤ん坊の思考を客観的に書けないので諦めました。

 なので基本的に一人称です。でも一人称も苦手です。くそう、書き手にはなれないというのか。


2016/3/26 試験的にこっそり編集。強調の《・》←これって環境によっては両端揃えにならないのね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ