第5話 生徒総会 ~役員紹介~
やっと総会にたどり着きました。
2015/2/23 一部描写の追加変更をしました。
昼休み―――。
礼羽は生徒総会の為、役員集合場所の生徒会室へと向かおうとして教室を出た。
しかし、
「月島!
あっ、あのよ、今夜空いてるか?」
背中越しにかけられたその声で、歩みを止めて振り返る。
後ろに立っていたのは偉人だった。
「えっ?
まぁ、空いてるには空いてるけど?」
突然偉人から予定を尋ねられたために、少し面食らったように答える礼羽。
「なっ、ならよ、今夜、斐甲達に肝試し誘われてんだけど一緒に行かないか?」
それに少し険しい表情になる礼羽。
「………………肝試し?
まさか、学校で?」
「ああ。
斐甲が学校の七不思議のひとつを確かめたいらしくてよ。
成り行きで礼羽も誘おうってなったんだ。
一緒に―――」
そこまで偉人が言うと、
「…………ついでに?
なんで私がついていかないといけないの?
そもそも、夜間立ち入り禁止の学校に忍び込むということは不法侵入というれっきとした犯罪よ?
バレたら逮捕よ?退学よ?
そんなの真っ平ゴメンなの」
かぶせ気味に礼羽が言う。
本当は、礼羽だって誘われて嬉しかったのだが。
だが、「ついでに」という言葉が気に食わない。
同じ「誘う」なら、礼羽は「ついで」じゃなくて普通に進んで誘ってほしかった。
そんな変な所で意地を張ってしまう。
だから、一緒に行きたいと思っていても、気づけば口からは勝手に偉人の提案を跳ね除ける言葉が出ていたのだ。
そんな、礼羽からの呆れぎみな声での不参加意志表示に偉人は、
「…………わかったよ。
じゃあ、俺らだけで行くよ」
どことなく落ち込んだ様子で踵を返してクラスメイトとともに体育館へと向かう。
それを見送った礼羽は生徒会室へと向かう。
そして、これから行われる生徒総会が“はじまりのキッカケ”になるなど、礼羽も偉人も今のところまだ気づいていなかった。
******
「只今より生徒総会を始めます。
司会進行は私、生徒会庶務・三年朝倉美咲が勤めさせていただきます。
では、生徒会役員、クラス委員、各種委員会委員長は登壇し、ステージ上の指定された席に着いて下さい」
その美咲の言葉を受け、この学校の要となる役付きの生徒が登壇し指定された席へと座る。
全員の着席を確認した美咲が口を開く。
「さて、今回の生徒総会は年度始めであるため、今から例年通り役員紹介をします。
まずは、会計・三年桜知世、二年星靈寺光」
紹介を受けて二人は立ち上がり、その場でお辞儀をする。
知世は白銀財閥という大財閥の一族の傍系である桜家の一人娘。
ヨーロッパ系の血が流れているらしく、ウェーブがかったプラチナブロンドの髪をセミロングにしている。
瞳は翠色であり、まさにヨーロッパのお嬢様といった雰囲気を持つ。
だが、雰囲気とは違って誰に対しても気さくに話せるので、礼羽も親近感を覚えている先輩である。
光は「五院家」と呼ばれる、ここ「皇御国」の地で力を持つ五つの旧家のひとつで中央に位置し、「五院家」をまとめる立場にある麒麟院の分家である星靈寺家の次期当主候補。
星靈寺家特有の柔らかなオフゴールドの髪をツーサイドアップのセミロングにしている。
瞳も金色で物語のお姫様のようだが、至って普通の少女であり違うクラスである礼羽も仲が良い。
ちなみに、景の許婚である。
知世は柔らかい微笑を、光は少し恥ずかしげな笑みを浮かべながら生徒へ向けてそれぞれに話す。
「ご紹介に預かった桜知世ですわ。
皆さんの信頼にお答えできるよう、私、頑張らせていただきますわ」
「私は星靈寺光です。
光に投票してくれた皆さんのご期待に沿えるように……
頑張ります!」
二人が言い終わって座ると、美咲が次の役員の名前を紹介する。
「次に、書記・二年月島礼羽、一年皇紫苑」
その紹介を受けて、礼羽と紫苑も先の二人のように立ってお辞儀する。
礼羽の名が出たときは心なしか体育館の、特に男子陣からざわめきが起こる。
その優美な振る舞い。
その端麗な容姿。
成績優秀にしてスポーツも万能。
道徳心を持ち、常に周囲の模範となるような完璧超人。
そんな礼羽には男子だけでなく女子でさえも虜になってしまう。
紫苑は今年高等部に進級してきた期待の新入生で、礼羽の跡継ぎとまで言われている。
茶髪に神秘的な色合いの紫の瞳。
少しボサボサの髪型をした小柄な少女で、これはこれで男子生徒から人気である。
だが、常に紫苑は付き従う年上の知世と唯、美咲の三人により守られているので近寄りにくく、男子生徒達からは難攻不落だと密かに囁かれている。
そんな紫苑はどこか礼羽を幼くしたような雰囲気を纏っている。
礼羽と紫苑も先の二人に倣い生徒へ向けて挨拶する。
「月島礼羽です。
皆さんの支持で生徒会へ入れたということを忘れずに公約を守れるよう頑張りたいと思います」
「皇紫苑だ!
皆の為に初志貫徹を貫き、精一杯励もうと思うぞ!」
二人の挨拶で会場(特に男子生徒)のざわめきが更に大きくなる。
だが、美咲が口を開くとみんなが一斉に静かになる。
「総務・二年群青葵、三年鈴宮神威」
神威はステージ下の一般生徒達(特に女子)へ向けて見惚れるような微笑を浮かべて、葵は爽やかな好青年といった笑顔で、二人ともお辞儀する。
この時の体育館は女子がざわめく。
葵は会社の重鎮や有能な財政界のエリート高官を多く輩出している群青家嫡男である。
少し黒っぽくも深い蒼の髪に同じ色の瞳。
髪型は少年らしくさっぱりとしているが、どことなく中性的な印象を受ける顔立ちだ。
神威は五院家に次ぐ旧家のひとつ鈴宮家の現当主。
なんでも当主であった父親が早くに亡くなってしまったので異例の早さで当主へと押し上げられたらしい。
長い翠の髪に深い藍色の瞳。
自信家で勝ち気そうに見える顔。
背も高く、何でもできる故に女子達に人気の先輩だ。
「僕は群青葵。
みんなの意見を反映させていけるように頑張るよ」
「俺は鈴宮神威だ。
今日はみんなの意見、聞かせてくれよ?」
葵と(特に)神威の言葉で女子生徒達の黄色い悲鳴が湧き上がる。
それも美咲が口を開けばすぐに収まる。
「庶務は私朝倉と、三年橘唯」
ステージ下で司会する美咲とステージ上の席についていたひとりの男子生徒が立ち上がり美咲は丁寧に、少年はどこか飄々とした様子で呼吸ぴったりにお辞儀する。
唯は鉄財閥の傍系橘家の一人息子。
黒髪に黒の隻眼でいつも黒い眼帯をしている。
ちなみに右目の眼帯は前髪で隠している。
ボサボサな髪といい少し着崩した制服といい、がさつなイメージを持たれがちだが、人を思いやることができる意外な常識人で力仕事が得意。
その容姿から女子生徒からも人気だが、桜知世という恋人で許婚がいるため告白されることはないらしい。
美咲は常に知世と唯、紫苑に付き従う。
茶色のミディアムに翠の瞳。
そこそこ美少女である顔立ちだが知世と唯と紫苑に絶対の忠誠を誓っており、男子生徒からの好意を相手にしていない。
その真面目すぎる性格の美咲に何人もの男子生徒が恋心に気づいてもらえず、夜に枕を濡らして泣いたという噂が広まっており「恋情殺し」の二つ名が囁かれている。
「……橘唯だ。
まあ、今年はこの学園のために頑張ってやるよ」
「最初にも挨拶しましたが朝倉美咲です。
皆さんの為に一生懸命頑張らせていただきます」
それからも美咲の役員紹介はまだ続く。
「副会長・二年堂島夏樹、一年白雪千里」
名前を呼ばれた二人は立ち上がる。
そして夏樹は普通の少女らしさを、千里はどこか日本女性の美しさを感じさせるような動作でお辞儀する。
夏樹は龍見の双子の妹。
二卵性双生児であるため顔立ちは何となく似ている程度で、髪色は全く違う。
兄の龍見が紺色がかって見える黒髪なのに対し夏樹は少し赤茶っぽく見える茶髪だ。
性格も龍見とは違い現実的で真面目。
唯一、瞳の色はまったく同じ色の紺青であり間違いなく兄妹なのだと証明している。
千里は高等部に進級する際転入してきた少女で、神社の巫女さんがとても似合いそうな和風美人である。
長い黒髪に黒い目。
お淑やかなまさに大和撫子である。
「堂島夏樹です。
皆さんの意見を聞きつつ、精一杯頑張らせていただきます」
「白雪千里です。
まだこちらに来たばかりで分からないこともありますが、皆さんの気持ちに応えたいと思います。
精一杯頑張ります」
そして、
「生徒会長・三年巫開瑠」
ようやく生徒会役員の最後にして生徒会の長の名前が美咲によって呼ばれる。
それに合わせて小学生くらいに見える一際幼い少年が立ち上がりお辞儀する。
そして顔を上げて天使のように微笑む。
その瞬間、体育館の空気が一変する。
それまでの喧騒に包まれた雰囲気から嵐の前の静けさに。
「みんな、今日は学校の運営についての重要な会議だ。
キミ達ひとりひとりの意見がこの学校をつくる。
だから、ボク達の意見をどうすべきか真剣に考えてね!」
と瑠が一言言うと、
『もちろんです!!
生徒会長様!!』
と合図したように皆が一斉に返事する。
「うん、良い返事だ」
返事に満足したのか、瑠の表情は微笑みから満面の笑みへと変わる。
それからも十分ほど他の委員会の委員長を紹介していく。
全員の紹介が終わったところで、
「それでは、今紹介されたこのメンバーで今年度の学園運営本部として動いていく!
手始めにこの生徒総会で今年の予算案などの決議をする!!」
という生徒会長・瑠の掛け声で運命の生徒総会は始まった。
******
その水色の髪をした少女は、体育館の近くの木に寄りかかっていた。
「…………“鈴宮の名に於いて命ずる”―――」
少女は呟く。
「―――“暴れろ”」
その少女の言葉と同時に、総会真っ最中のはずの体育館に悲鳴が響き渡る。
それを確認すると少女は再び、
「……“電源ショート”」
と呟く。
すると、体育館の電気が突如として全て消える。
「これで………………仕上げ。
………………“夜”」
途端、学校の敷地内が全て夜の様相を呈す。
満月が煌々と輝き、星々が妖しく光る。
だが、今は昼。
しかも午後一時くらい。
明らかにこれはこの少女の仕業だった。
「………………龍見様。
早くお会いしたいです」
そう呟く少女の顔には在るはずのない“感情”が浮かんでいた。
しかしすぐにそれも消え失せる。
「………………その前にあの方を目覚めさせねば」
そういう少女の瞳には感情がない。
そして、そろそろ来るであろうかつては幼馴染だった長い黒髪と角度によって碧に見える瞳を持った少女のことを待つ。
―――触れたら即死の猛毒が塗られたナイフを手にして。
今回はとりあえず人物紹介みたいになってしまいました。
そしてようやく不穏な空気がでてきましたね。
果たして、水色の髪の少女は一体何者で、誰を待っているんでしょうか?
それは次回わかります、たぶん!
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