第4話 二年二組の生徒、謎の少女
この話から、徐々に学園の仲間達が登場してきます。
2015/2/23 一部描写の変更をしました。
「お待たせしてしまってすみません、皆さん」
入口で挨拶してから、部屋へ入る礼羽。
「月島さん、大丈夫だよ。
今日急な召集をかけたのはボクだ。
気にすることはない」
そう言いながら席に着くように促すのは、この学校の生徒会長である巫開瑠。
彼は外見年齢が12歳くらいの少年にしか見えないが、れっきとした高校3年生。
ゆるくウェーブのかかった髪を首のあたりで巫女さんのように一本に結っている。顔立ちとしては、少女漫画の王子様を幼くしたようだが、髪型とくりくりな翠の瞳によって醸し出される雰囲気は可愛らしい少女のよう。その雰囲気と可愛らしい容姿、そして外見に似合わぬほど大人びて落ち着いた物腰から人望も厚い。人を惹きつけて止まない魅力的な人物で、全生徒から「かわいい」と評判の生徒会長なのだ。
この学校の生徒会は学園を取り仕切る性質上、他校とは違った学年関係なしの実力主義である。故に、同じ役職も普通なら2年と3年を各1人の構成のところ、この学校では同じ学年が被っていることも当たり前である。ちなみに、今年度の生徒会では多くの役職において2年生が3年生を下剋上していた。
礼羽が席に着くと、下剋上したうちの1人である副会長の2年生・堂島夏樹が口を開く。
「会長」
「うん。
堂島副会長、説明して」
巫開会長の指示通り、ここに集まった他の者へと説明を始める堂島副会長。
「はい。
先日、日本国政府からの連絡により、学校側より生徒総会にてとある案件を検討するよう指示がありました。
その案件は政府により今まで内密に進められてきた『人材育成事業』の一環として他校より一足先に我が校に『職務能力開発プログラム』を導入。我が校をモデル校として、他校から複数名の成績優秀者を受け入れ、その『プログラム』を全国の高校へと広げていくというものです」
説明が終わった所で会長が口を開く。
「さて。
今聞いてもらった件なんだけど、昨日は職員の不手際で書類が抜けてしまっていたんだ。
もちろん決定権は生徒にあるから、全生徒に聞いてみようとは思ってるんだけど…………
できれば受け入れるべきだとボクは思う」
あくまで決定権は全生徒にあると言いつつも、個人的には受け入れるべきだと意見を述べる会長。
「ウチは他校よりも受け入れやすいだろうしね。
というわけで、この件の概要だけ説明するのに集めただけだから、みんなもう戻っていいよ」
と、あっという間に会議はお開きになった。
******
2時間後―――。
礼羽達2年2組の生徒は次の時間が体育であるため、男女それぞれ体育館の更衣室へと向かっていた。大体の生徒達がそれぞれ仲の良い数人で連れ立っている。
そんな中……。
「お前、今日の体育は本気出せよ」
偉人は珍しく龍見へと声をかける。
「…………いつでも僕は本気さ」
答える龍見はそう嘯く。
「そうかぁ?
俺にはそうは思えねぇけどな。
……特に今日の朝、俺の走りについてくるなんて滅茶苦茶な運動性能見せられた後となりゃ……
…………なぁ?」
何故かいつもよりも突っかかっていく偉人。
今日の彼は、どうやらかなりのイライラを募らせているようだ。
「珍しく偉人の方から話しかけてきたと思えば……
どうしたってそんなイラついてるんだ?
僕に八つ当たりされても困るんだけどなぁ……。
なぁに、月島さんと何かあった訳?」
龍見は、冷静で且つ皮肉混じりに返す。
礼羽の名を出されたとき、普段の偉人ならば少し赤面しつつ慌てて否定するのだが。
今日の偉人は赤面した。
…………のではなく。
赤面を通り越したのか、皮肉を言ってきた龍見への怒気を躊躇うことなく漂わせ始める。
それを感じ取り、龍見はスッと目を細める。
龍見はクラスメイトや女子の前でこそヘタレで弱虫の気味悪いキャラだが、それはおそらく龍見の真の姿ではなく本性を隠すためのものであると偉人は思っている。その証拠と言えるのだろうか、ただでさえ普段から鋭く冷静な冷たい濃紺の瞳が眼力だけでも人を竦み上がらせられると感じるほど鋭く冷たくなる。
偉人も龍見本人に聞いたことはないが、聞く必要はないと考えている。
なぜなら、偉人は龍見が隠している本当の本性と秘密を知っている。
それはこのクラスでは偉人だけだろうが。
もちろん、龍見は偉人が周囲に隠している秘密を知っているし、自身の秘密や隠している本性が偉人に知られている事も気づいている。
だが、龍見の計画ではまだ偉人の出番ではない。
だから、こうして皮肉を言ったのだが……………
「………………」
「………………」
無言で数秒間睨み合う2人。
険悪な雰囲気になり始める。
どうやら本来の意図を外れて龍見自身の頭にも血が上り始めてしまったようだ。
とそこへ、
「なぁなぁ!!
ふたりとも、今夜空いてるか?」
意図的か無意識かは分からないが、空気を読まずに乱入してくる男子生徒。
彼の名は鬼斐甲。
黒髪黒目で顔もなかなかのイケメンなので、まあまあモテるようだ。何かに興奮すると瞳が紅く発光するように見えるときが時折あるが、基本的には至って普通に見えるクラスのムードメーカーである。
そんな斐甲の乱入により、それまでの険悪な雰囲気は立ち消える。
「今夜?」
そのかわり偉人の口から出てきたのは、斐甲へ不信感を込めた質問返し。
斐甲はキラキラした目で答える。
「ああ。
空いてるんなら、今夜学校で肝試ししようぜっ!!」
そのあまりにも突飛な提案に偉人と龍見は2人とも、たっぷり数秒間思考が停止する。
いち早く現実復帰した偉人でさえ言えたのは、
「………………は?」
という一文字のみ。
だが、そんな2人の様子などお構いなしに、
「今夜、学校に忍び込んで“あの噂”の真相を確かめようぜ!」
と目を輝かせながら話す。
「おっ、おまっ……
まさか“あの噂”って…………
“荊野学園七不思議”の事信じてんのかよ?!」
偉人は驚きと呆れの入り混じった表情をしている。
一方、龍見は先程までとは打って変わり瞳の鋭さを少し和らげており、斐甲の提案に対し興味を持ったようだ。
「………………ふむ。
確かに、とても興味深いですね。
本来存在しないと言われている校舎地下3階以下の存在…………
そこには不気味な実験をし、あらゆる業界に対し影響力を持つ巨大な秘密組織がある………………
僕にはとても惹きつけられる魅力を感じるよ」
「お前もかよっ?!
そもそも学校側だって否定してただろ?
大体、どこをどう見たって明らかにこの校舎には地下2階までしかないだろ」
依然として、偉人は斐甲の提案に否定的な意見を述べる。
「…………楽しそうな話をしているな」
そんな3人の会話に突然入り込んでくる男子生徒。
「な、なんだぁ…………景かよ。
いるんなら一声かけろって」
斐甲はその男子生徒へと言わなくても良いような小言を言う。
だが、斐甲に「景」と呼ばれた男子生徒はそう思わなかったようで、
「すまなかった。
聞こえてきた会話がつい、気になってしまったものでな」
と素直に謝った。
彼の名は厳島景。
室内でも室外でも、基本的には常に帽子を目許深くまで被っている。寡黙で物静か。激情を感じにくいのか常に落ち着いていて。頼りがいがあって。気がつけばそこにいて、頼りたくなってしまうような少年。着痩せするので普段はあまり目立たないものの、なかなかガタイが良いためか、その鍛えられた胸板は女子達の密かな憧れらしい。
そんな景も斐甲の提案には興味を持ったらしい。
偉人以外が乗り気なことで斐甲は勢いづき、
「なんなら偉人は月島さん、龍見は夏樹ちゃん誘ってきてさ!
どうだ?
もちろん、景は決定で、ついでに彼方を誘ってこいよ?」
と言う。
だが龍見はその提案は飲めないとばかりに
「夏樹はダメだ。
あいつはまだ未熟者だ。
恐がりには危険すぎる」
即答する。
一方の偉人は、
「いっいや、らい……月島は……
…………行かねぇだろ」
「私がなんだって?」
どもっていると、いつの間にか礼羽が入ってくる。
「「えっ?!」」
驚く斐甲と偉人。
「月島、お前いつの間にいたんだよ」
偉人は突然現れた礼羽に問う。
「なによ、もうっ!!
今日の体育は2クラス合同で男女混合のドッジボールだからクラスで作戦立てるって言ってるのに、鬼くん達話し込んでるから…………
せっかく呼びにきたのに」
礼羽は少し眉毛をへの字にしつつ答える。
「気づいてなかったのはお前ら2人だけだ」
景からも追撃され、ちゃっかり龍見も頷いている。
「とりあえず、早くこっちにきて4人とも」
景と龍見の追撃を見てこれ以上の小言は不要だと判断した礼羽は4人を手招きしつつ2組の輪へと戻る。
偉人はその後、二時間ある体育の授業中ずっと、斐甲の誘いをどうするか悩んでいた。
******
同時刻、校舎内―――。
そこには独りの少女が歩いていた。
外見年齢は14歳ほど。
この世界ではとても珍しい淡いパステルカラーの水色の髪はショートカットで肩口で切り揃えられ、癖一つない。色白の透けるような肌につんと高い鼻に形のよい小さなピンクの唇。深い藍色のキリッとした瞳はとても整っている顔立ちをさらに引き立てている。そんな恐ろしく無表情で美しい彼女は濃紺の戦闘服と銀の軽鎧を併せたようなスパイにも見える服を身にまとい、無言でどこかへと向かっている。
そこへ、
「おい君!
こんな所で何しているんだ!
今は授業中だろう?
それに…………」
とたまたま通りかかった教師が声をかける。
「………………」
しかし、少女は教師のことを振り返るも何も答えない。
その様子に違和感を覚えた教師は無理矢理少女を職員室へと連れて行こうとする。
「その奇妙な格好は何なのだ?
学校の規則では制服での登校以外認めていないぞ。
ちょっと一緒に来なさい」
「………………“我が意に従う下僕となれ”」
少女が平坦な声で呟くと、途端に教師は虚ろな表情に変わりその場からフラフラと立ち去る。
それを見送った少女は、何事もなかったかの如く再び前を向いてどこかへと歩き始める。そんな無表情で兵士のような装いに身を包んだ彼女の胸元に目を向ければ、真珠と紺碧の珠が埋め込まれたロザリオの十字架のネックレス。
彼女自身の瞳は表情と同じく無感情で読めないが、そのネックレスは彼女の気持ちを代弁するかのようにキラリと光っていた。
まだまだ登場人物は増えます。
設定は何年も前からあるんですが、まだまだ登場させるには時間がかかりそうです(汗)
おつきあい願います。
もし、質問等があれば感想やメッセージをお寄せ下さい。
よろしくお願いします。