第3話 幼馴染の朝とクラスメイトの変わり者
時間があいてしまったのですが、ようやく書けました。
なかなか話が進まないとは思いますが、まったりとついてきていただけると嬉しいです!
2015/2/23 「・・・」を「……」に変更しました。
紋葉に続いて歩く礼羽は緊急の打ち合わせが行われる会議室に向かっていた。
「もう、他の役員は集まっているのかしら?」
と、何とはなしに紋葉に尋ねる礼羽。
「ええ。
少なくとも、生徒会役員は月島さんを除いて全員そろっています。
でも、気にしないでください。
本当に、今日の召集は急だったので今からでも十分、間に合います」
そう、歩きながら答える紋葉。
「そう。
そういえば、紋葉…………」
と、礼羽は相槌を打った後、紋葉に何かを訊ねようとする。
しかし相手に先回りされて、
「どうかなさいましたか?
月島さん」
と言われれば、逆に言いづらくなる。
まるで紋葉が、「何も聞かないでください」と遠まわしに言ってきているようだ。
別に、今訊ねなければならないことではないし、
「いえ、別になんでもないわ。
気にしないで」
と言って、礼羽は口を閉ざす。
その様子に紋葉は、本当に何も分かっていないのか、小首を傾げて不思議そうに礼羽を見つめている。
しかし、礼羽はそれに気づかないかのように、
「さあ、先を急ぎましょう。
早くしないと、会議が朝のホームルーム中に終わらなくなってしまうわ」
と言って、先を促す。
会議室まではあと少し。
運命を変える一日が始まろうとしていた。
******
「はぁ…………
今日こそは、月島を驚かせようと思ってたのによ…………
しかも、このペンダントをあげようと…………」
とか、ひとりでぶつぶつ言いつつ教室へと向かう偉人。
その後ろには、足音を消して近づく人影。
その人影に、偉人はまったく気づかず、
「…………やぁ、偉人。
よくも僕を置いていってくれたよね」
と声をかけられて、ようやく気がついた。
「げっ……!
堂島…………
お前いつの間に…………」
そこで偉人の意識は、今朝礼羽と会うまでの出来事へと飛ぶ。
******
少し時は遡る。
「母さん、朝メシ~」
いつも通りの声をあげ、二階の自分の部屋から一階のリビングへと降りる。
「あらあら、イクト、今日は早いわね」
「今日は総会があんだよ」
「あら、そうだったの。
ほら、朝ご飯はもうできてるわよ」
いつもと同じ、母・星羅との会話。
「ん。
…………ん?
げっ!
今日は、礼羽と一緒に登校しようとおもってたんだ!!
やべぇ、急がねぇと……」
朝食を口に放り込みながら、何かを思い出したようにそう呟く。
隣の家の幼馴染である礼羽は、いつも偉人のことを待たずに、学校へ行ってしまう。
それに追いつくために毎日道路を爆走してしまうような“偉人の非常識さ”が大きな理由となっているのだが、礼羽はいつからか、(特に大衆の目のあるところでは)偉人を避けるようになっていた。
それでも、そんな程度の行動は偉人にとって、気にならない些細なこと。
だが、今日という日はそういう訳にもいかなかった。
今日は偉人にとって特別な日であり、今日はどうしても礼羽と一緒に登下校したかった。
「あら、そんなに急いでどうしたの?」
と驚いた顔で、母が聞いてくる。
「今日は特別、早く家出ようとしてたんだよ。
あ、そうそう母さん。
今日、総会あって帰り遅いからさ。
先に晩メシ食っといて」
そう、早口で母に伝えつつ準備を終え、急いで家を出た偉人。
「あっ、いってらっしゃ~い!!
気をつけるのよ~っ!!
もう、本当に落ち着きがないんだから……
まったくもう……
一体、誰に似たのかしらね……?」
息子を見送る母の瞳には、少し寂しげな色が浮かんでいた。
だがそんな母の声は、急いで出て行った息子に届くはずもなかった。
当の息子本人は、もう今日のことしか頭になかった。
いつもよりも早起きして、いつもの二倍くらいの速さで身支度を終えて、早々に家を飛び出してきた。
全ては今日という日のため。
偉人自身の将来のため。
入念に準備した計画に従い、礼羽の家の呼び鈴を鳴らす。
計画通りに行けば、今日は偉人にとって人生で最高の日になるはずだった。
だが。
「あら?
偉人くんじゃない。
どうしたの?
もしかして、礼羽ちゃん?」
という礼羽の母・裡々羽の反応でなんとなく予想がつく。
「もしかして、もう行っちゃいましたか」
「ええ、ごめんなさいね。
今日はなんだか、少し早めに家を出て行ったわ」
それを聞いて、偉人はかなり焦った。
「そうですか……
ありがとうございます、裡々羽さん」
と裡々羽に頭を下げ、すぐに計画を練り直す。
やはり、いつものノリで行くしかない。
決断するや否や、すぐさま実行に移す。
「おっ……おい…………」
「あ、あいつ……
なんで、あんな走ってんだ?」
「さっ、さあ……
気にしない、気にしない」
等々、通りを歩く人が驚いてドン引きするほどの速さで、学校までの道を爆走しはじめる。
礼羽が歩いているならば速度的に考えて、もうじき追いつくだろうと偉人が思ったとき、突然後ろから声がかかる。
「やぁ、偉人。
今日も、凄まじい速さだね」
それは、正直今は会いたくない奴だった。
「堂島……」
「まぁた、どうしたの?
そんなに急いで」
そいつはなぜか、偉人と同じ速度で走りながら、偉人へ話しかけてきていた。
「なんでお前はっ……!
そういつもいつもっ……!
俺と同じ動作をしながらのご登場なんだっ?!」
と、偉人は息も絶え絶えに答える。
その声をかけてきたのは、偉人と同じクラスの男子である堂島龍見だった。
偉人と同じ制服。
少し紺色がかって見える艶やかな黒髪。
その髪を前は右目にかからせ、後ろは下に一本でまとめるという、少し女の子のような髪型。
顔は、よく見れば均整がとれているのだが、それよりも目を引くのは、吸い込まれるような深い紺青の瞳。
笑顔が似合いそうなそいつは、「かなり」変わった奴だった。
普通の人は信じないような迷信を信じ、それについての研究に没頭するのだ。
故にクラスをはじめ、貶されまくる生活を送っている。
(クラスの男子からは根は良い奴だと、案外影では慕われていたりするのだが……)
女子には、その趣味からかなり嫌がられており、幼い頃からの友人であるはずの礼羽とは話をできないように邪魔されていた。
そんなこんなで、俺と礼羽とはいつからか(と言いながらも、偉人の頭にはある出来事が思い浮かぶが)疎遠になっていた。
「それよりさぁ、イクト。
いつになったら、僕と月島さんが話す機会を作ってくれるのかなぁ~?」
その問いに偉人はドキっとする。
龍見はやけに礼羽に執着していて、何かの研究対象として見ているようだった。
だから……
「あっ、あれぇ~…………
そっ、そんな約束したっけかな~……」
そういって煙に巻こうと、さらにスピードを上げて走り始める。
「あっ…………!
おっ、おいてくなよぉ~!!」
そんな龍見の声を尻目に、一目散に礼羽に向かって走って行く。
「お~いっ!
月島~っ!!」
こうして、いつもの偉人の日常は幕をあけたのだった。
******
そういう偉人の様子を、いかにもおもしろそうに眺めるこいつの名前は堂島龍見。
朝、登校途中で声をかけてきた奴だ。
偉人の小さいときからの知り合いである。
友人の中では比較的に古株な方であるが、ある出来事があってからは疎遠になっていた。
「まったく、偉人の体力は本当に信じられないね。
あのスピードを維持したままで、学校の校門前まで走り切ってしまうのだから」
とか、真面目に感嘆の吐息を漏らす龍見。
それに、
「いや、俺についてくるお前の方がよっぽどすげぇよ。
つか、なんでそんなに運動できるのに普段はあんなダメダメなんだ?」
と皮肉たっぷりに返してやる偉人。
「いや、周りが驚異的すぎるんだ。
僕は、至って普通さ。
運動も、なにもかも」
とだけ返してくる龍見。
何やら哲学じみた龍見の“古めかしい”言い回しに、偉人はウンザリとした表情で答える。
「そうかぁ?
…………俺には、『至って普通』には見えねぇけどな」
だが龍見はその偉人の声がまるで聞こえていないかのように、
「さぁて、僕は今日こそ月島さんとお話を……」
なんて言いながら、偉人の脇を通って教室へと入っていく。
―――皆、誰しもが触れられたくない秘密を背負っている―――
そんなことを、このときの偉人はしみじみと思っていた。
次回はいつになるかわかりませんが、なるべく期間があかないように頑張ります。