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吸血神姫《ヴァンパイア・プリンセス》  作者: 瓜姫 須臾
序章 「目覚める」少女・月島礼羽
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第21話 魔物と戦闘と謎の二人組

お久しぶりです。お待たせしており申し訳ありません。

それでは、どうぞ。


「爆裂しろっ! おらぁ!!」


 斐甲は、鬼の力で強化した拳を突き出す。


 敵に触れた途端、その体は膨らんで爆発した。


 耐性のない者が濃い妖力に触れた時、細胞は膨張し、やがて器が耐えきれなくなると破裂してしまう。

 その現象を利用して、攻撃手段に転化したものだ。

 彼はこの技に爆裂と名付け、妖でない者へ攻勢に出る際に愛用している。


 戦闘に入ってから、体感で三十分くらいか。

 景や斐甲の見立てでは、不定形な体をした敵は妖の類ではないと考えられる。

 何かしらの力を感じ取れはするが、妖力でも霊力でもないのだ。

 異界からの襲撃ということから考えても、この世界にいる既存の異形とは違った生態をしていることは想像に難くない。


 際限なく湧いてくる不定形の敵を、三人で協力しながら、ひたすらに殲滅しているが、いつまで湧き続けるのかわからない以上、消耗は避けたいところである。


 斐甲はなるべく練り上げてある妖力を消費しないよう、徒手空拳と少量の妖力で済む技のみを使用していく。


「“加重”!! はぁぁぁあっ!!」


 重力干渉を発動した彼方は敵周辺の重力のみを強くし、敵を地面へと叩きつける。

 斐甲が徒手空拳で敵を叩ける隙を作るためのサポートである。

 彼女の異能はあくまで精神を基にしているため、やりすぎれば精神が擦り切れ、脳が破壊される。

 なるべくサポートに徹して乱用しないよう、斐甲と景がしっかり様子を確認しながらの戦闘である。


 景はというと、攻撃対象以外の敵から攻撃が来そうになると、すかさず印を切り、詠唱して結界を張って防いでいた。


「“高等結界、一の技【守護霊】”」


 幼い頃より三人での戦闘訓練も多くこなしてきた。

 攻守サポートのバランスが取れた三人組なのである。


「にしても、これいつまで続くんだぁ!?

 際限なく湧きすぎだろうっ!!」


「はぁ……はぁ……少し、疲れてきた、かも……」


「カナ、無理せず休め。 俺の周りに多重結界を張ろう」


 景は、自らの手にはめていた数珠を胸元にしまう。

 そして、帽子を脱ぎ捨て、前を見据える。

 あらわになった銀髪は月光に照らされ、普段は帽子の影に秘されている見開かれた両の目は、青銀色を呈する。


 身に纏う衣服は光とともに神主の服へ代わり、神を奉る神職の系譜を継ぐにふさわしい静謐さを備えている。


「“天に座す、高天原の神に希う。

  ここに、天上の護りを与えたまえ。

  我が名──厳島の神主が末裔、景の尊を守護せし天の女御、夢見る子を見守るように”」


【よかろう、我が社の護人の血を引きし人間(我が子)よ。

 我が庇護の力を使うが良い】


 凛とした声で紡がれる言霊は、天の神に聞き入れられる。


 景だけに聞こえる老齢な女性の声。

 それは、我が子の願いを聞き入れる優しさと威厳にあふれたものであり。

 何より、景が力を借りている守護神のものに相違なかった。


「……ありがたき幸せ。

 我が氏神への御礼に、後ほど我が身で舞を奉納させていただこう」


 無事に力を借り受けられたことに安堵しつつ、お礼をするという意思表示も忘れない。

 神というのは得てして気まぐれなものだが、簡単に拗ねてしまう稚児の如き無邪気さをも併せ持つ。

 お礼は必要ではないと建前では言っていても、心の中ではがっかりしてしまうこともあるようだ。

 力を貸してくれている神にそのような思いをさせたくはないし、純粋にいつも守護してくれることへの感謝はきちんと伝えたい、と景は思う。


「景くん……。 ありがとう、少し休ませてもらうね」


「クロも無理せず、こっち来ていいからな。

 多重結界は展開済みだ」


 景が結界を張ったのを見たからか、彼方は少し気が抜けたようだ。

 いくら戦闘慣れしていると言っても、まだ高校2年生の少女だ。

 気力の消耗が速いのも仕方ない。


「あぁ、景、やばくなったらそっちいくぜ!!

 おりゃあっ、爆裂!!」


「あらあら、わたしのかわい子ちゃん達にそんな乱暴はやめてくださいますぅ?」


 調子良く爆裂で異形の敵を駆逐していた斐甲にかけられた声。

 それは、聞き覚えのある誰の声でもなく。

 大人の色気を感じるけれども、それ以上に危険な存在だと本能が告げる。

 そんな声の持ち主は、斐甲の近くにある木の影から月明かりの元に進み出てくる。


 黒い魔女服のようなものに身を包んだ、女性。

 その服装は、ロープの間から見える範囲でも豊満な体つきを惜しげもなく全面に出しているとわかる。

 銀髪に赤い瞳の女は一見すると慈愛にも見える微笑みを浮かべているが、その真っ赤な唇は不気味なほどの円弧を描く。


「っ! 誰だっ!!」


 突然現れた怪しい女に、最大限の警戒をしながら問う斐甲。

 その声で、景も彼方も謎の女に気付き、改めて戦闘態勢を取る。


「自己紹介がまだでございましたわねぇ」


 あえて緩慢に、傲慢に。

 優美に、淫靡に。


 丁寧な中にも狂ったような悍ましさを孕んだ、そのお辞儀とともに。


 女は自分の名を口にする。


「わたしは【宵の魔女】セラータ。

 どうぞお見知りおきを」


 彼女は、なおも楽しそうに口を開き続ける。

 愛しい者を親しく呼ぶように。

 ともに楽しいことをするのだと歓喜する少女のように。

 しかしそれは、セラータ以外の3人にとっては絶望の時間。

 必死に気を奮い立たせている3人の顔に微笑ましいとさえ感じながら、その顔が絶望に染まるのを想像して。

 彼女は逸る気持ちを抑えられず、軽く舌舐めずりをする。


「……だけど、ねぇ。 うふふ。

 あなたたちには、今ここで死んでもらうわぁ。

 痛くしちゃったらごめんなさいねぇ」


 言い終わる前に、セラータは彼方に狙いを定める。

 そして、跳んだ。


******



「転移装置で送り出されたはいいものの、ここって校門付近だよなぁ」


「鬼くん達は校庭側の異形に対処してるって話だけど……」



 一方その頃、偉人と礼羽は斐甲達とは反対側の校門付近に来ていた。


 瑠としては、校庭側は斐甲達3人とその他の職員で問題ないと判断したらしい。


「木の影とかから敵意を感じるには感じるけど、なんだか近寄ってこない……?」


「まあ、光の加護を俺ら二人にかけてるからってのはあるだろうけどな」


「光の加護ってそんなに恐れられてるものなの?」


 ふと疑問を感じた礼羽は、光の加護について偉人に問うた。


「光の加護といっても、俺がかけたのは力関係でもかなり上位にいる龍の扱うやつだからな。

 しかも俺は龍を束ねる光龍の息子だ。

 龍の血を引く者は傅き、それ以外の者からも畏怖される立場にある」


「イクトってやっぱすごいんだね……」


 礼羽から褒められたことが嬉しかったのか、偉人は少し誇らしげにしている。


「こう見えても光龍寺の名を語ることの許された、成人として認められた龍のはしくれでもあるからな。

 何気に人の血を引く中で名乗りを許された者は俺が初めてなんだぜ」


「光龍寺……?」


 こてんと首を傾げた礼羽に、彼は「あぁ、そうか」と一人納得して補足を説明し始めた。


「異形の世界で光龍の文字が入った苗字を名乗るのは、龍の中でも光龍自らが力を認めた者のみなんだ。

 名乗りを許されるということは、一人前になったことでもあるし、他の奴らに対して「それだけ力がある」って証明にもなる。

 異形含めたこういう裏社会は、基本的に弱肉強食で力がある者が上位だからな」


「そうなんだ……。

 イクトは異形達の中でかなり強いんだね。

 その、一つ気になったんだけど、種族によって成人の年齢も違うの?」


 偉人にとっては当たり前でも、礼羽にとって当たり前ではない。

 それをよく理解している偉人は、聞かれたことへの答えも律儀に返していく。


「あぁ、そうだな。

 俺の父さんをはじめとした龍族は17歳が成人だ。

 17年生きると、成体っつって立派な龍の姿を取れるようになる」


「吸血鬼は?」


 龍が17歳と聞いて、礼羽は自分が血を引く吸血鬼も気になったらしい。


「吸血鬼は、16歳だ。

 基本的には、吸血鬼も人間と同じような速度で身体が発達するからな。

 身体が出来上がるだろう年齢に設定されてるんだ。

 ただ、吸血鬼は16歳になったら「吸血初め(ちすいぞめ)」を行うし、その後の老化はものすごく遅くなる。

 それこそ不老不死に近くなるし、ちょっとやそっとの病気怪我では死ににくくなる」


「吸血行為か……私はまだしたことないかも」


 偉人は、母から引き継いだ吸血鬼の知識もちゃんと持っている。

 説明を受けている礼羽は、明日からでも両親にしっかりとした講義をしてもらおうと心に決めた。


「吸血行為をするのは、おじさんとかおばさんに聞いてからにしたほうがいいだろーな。

 血を吸うにも、モラルとかまあ色々あるし。

 そこらへんは純血の筆頭であるおじさんが詳しいだろうよ。

 とりあえず成人についてはそんな感じだけど、寿命が長い種族ほど100歳とか超えても若造扱いされるんだよなぁ……」


 偉人は吸血鬼の血も引き継いではいるが、彼の母は人間と純血の吸血鬼との混血児だ。

 故に吸血鬼の血は人間の血と同じく、たったの4分の1程度しかその身に流れていない。

 断然、龍の血の方が濃いのである。


「帰ったらお父さんとお母さんにも聞いてみるよ」


「そうだな、それがいいと思うわ。

 さてっ、ちゃちゃっと片付けますか」


 妖力などの不思議な存在を知覚することのできる者のみが見える、非知覚性の光。

 偉人の体から大量に放出されたそれらは、偉人の体へと纏わり付き、鎧の体を成していく。


「龍の力を使うのは久々だが……手加減はしねぇからな!」


 叫ぶが早い、神力にも近しい神聖さを持つ光の力を周りの異形達へと叩きつける。


「“光に呑まれ、虚空へと至れ。 汝らには神の裁きを与えよう”」


 偉人の手の平の上には光の球が作り出され、指向性のあるビームが一気に標的目掛けて放たれる。


「“光耀の血を継ぐ我が光龍寺偉人の名において、汝らに終焉を”」


「すごい……偉人、あっという間に……」


「……えげつねーっすけど、あんた背中ガラ空きだぜ?」


 偉人の戦闘見て感想を呟いた礼羽の耳元で、ぞくりとするような声で囁かれた。


 瞬間的にその場から退避しようとしたが、声の主の方が一歩早く、礼羽は体を動かせなくなってしまった。


「……っ!? いやっ!!」


 動かせる範囲の視界から見るに、体中が闇のような色をした何かによって拘束されており、背中には何かを突きつけられている。


「あんなヤバい奴と一緒にいるからさぞ戦闘慣れしてるのかと思いきや、全くのど素人だったか。

 あっさり捕縛できてびっくりだ……ちゃっちゃかコイツだけでも連れて姐さんのところにズラかるべきか?」


「離してっ!!」


「離さねーよ、あのヤバい奴への牽制にもなるだろうし。

 オレらの目的は、お前らみたいな半妖どもだからな!」


 背中に突きつけられていたものが、首元へ移動する。


「下手に動くと痛い目見るぞ?」


「……っ!!」


 薄皮一枚切れたのか、ツーっと首を液体が伝う感覚を覚える礼羽。

 相変わらず、拘束してきた男は礼羽の拘束を解く気がないようだ。


──自分が原因で、偉人の足を引っ張るかもしれないのは嫌だ……!


「礼羽!」


 礼羽の声が聞こえたのか、少し離れた場所からこちらへ来ようとする偉人。

 このままでは、この男の思う壺だ。


「うぁぁぁあ!!!」


「なっ、何…っ!?

 この力は一体なんなんだ……!」


 礼羽は、体を拘束する闇色の物体を無理やり引きちぎって、男を突き飛ばす。

 首が少し切れたが、そんなことは気にしていられない。


 自分のせいで偉人が負けるなんてあってはならないのだ。


 礼羽のその強い感情に、礼羽の中に眠る吸血鬼の血が応えたのである。


「我は闇の眷属、【吸血鬼の双王】の血を継ぐ者!

 “我が声に応え、在るべき姿、仕えるべき主人の元へ戻れ!”」


 直感的に言葉を叫ぶ。

 これを叫べばいい、と血が教えてくれた。


 礼羽は、その直感を信じて従う。


「なっ!? オレの闇魔法が消えただと!!」


「闇と光は表裏一体。 光を統べし龍の番へ手を出す愚か者よ。

 俺の礼羽に手を出すとはな……その罪は重いぞ」


 礼羽が力を使うことを感じとり、気配を消して男の後ろへと回り込んでいた偉人。

 仰々しさも感じる言葉を言いつつ、すぐさま男の首元へ手刀を叩き込む。

 そのまま流れるような手つきで光によって檻を作り出すと、男をその中へと収容した。


 一連の対応を終えた彼は、その足で礼羽の元へと駆け寄った。


「闇の力を早々に操るとはびっくりだ」


「その……他の方法がわからなくて……」


「吸血鬼は、普通武器か爪や牙で戦うことが多いからな……。

 初陣でいきなり闇の力を使うことはあまりない。

 そういえば首……切れてるけど平気か?」


 礼羽は、吸血鬼としての戦い方に疎かったため、偉人もびっくりの高等戦法を使っていたようだ。


 気が動転していた上に、体力を消耗する慣れない力を使ったため、地面にへばり込んだまま動けない。

 礼羽は、体を鉛のように重く感じていた。


 首元が少し切れたことも、正直それどころではなかったため、偉人から言われるまで頭から飛んでいた。


「うん……痛くないし平気」


「ちょっとだけじっとしてろ」


「ひぁっ……!?」


 ぺろり、と偉人によって首元を舐められる。

 予想外の行動に、礼羽は変な声が出そうになるのを堪えきれなかった。


「吸血鬼の唾液には、治癒効果を促進させる効能があるんだ。

 俺の場合、礼羽よりも吸血鬼の血は薄いからそこまで強くはないが……まあ礼羽自身も吸血鬼の血を強く引いてるから元の治癒力と合わさるしな」


「……でもいきなり舐められるのは恥ずかしい」


 偉人になっては傷を治すために当たり前のことをした認識でいたが、礼羽にとって首を舐められるのは当たり前の行為ではない。

 人間的な常識が強い彼女にとっては刺激が強すぎたようだ。


「耳まで真っ赤になってるな……すまん」


「心配してくれたのはわかってるから……大丈夫。

 ありがとね、イクト」


 こつんとお互いの額を当て、抱擁をした。

やはり年一になってしまっており読者の皆様には申し訳ありませんが、地道に更新しますので気長にお待ちください。

どうぞよろしくお願いいたします。

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