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吸血神姫《ヴァンパイア・プリンセス》  作者: 瓜姫 須臾
序章 「目覚める」少女・月島礼羽
19/22

第19話 合流……そして、生徒会長からの助力要請

結構早め(当社比)に書きあがったのでアップします。

 斐甲(くろこう)ら三人は、主階段の壁に開けた穴から、地下3階へと足を踏み入れていた。


「……なんかいかにも研究施設って感じだな」


「もしかして、最近よく聞く『紺碧の騎士団』の本部って、案外ここだったりするのかな……」


「……紺碧の……騎士団か」


 三者三様な反応を示しつつ、歩く三人。

 景は彼方が口にした「紺碧の騎士団」に、何か思うところがあるのか、少し考え込んでいる。


「景は、紺碧の騎士団にお世話んなったことがあるんだったか?」


「……まあ、な。

 俺の家は代々、自分たちの力だけで異能を守ってきたが、次世代の俺を生み出すため、協力を仰いだというのは聞いている」


 元から感情表現が控えめであり、普通の人が見たら些細すぎてわからない景の変化に目敏く反応した斐甲。

 幼い頃から一緒だからこそ、斐甲と彼方は景の事情もある程度は知っている。


「そっか……」


「クロとカナの家は関わりがないんだったか?」


「私の家はそうだね、あんまり関わりないかも。

 あ、でも分家の人たちがどうかまではわからない……」


「俺の家は基本、秘術を外部には漏らしたくない派だ。

 何より、こういう組織だと俺らの祖先様を狩ってる系の奴らもいるから、狙われかねねぇしな」


 お互いの家について話しつつ、警戒心は保ちながら先へ進む三人。


「……礼羽ちゃん達、なんかへんなことに巻き込まれてたりしないか心配だね……」


 ふと彼方が呟く。


 礼羽と偉人がいなくなったのはおそらく、この施設を拠点としている何者かと関わりがあるのは明白だろう。

 彼方としては、その何者かによって二人が危険な目に遭っていないかが心配なのである。


「まあ、たぶん偉人も一緒だろうし、大丈夫だとは思うけどよ。

 あいつ、相当強い戦闘能力持ってそうだしなぁ……」


「そういえば、堂島は結局見当たらなかったな……」


 偉人は隠し通せていると思っていたようだが、斐甲達にはしっかり正体を悟られていたらしい。

 景は、一緒にペアを組んでいた龍見がどこに消えたか気にかかるようだ。


「龍見はまぁ、こんなところ発見してたら嬉々として探索してそうだわ……まあ、なんだかんだ平気だろ」


「そうかなぁ……それはそれで、堂島くんが危険なことしてないかが心配だなぁ……」


「堂島も一緒にいてくれると良いのだがな……」


 景は自分がトイレに行ったせいではぐれてしまったことを気に病んでいる。

 だが、斐甲はここまで妖力による気配察知へ何も反応が引っかからなかったことから、龍見は危険な目に遭っていないと判断していた。


「ところで、さっきの話に戻るけど、桐生くんはそんなに強いの?」


「……偉人は、おそらくだが神類の血を引いてるだろう」


 霊感の強い(かげる)に至っては、偉人の血に流れるその力の正体にかなり近い部分まで感づいているようだ。

 それに、彼方は少し目を丸くする。


 神類……神の血を引くとなると、こうした裏社会でもかなり上に食い込む能力を持つということになる。

 そんな存在が普通の高校生として人間の学校へ通っているとは、誰も思いもしないだろう。


「俺らよりも存在の格は上だわな、やっぱり。

 あとはたぶん、月島もおそらくだが何かの血を引いてるだろ」


「えっ、礼羽ちゃんまで?」


 彼方は他の2人に比べると、気配察知には長けていない。

 サポートといっても、数瞬先の未来を予知することと、重力に干渉することくらいしかできない。

 彼女の母は生粋の予言者一族出身なので、もっと広い範囲の時間に対して未来を見る事ができる。

 しかし彼方自身はというと、まだ力を使いこなせてるとは言い難く、空宮特有の重力干渉の異能を扱う方が性に合っている。

 空宮家において、気配察知に関連した異能を発言した人が近しい血縁にはいないので、どちらかというと共闘することの多い斐甲や景の一族に任せる事が多い。


 だから、二人が気付いていることであっても、彼方だけ知らないことの方が多い。


「まあ彼方は気配に関する能力はないだろうし、気づかないのも無理はないな。

 人間の異能者家系なら、妖力を感じ取る訓練もないだろうし……」


「クロは鬼の血をひいてるから妖力には敏感だろうが、彼方は人間だから仕方ない」


「全然気づかなかった……。

 毎回二人に頼りっぱなしだから気配察知とか判別くらいはできるようになりたいのになぁ……」


 霊視力を持つ景はもちろんのこと、鬼の血を引く斐甲も妖力を扱った気配察知ができる。

 二人が偉人と礼羽の正体に感づいたのはそうした能力によるものが大きい。


「しかし、この施設は念入りな妨害をする仕掛けがあるな……」


「景の霊視力を妨害するって相当だな。

 俺の鼻も利かねぇし……」


 普段なら、景や斐甲の察知能力で簡単に居場所を突き止めるくらいできるのだが、そこはさすがに謎の組織の基地らしい。

 景の霊視力を持ってしてもそう遠い範囲まで感じ取れないよう妨害する波のようなものが常に漂っている。

 同じように、斐甲の規格外の嗅覚も阻害されているらしい。


「……っ!

 まて、二人とも足を止めろ」


 嗅覚を阻害してくる波だが、幸い耳には影響がないらしい。

 数メートル先からこちらに向かってくる足音を、彼は聞き逃さなかった。


「……何かが近づいてくる」


「クロ、力は待機させておいてくれ。

 ようやく視えたが、相手はおそらく一人だ」


「……つまり月島さん達じゃないってことね。

 彼方は、俺と景の後ろに隠れとけ」


 いつでも臨戦態勢になれるよう警戒を強めつつ、足音が近づくのを待つ。


「……おやおや、皆様お揃いのようですね。

 お待ちしておりましたよ、(きさらぎ)の麒麟児と厳島(いつくしま)の神童、そして空宮の至宝」


 その言葉と共に、三人の前に姿を現したのは、他の誰でもない生徒会長・巫開(ふかい)(りゅう)だった。


「……生徒会長……?」


 最初に驚きの声を上げたのは、彼方であった。

 彼方は、その幼い容姿には似合わないような落ち着きある態度の彼を見るのが初めてだったので、無理もない。

 普段は幼い容姿も活かしつつリーダーシップを発揮できる振る舞いを研究し、もう少し幼さのある雰囲気しか見せていない。


「……瑠」


「……やあ、景。

 さて、紺碧の騎士団本部へようこそ。

 今日は僕が皆様をお迎えにあがりました。

 姫と殿下は、貴方がたを応接室にてお待ちです」


 景に対して陰った顔を向ける瑠だったが、すぐに元の表情に戻ると三人についてくるように促す。


「やっぱ彼方の予想通り紺碧の騎士団かよ……。

 つか、姫と殿下って一体……?」


「……もしかして礼羽ちゃん達のこと、とか?」


「異能に引っ張られてるのか、彼方の予想はドンピシャで当たっからな……おそらくそうだろうよ」


 斐甲と彼方は自分達を待っている存在が気にかかり、首をひねる。

 そんな二人を他所に、景は前を往く瑠の背を見つめていた。



──どうして、自分を頼ってはくれないのだろう。



 そう、心で問いかけながら。



「……ところで、なあ、景。

 お前の主人がここの関係者なの、お前知ってたか?」


「……いや。

 瑠は、俺に肝心なことを教えてはくれないからな」


 珍しく、少し寂しげな景の肩をポンと叩いた斐甲は、


「……そうか。

 あんま、思いつめんなよ。

 誰だって、周りに言えないことは抱えてる」


「……気遣いをさせて、すまない」


 景をそっと励ますと、遅れないように歩き始める。



 しばらく、無言で歩く。

 自分達にとって敵が味方が判断できない組織の本拠地と分かった今、不要なことを口に出して記録を取られたりしていたら困るのもあるが。

 単純に話をする雰囲気でもなかったのである。



「この先が応接室です。

 さあ、どうぞ」


 突き当たりまで歩いたところで、瑠が軽く手を振るう。

 瞬間、わずかに光った呪術の陣によって、壁に擬装されていた扉が姿を表す。


 三人とも呪術は見慣れているため、特段驚きはしない。


 ツルツルとした壁ばかりの施設であり、何らかの呪術によって制御していることも察していた。

 斐甲達の家も一部分は似たような作りになっているため、こういう裏世界の施設となれば割とスタンダードな作りなのかもしれない。


「……!!」


 しかし、開かれた扉の先にいた人物の姿に、三人は困惑した。


「本当に、月島さんと偉人か……?」


「……クロ、間違いないぞ」


 応接室に入った三人が見たのは、普段と違う姿をした礼羽と偉人。


 景は霊視力によって二人が本物で間違いないことを確認したらしく、すぐに落ち着きを取り戻したが、他の二人は呆気にとられたままだ。


 普段の姿からは全く違った髪色に服装となると、驚くのも無理はないかもしれない。


 鮮やかな金髪と真紅の瞳に、巫女服をアレンジしたようなバトルドレスという姿の礼羽。

 その傍らには、銀髪に蒼碧の瞳に、狩衣と西洋風の鎧を合わせた装束を着る偉人。


「心配かけちゃってごめんね、三人とも……ってあれ?

 堂島くんは?」


「堂島はまあ、うん、やっぱいないよな……あいつ絶対この組織側の人間だろうし」


「えっ、そうなの?」


 呆気にとられる三人へ、心配をかけたことを謝ろうとして、礼羽は一人いないのに気付く。

 龍見も一緒だと思っていたのだが、別行動らしい。

 それに対し、偉人は「やはりか」と言った表情をする。


 瑠に促されて三人は室内へ入り、ソファの近くまで歩きながら、礼羽と偉人へと話しかける。


「ら、礼羽ちゃん……その姿は……?」


「あっ、えっと……その、吸血鬼……らしい?です……」


「まだ礼羽は血に目覚めたばっかだから、いわゆるひよっこなんだ。

 斐甲とかの方がよほど先輩だろう?」


 彼方に質問されてあたふたする礼羽に、助け舟を出す偉人。

 この際だから、斐甲の姿にも言及して同じ側につけようとしているのだろうか。


「まあ、そうだな。

 吸血鬼と鬼は古くは同じ種族だったと伝え聞く。

 妖力の扱いも小さい頃からしてきたから、なんかあれば相談に乗るぜ。

 偉人がいたら必要ないかもしれねぇが、な」


「あぁ、俺は吸血鬼の血が4分の1しか流れてねぇからな。

 俺は妖力よりも、神力とか法力の方が扱い得意なんだ」


 完全な手の内は明かさずとも、礼羽の適切な指南役を得るために一つ肌を脱いだ偉人。

 大切な恋人のためなら、普通は隠したがる得意な分野を明かすことも厭わないらしい。


「ところで、なぁ、生徒会長さんよ。

 堂島龍見……いや、青龍院龍見って俺らと同じクラスにいるやつであってるよな?

 だから俺と礼羽のサポートにふさわしいっつったんだろ?」


 偉人は確信めいた声で、壁際に立つ生徒会長へ声をかける。


「さぁ、ね。

 そこは殿下が彼に直接尋ねてくださいな。

 さて、三人もそちらのソファへどうぞお座りになってください」


 入り口で立ち止まっている三人を席に着かせた瑠は、早速本題を切り出すことにした。


「さて、姫と殿下の協力も取り付けたことですし、お三方にも今回は少しばかりお力添えいただきたいことがあります」


「斐甲らまで巻き込んで、一体何をしようとしてるんだ」


 真剣な表情で語り始めた瑠に対し、少し突っかかる態度を引っ込めた偉人が問う。


「この学園を異界からの襲撃から守るお手伝いをしてほしいのです」


「異界からの襲撃?」


 驚きについ繰り返してしまう礼羽。


 一方、他の人達は誰もが面倒くさいことに巻き込まれたと言った面持ちをしている。


「異界から……ねぇ」


「なんで異界から襲撃されるって分かるんですか?」


 男性陣の声を偉人が代弁し、彼方が純粋な疑問を呈する。


「我々紺碧の騎士団は、皆様のご存知のように世界を観測して予言を紡ぐ役割の者を抱えております。

 その者達より、『今週のどこかのタイミングで異界より襲撃がある』という予言が示されました。

 皆様には、その際の対処をお願いしたいのです」


 瑠は真剣な顔で、言い切る。

 こうした組織では、よく予知能力者をお抱えにしているというのはその場にいる礼羽以外の者にとっては周知の事実であり、特段特殊なことでもなかった。

 代々未来予知の能力を持つ彼方の母方の親戚は、実際、そうした組織に囲われる代わりに保護してもらうと言った契約を結び、生き延びてきた者も多くいる。


「で、その防衛に協力したとして、俺らに何かメリットはあんのかよ?」


 異界と聞いて面倒くさそうな顔をした者達の総意を、偉人が言葉にする。

 瑠は、その答えを予想していたようで、


「この組織が、皆様の後ろ盾となりましょう。

 緊急事態に陥って力を使ったとしても、その力を隠匿するお手伝いをいたします。

 また、我らが蓄えている知識や最新鋭の設備ももちろん使い放題とします」


 メリットを提示してみせる。


「……しかし、家の者に相談せず勝手に決められることではないだろう」


「景の言うことは最もだし、普段なら返答をお待ちする程度の余裕はあるんだけどね……。

 それに、我々も本来なら秘密主義の組織ですし、ここまで大出血サービスなんてしない。

 ですが、今、世界がかつてない危機に瀕しているからこそ、力ある皆様にお力添えいただくほかないのです」


 そう、力なく俯く瑠の言葉が、言霊として世界に作用したのか。





 瞬間、危険を知らせるアラートともに轟音が鳴り響いた。

次回は、来週ごろまでに書きあがればまたアップします。

スムーズな更新ができるよう、書き溜め作りも頑張ります……。

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