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吸血神姫《ヴァンパイア・プリンセス》  作者: 瓜姫 須臾
序章 「目覚める」少女・月島礼羽
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第18話 施設の見学 / 動き出した三人

お久しぶり……というには期間が空きすぎてしまいましたが、一話分書けたので投稿します。

亀並みの速度ですが、お付き合いいただければ幸いです。

 三人は、札を握りしめながらひた走る。


 景が何かを感じ取った、主階段へと向けて。


「……クロ、念のために『全開』にしておけ」


 走りながらも、景は霊感を駆使して周囲への警戒をしている。


 景は巫女や(かんなぎ)の家系に生まれた霊能力者であり、母方の血のおかげで異能力も使える優秀な人物だ。


 その景がわざわざ、「力を全開に出せるようにしておけ」などと忠告してくるということは、余程の何かが待ち受けているということか。


「ああ」


 斐甲が短く返事を返すと、頷いた景が何やら印を結ぶ。


 瞬間、走る三人をすっぽりと覆う結界が発現した。


 これは、景が手首に身につけている腕輪にはめ込まれた霊石の力を、景の霊力を以て引っ張り出し、結界の形にしているのである。

 神社などにある御神体の力を借りての術には程遠く、正直な話、この結界では絶対的防御とはならない。

 しかし、今ここにいるのはそれぞれ異能力を持つ者であり、幼少期より戦闘訓練を受けてきた者だ。

 それならば、この程度の簡易的な結界であっても、結界内の保護対象となる本人達が攻撃手段を持ち合わせているので充分なのである。

 ちなみに、簡易的とは言っても、結界内の保護対象が動けば共に移動するという機動性を備えた、高等結界の一種でもある。

(通常の術士なら設置型の結界を使用するのでやっとである。)


「斐甲くん、景くん」 


 今度は、周囲がその結界に包まれたのを確認した彼方が声を上げる。


 その彼方の行動で、三人は一旦足を止めた。



 斐甲は、一瞬迷う。


 彼方には、なるべくなら無理をさせたくない。

 彼方が為そうとしていることは、その身体や脳に少なくない負担がある物だ。


 しかし、彼方の真剣な眼差しを見てしまえば。


「…………彼方、無理はするなよ」



 反対することなど、できなかった。


 景は、彼方のことに関しては斐甲に一任しているため、その判断に従うのみ。

 

「カナ、頼む」


 二人から任せてもらえた彼方は、キリッとした顔をする。


「うん、任せて!」


 三人は、少ない言葉しか交わしていない。


 しかし、少ない言葉でも、ずっと一緒に行動してきた幼馴染だからこそ、的確に相手の言いたいことを理解できる。


 彼方が目を閉じ、再度開く。


 一瞬目が光ると、今度は三人の身体が浮き出した。


 彼方は重力へ干渉する異能力を持っている。


 故に、こうして人や物を空中に浮かせて移動させられるのだ。


 どうやら三人は、目的地へ向かって走るのではなく空中を飛んで移動することにしたらしい。


 空中を飛んで移動しているため、斐甲は力を全開にすべく、意識を集中した。

 深く息を吐き出し、周囲の空気を静かに吸い込む。


 深く深く、周りの気を取り込むかの如く。


 走ったがために、わずかに乱れていた息を整える。


 そして、


《我が身に流れし鬼の血よ。

 我が(こえ)に応え、力を貸したまえ。

 我、鬼の血を継ぎし(きさらぎ)一族の末席に連なりし者なり。

 身に授かりし名をば、斐甲(くろこう)と申す》


 口から鍵となる言葉が紡がれる。


 普通ではない、言霊として紡がれる力ある言の葉。


 言霊は力ある言葉故に、口から音として放たれた瞬間、世界へ作用する。

 もちろん、たった今、斐甲から紡がれた物もまた同じである。


 その言霊に乗せられた力は、すぐさま斐甲の体を変貌させようとしていく。



 斐甲は鬼の力を継ぐ(きさらぎ)家の一人だ。


 特に、斐甲は生まれ付き鬼の力との親和性が人一倍強い。

 そのために鬼の力を解放していない時であっても、鬼の姿の時の特徴を隠しきれないでいる。

 例えば、興奮したりすると瞳が赤く光ってしまったり、鬼の角が生える部分に平常時からこぶができていたり。


 そんな、普段は黒髪に紛れているこぶが存在感を増すかの如く鋭利に伸びる。 立派な角へと変貌していく。

 そして、髪はより漆黒に染まり、瞳は色素が薄れて金色に。

 身体付きはいつもよりも逞しくなり、服装が和装になる。

 虎皮の腰巻きが現れて腰に巻き付き、斐甲の姿の変化が完了した。


(ちなみに、これらの変化は常人には認識できない速度で行われたため、三人が目的地の主階段へたどり着くまでに、余裕を持って変化し終わっている。)



「……クロ、ここの壁にぶち当ててくれ」


 主階段に到着するなり、景から指示が飛ぶ。


「…………」


 しかし、斐甲はすぐには動かなかった。

 斐甲も彼方も絶対の信頼を置く景からの指示に対し、珍しく斐甲は戸惑いを感じてしまったのだ。


 何故なら、力をぶち当てて破壊しろと指示されたのは何の変哲もないように見える階段の壁だったから。


「……なぁ、景。 本当に、ここなのか?」


「……あぁ。 俺には、ここの力場に『乱れ』が視える」


 景の霊視を以てして違和感があるのならば、そこに何かが隠されているのは確実であろう。


「…………ここでおそらく、何かの術が動かされた。

 力場自体の乱れに繋がるほど、霊子の乱れが大きい。

 ここまで乱れるということは、相当高度な術式を動かしたとみていいだろう」


 景は壁に触れ、何かをなぞる様に手を動かす。


「術式の残滓みたいなのは残ってたりしないの?」


 斐甲と景のやり取りを見守っていた彼方が口を開いた。


「……残念ながら、残滓は残っていない。

 術式の構成が上手いのもあるだろうが、おそらく術式の使い手自体が、相当な実力の持ち主で手練れなのだろう」


 触れていた壁から手を離し、背後の彼方と斐甲のへ向き直る。


「クロ、おそらくそこそこの力を当てないとこの壁は破壊されない。

 思いっきりやってくれ」


「わかった。 彼方、景、少し離れてろよっ!!」


 そう叫ぶなり、気合いを入れて力を両の拳に集め始める。


 二人の元へ戻ってくる景との立ち位置を交換するように、彼は一歩前へ進み出る。



 拳に集めている鬼の力は、妖力の一種である。



 普段は物質的な形を持たないエネルギーだが、扱える者が扱えば人の意識を刈り取るくらいのことは造作もないほど強大な力となり得る。


 斐甲は鬼の力を使用して体を強化するため、肉弾戦が得意である。

 故に、壁を壊すのであれば必然、それは拳を強化しての物理的な破壊となる。


 握り締めた拳を体へ引き寄せた彼は、息を吸い込む。

 精神を統一させ、一気に前へと突き出した。


 刹那。


 巻き起こる風とともに壁へ到達した拳は、亀裂を生じさせる。


 ドゴォォォンッ!!!


 物凄い轟音と衝撃でよろける彼方や景だが、身体強化をしている斐甲はびくともしていない。


 粉砕された壁の変貌した煙が薄れ、姿を現したのは──


「……なんだよこれ」


「……ここよりも下の階への階段……かな」


「まさか噂話が本当だったとはな」


 こうして夜に学校へ忍び込みに来た本来の目的、「地下三階への階段」だった。


******


 同じ頃、地下四階では────。


「こちらが、能力に開花した者に制御術を訓練させるための部屋でございます」


「制御術……?」


「基本的に、日常生活だと能力を押さえて生活することになるからな……」


 部屋の解説をする瑠に対し、こういった異能と呼ばれる方面には疎い礼羽の頭にはしきりに「?」が浮かんでいた。

 見かねた偉人は、そっとフォローに入る。


「殿下の仰る通り、我らのような普通ならざる力を持つ者は、古からのしきたりによって世間一般の表舞台に立つことを許されておりません。

 それは、この組織が形作られた相当昔からであり、一般人に悟られないよう隠す必要があります」



 ドゴォォォンッ!!!


「……っ!!」


「……おや、地下二階の防壁が力づくで破られましたか」


「せっ、生徒会長はなぜそんなに平静でいられるんですか?!」


 慌てふためく礼羽と偉人を余所に、生徒会長は冷静さを失わない。

 その幼げな容姿からはかけ離れた大人な精神性を持っている、と改めて礼羽は感じたのであった。


「この程度の衝撃であれば、大丈夫でしょう。

 この施設は優秀な耐久力を備えておりますし、何より屈強な警備力もありますからね。

 それに……おそらくはですが、姫達のお連れの方々が心配されての行動でしょうからね……」


「私達の連れ……って鬼くん達!?」


「まさかとは思ったが、やはりあいつらもこっち側の人間だったのかよ……」


 素直に驚く礼羽と、頭を抱える偉人。


 それは、一般人だと思っていた3人の友人がまさか異形と関わりのある者だと明かされれば困惑するのも当然だろう。


 一体、一日のうちにどれだけ驚けば良いのだろうか、と密かに礼羽は思っていた。



「彼らも優秀な力の持ち主ですし、いずれはお力添えをお願いできればと思っていたところだったんですよね。

 いやはや、今日はとても良い夜となりそうです」



 生徒会長はその天使のような顔には似合わぬ、意味深な笑みを浮かべているだけだった。


次回は未定ですが、書き上がりましたら更新します。

よろしくお願いします。

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