第17話 意外な人物の登場 / 偉人、啖呵を切る
長らくお待たせいたしました。
ストックは全然ありませんが、ぼちぼちのんびりと更新していこうと思います。
それでは、どうぞ。
「ようこそお越しくださいました」
礼羽と偉人は、その声の主を見て驚きのあまり言葉を失っていた。
「なっ、なんで……」
「瑠様、姫と殿下をお連れしました」
礼羽の言葉に被せるようにして、龍見がその人物へと話しかける。
どうやら龍見にとっては上司のようであり、敬語を使っている。
龍見の言葉を受けたその人物は、天使のような微笑みを浮かべ、両手を広げる。
「うん、ありがとう青龍院くん。
そして、ようこそ我が紺碧の騎士団へ!」
「え?
会長が…………」
「紺碧の騎士団の関係者だったんですか?!」
なぜ、こんなにも礼羽達が驚いているのかと言うと、その人物が二人もよく知る人物だったからだ。
その人物とは、幼い容姿に反する知的な瞳を光らせているとは考えられない、色で表すなら真っ白で純粋な微笑みを浮かべた生徒会長・巫開瑠その人であった。
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「クロっ!! 彼方っ!!
堂島見てないか?!」
いきなり後ろから聞こえる焦ったような声。
斐甲には誰の物なのかすぐにわかった。
だが、それでもいきなり後ろから声をかけられて驚いてしまったために、心臓がヒヤリとするような感覚に襲われた。
一方の彼方は、いつもと変わらない表情をしている。
「うぇっ?!
ってなんだぁ、景かよ……。
で、なんだ? 龍見がどうかしたのか?」
珍しく慌てている景の様子を見て、何かあったのだろうと察した斐甲は表情を引き締める。
「堂島が…………」
「「堂島くん(龍見)が?」」
彼方と斐甲が声を揃えて、龍見の名を口にする。
景の言葉を待ちつつ、生唾をゴクリと飲んでしまう。
どうにも嫌な汗が止まらない。
もしも、龍見の身に何かあったら。
最悪の結末が頭をよぎる。
それは、この肝試しを発案した斐甲の責任である。
「…………いなくなった」
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「さあ、姫、殿下。
こちらへおいで下さい。
私達、今日は精一杯のおもてなしをいたしますから」
敬語を話す生徒会長とそれに付き従う龍見と凛に連れられ、礼羽と偉人は地下三階へと来ていた。
正直に言って、礼羽と偉人は困惑していた。
「あの……」
「どうしましたか? 姫」
「……会長もこの組織に関わってたんですね」
「瑠様はこの年齢にしてすでに人望厚く、幹部を取りまとめ、実力もあるために大佐であられる。
姫や殿下のすぐ側でサポートに……」
「いや、姫と殿下のサポートには青龍院中尉に回ってもらうことにしたよ」
龍見の声を遮り、生徒会長……もとい瑠が言った言葉へ、龍見は驚きの表情をする。
「何を仰いますか。
これは私めに務まるはずなどない、大切な役目でございます」
「いや、青龍院くんならできる。
むしろ君以外に適任はいないんじゃないかな?
学校生活も一緒に送れるし、ね」
なにやら龍見は焦ったように言うが、瑠は意に介さない。
龍見が適任だと言うと、瑠は凛の方へ向く。
「鈴宮凛特尉。
今を以て、貴官を少尉に任ずる。
青龍院中尉の補佐として、姫と殿下のサポートを手助けせよ」
凛へ、普段の容姿に相応しい幼い声音を一切感じさせない威厳に満ちた声で命令を下す瑠。
凛は特に戸惑う様子もなく、素直に片膝付き頭を垂れる。
「確かに承りました。
命を賭して任を遂行することを誓います」
感情に乏しい声で誓う凛。
「ちょっと待ってください!
瑠様!! 何故、凛の階級を……」
「青龍院龍見中尉。
貴官は、上司である私の命が聞けぬと申すか」
龍見の反論に対し、かなり声を低くする瑠。
その変化に合わせ、口調も立場と相違ない威厳あるものに変わる。
「……出過ぎた真似でございました。
どうかお許しを……」
「わかってくれたならいいよ、青龍院くん」
いつもの学園での姿からは想像もつかない瑠のその姿に、礼羽と偉人はぽかんとしているしかなかった。
「さて、では殿下と姫は私についてきてください。
青龍院くんと鈴宮さんは、ボクの側近の指示に従って明日からの準備に入ってくれるかな」
「承知しました。
行くぞ、凛」
「はい」
瑠からの指示で、龍見と凛は部屋から出ていく。
見送った瑠は礼羽と偉人に向き直り、
「さあ、殿下、姫。
私達も行きましょう」
瑠に促され、その後ろへ続く二人であった。
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「堂島いたか?!」
景が焦ったような声とともに駆け寄ってくる。
「いないわ……」
彼方が沈んだような表情で告げた。
「俺の……せいだ…………」
いつもは明るくてムードメーカーな斐甲でさえ、思いつめたような表情をしている。
もっとも、斐甲の場合は自分が今回の肝試しの言いだしっぺであるので責任を感じていたのもあったのだが。
「……とにかく、あっちを探してみよ?」
あまりにも沈痛な面持ちをしている斐甲を見かねたのか、少し明るめな声音でそう二人を促す彼方。
「ああ、そうだな」
その気遣いを見抜けないような景でもなく、彼方の言葉に賛同する。
三人は幼少の頃からずっと一緒だった幼馴染なのである。
これくらい、なんてことなく言葉にしなくともお互いを理解し合っていた。
「ねぇ、なんか変じゃない?」
三人で探すこと数十分。
さすがの三人も異変に気づいていた。
「いくらなんでも、礼羽ちゃんと桐生くんに会わないのはおかしいよね?」
かなり動き回ってるはずなのに、まったくもって礼羽と偉人に会わないのである。
「こりゃ、もしかしたら……」
「クロ、準備しとけ」
そういって目で合図し合う斐甲と景。
それに、彼方もその二人のやり取りの意味を正しく理解した。
「景、頼んだぞ」
その斐甲の言葉を受けた景は、ひとつ頷くとそのまま静かに目を閉じる。
何かに集中するかのごとく、微動だにしない。
何か目に見えない物を感じ取ろうとしているかのように。
ひたすらに静かに。
数秒間そのままの状態を続けた景が、口を開く。
「…………主階段の壁に何かある」
すぐに斐甲と彼方は頷き合って、それぞれ袖から札のような物を取り出した。
「景、お前は後方支援!!
俺に何があっても、必ず彼方を守りきれよ!!」
「斐甲、お前は力に呑まれるなよ」
「わぁーってるよっ!!」
その斐甲の言葉とともに三人は一斉に駆け出した。
景が何かを感じた主階段の方向へと。
一体、景は何を感じ取ったのだろうか。
すぐにその正体を、三人は知ることになる。
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同時刻。
礼羽と偉人は、瑠に案内されて組織内を見て回っていた。
「ここで、動物を使っての呪術実験を行っております」
「動物?」
礼羽は瑠の言葉に反応する。
「大昔は人間を使うこともありましたが、ここ最近は少子化も進んでおりますし、倫理観の問題も叫ばれていたので人体を使った実験は堅く禁じられております」
「組織に倫理観……。
はっ。 初めて聞いたな、そんなの」
瑠の言葉を鼻で笑う偉人。
本来の偉人は、学校の先輩であり生徒会長である瑠に向けてこんな態度を取るようなことはない。
だが、今の偉人はそういう態度を隠そうともしない。
なぜかといえば、それはもちろん、瑠が『紺碧の騎士団』の一員だと分かったからに他ならない。
夕方、家で母から忠告された組織の一員ともなれば、自然と警戒と不信な目で見てしまうのは仕方ないといえる。
この変化に一番驚いていたのは他でもない礼羽である。
偉人のすぐ隣に立っているものの、裏世界についてまだなにも聞いたことなく、ほとんどわからないからだ。
「殿下はご両親からいろいろお聞きになっているのかもしれませんが、それらは全て古い情報……。
過去の組織像でございます」
瑠は気に障った様子を見せることもなく、さらりと偉人の言葉を否定してのける。
「ほぅ?」
半信半疑な偉人に、瑠は組織に入って確認してみてはどうかと提案する。
礼羽は固唾を呑んで、その二人のやりとりを見守るしかなかった。
「いいだろう、会長の言葉通りの組織になっているのか俺の目で確かめてやる」
「それはつまり、組織にお力をお貸しいただけるということですね?」
偉人は、瑠の言葉へ乗ることに決めた。
理由としては、自分が一緒なら何があろうとも礼羽だけは守り抜ける自信が偉人にはあったからである。
「ああ。
お前らが変なことをしない限りはな。
ただし…………」
そこで、一旦言葉を区切る偉人。
刹那。
その背後から、目に見えない圧倒的な力のようなものが溢れ出る。
ただ、礼羽の目にだけはしっかりとその圧力の正体が見えていた。
それは、通常ではありえないほどの濃密な妖気。
おそらく、殺気も混ざり合っているだろう。
そして、
「礼羽に何かしてみろ……。
タダじゃすまねぇからな?」
普段の彼からは想像もつかない、ドスの効いた声で言葉を放つ。
普通、妖気が実際に圧力として感じられるなんてあまりない。
それだけ、今の偉人は濃すぎる妖気を出しているということで。
それに、人をそれだけで殺しかねないほどの殺気が混ざり合ったことでよりすごい圧力となってしまっているのだった。
「それでもいいですよ、殿下。
我々はお二人のお力をお貸ししていただけるだけで十分なのです。
こちらはお二人からお力をお貸しいただくために、お願いしているという立場ですから……」
と、瑠は二人に対して謙った態度を示し、自分たちは危害を加えたりしないということをアピールしている。
「……その言葉、相違ないな?」
偉人は少し発する圧力を弱め、確認をとる。
「もちろんです、殿下。
そして、殿下と姫を付け狙う輩は我々がこの身を賭して滅ぼすと誓いましょう」
瑠は、勝ち誇ったような微笑みを浮かべて、偉人の言葉に頷き、二人の身の安全に死力を尽くすと宣言する。
それを見て偉人は、鋭くなっていた目つきを少し和らげる。
そしてそのまま、
「お前たちがその言葉を違えない限り、俺は礼羽とともに力を貸そう。
だが、違えた場合、俺も礼羽もここを去る。
そして、光り輝く龍の眷族と闇に生きる吸血鬼の一族から裁きが降り注ぐことを忘れるな」
力を貸すと改めて言った。
裏切った場合の忠告とともに。
「ありがとうございます! 殿下、姫」
瑠は心の底から笑みを浮かべた。
「……おっと、結構ここで話し込んでしまいましたね……。
では、殿下、姫。
時間も押しております故、早速、次の部屋へご案内しましょう」
壁の時計を見て少し慌てたように瑠は次の部屋へと促す。
そこで礼羽と偉人は、瑠の見ていた壁の時計へと目をやる。
確かに瑠の言うとおり、結構話し込んでいたようだった。
時計の針はもう十時半を指そうとしていた。
そういえば、突然連れてこられたせいで、斐甲たちには何も知らせていない。
あまり長時間ここにいては、あの四人に心配をかけてしまうだろう。
突然姿を消してしまったことになるのである。
そろそろ二人がいないことに気づかれてもおかしくない。
そう考え、ずっと口を挟めずに呆然と瑠と偉人のやりとりを見守るしかなかった礼羽は、ここでようやく口を開いたのだった。
「ええ、はやく回ってしまいましょう」
「では、ついてきてください」
瑠は礼羽の言葉を受けて歩き出した。
それを見て、礼羽が偉人へと顔を向けると、向こうもちょうど顔をこちらへ向けていた。
礼羽は本当について行くのか確認を取るためだったのだが。
そんな礼羽の心を読んだかのように、静かに頷く偉人。
礼羽の意図はしっかり偉人に伝わっていたのだろう。
そのときの偉人の目は、どこか綺麗な蒼い色をしているような気がした。
優しい目をした偉人。
先程までの殺気や鋭い目は嘘だったかのようだ。
礼羽がそんなことを思いながらじっと見つめていると、ほんの数瞬だったのにも関わらず、偉人の頬がほんのりと朱色に染まる。
「まっ、まぁ、あんまり斐甲たちを待たせて心配かけたらまずいしな」
それだけ言って顔を逸らすと、偉人は先に歩き出していた瑠へついていく。
礼羽もその偉人にクスリと笑うと置いて行かれないようについていった。
(これから先、どんな困難が待ち受けようとも、私はずっと偉人へついていくよ)
そんな想いを胸に秘めながら。
このときの礼羽はまだ、どんな運命に巻き込まれていくのかまだ知らない。
それでも一筋縄では行かない運命の許に生まれてしまったのだと言うことは予感していたのかもしれない。
お読みいただきありがとうございます。
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