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吸血神姫《ヴァンパイア・プリンセス》  作者: 瓜姫 須臾
序章 「目覚める」少女・月島礼羽
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第16話 再びの邂逅

お待たせしました。


それでは、どうぞ!!

「なあ、礼羽……」


「どうしたの、イクト」


 今、二人は懐中電灯の灯りのみを頼りに、暗い夜の校舎を歩いていた。


 そんな中、何かを感じ取ったらしい偉人が礼羽に声をかけたのだった。


「何か感じたの?」


「……ああ。

 この先の主階段に誰かいるな」


 偉人はどうやら人の気配を感じたらしい。


 ということは、肝試しに来たメンバーのうちの誰かがいるのかもしれない。


「その気配って、人間……だよね?」


「おそらくは……な。

 礼羽もよく耳を澄ませるようにしてみろよ。

 たぶんこの程度なら、お前でも気配を探れるはずだ」


 礼羽の問いに少し迷いを見せつつ答える偉人は、ついでに礼羽へ気配察知の手ほどきを軽くする。


「……こう、か……な?」


 礼羽は自分の中に流れる熱い「何か」を耳へ集めるようにして、音を聞くことに集中する。


 すると、すぐに前方にかすかな息遣いの音を感じる。


 おそらく、これが偉人の感じた気配なのだろう。


「何か、押し殺したような息遣いが聞こえる」


「ちゃんと気配察知できてるみたいだな。

 だけどもっと細かい気配察知をしようと思えば、暗視スコープ並みかそれ以上の視覚情報も得る事ができるのがこの技術。

 だから、後でもっと精度をあげておいた方がいい」 


 礼羽の呟きに、満足そうに頷く偉人はついでに気配察知の説明をつけ足す。

 礼羽は、自分で理解した仕組みであってるのか偉人へ訊ねて確認する。


「これって、自分の中の妖力で五感を強化してるってこと?」


 礼羽の予想は当たっていたようだ。

 その証拠に、偉人は少し笑みを浮かべながらさらに説明をし始めた。


「その通りだ。

 だから、妖力の扱いが長けている者は変化しなくとも変化時と同等の実力を発揮できる」


「変化時よりも変化していない時の方が身体能力とかが格段に劣るはずなのに?

 まあそれでも、普通の人間に比べたら明らかに高性能なんだけど……」


 通常、吸血鬼を始めとした異形達の中で強い力を持つ者は人化の能力を持つ。

 その人化した状態では、本来の姿をしている時よりも全ての能力において制限がかかり、性能が落ちる。

 それは、人の血を継ぐ者であっても同じ事。

 人の姿の時は力が抑えられており、妖や異形の姿の時には自身の力を十二分に発揮できるのだ。


 これはもはや自然の摂理らしい。


 人間の姿型はどうやら自然と力を抑えてしまうという特性があるらしい。

 その特性を持つ人間の姿は、力を無駄に浪費することや強い力が無闇やたらに周囲へ影響を及ぼすことを防ぐのには打ってつけなのである。

 今では、強い力を持つ異形達は力を抑える為に人間の姿になる人化の術を身につけるとまで言われているくらいだ。


 それが偉人の言うところによれば、力を上手く扱える者は人間の姿であっても本来の姿と変わらない力を発揮できるのだという。


「そうだ。

 妖力によって、身体能力や反応速度、脳の回転率を強化することができる。

 だから、これを極めることは自分の身を守る力を身につけるのにいいとされている」


 という理由らしい。


 礼羽は偉人の話を「なるほど」と頷きながら聞いている。

 礼羽はまだまだ吸血鬼としては目覚めたばかり。

 偉人は幼少期からすでに力に目覚めていたらしく、礼羽にとっては頼れる先輩である。


 偉人は偉人で、礼羽の事をしっかりと面倒見るつもりのようで、今は熱心に気配察知の手ほどきをしてくれている。


「わかった、頑張る」


「おう。

 ……ん?

 なんか妙だな」


 偉人が急に顔を進行方向へ向ける。


「……なんかの術を動かしたか?」


「……?

 でも、全然敵意も悪意も害意も感じなかったけど……」


 偉人の呟きへ即答する礼羽。


「え? ……って礼羽、お前まさか……相手の敵意とかそういうの感じ取れんの?!」


 偉人の言葉に、礼羽は少し首を傾げる。

 その凄さを全く理解していないらしいということをすぐに理解した偉人は、それも仕方ないかと思い直す。

 礼羽は今日、力に目覚めたばかりだ。

 だから、まだ異形達の間の常識というものを知らない。


 礼羽が何とはなしに行った、悪意等を感知するのは特異な才能が必要となる。


 そしてその才能は、異形達の中でもほんの一握りの者達しか持ち得ないもの。


 いくら強い力を持とうとも、その才能がなければ扱えない技術。


 恐らく、父から受け継いだ力のうちのひとつなのであろう。


 普通の吸血鬼には決してあり得るはずのない力である。


 だが、現に礼羽はこうして扱っている。


「礼羽が今やった、害意や悪意を感じ取ることはな、普通できないんだ。

 特別な才能が必要になるんだ」


「異形達も?」


「異形達も普通はそんな技能もってない。

 そういう才能を持って生まれた一部の限られた奴だけ使えるんだ」


 そう礼羽に説明しながら、偉人は幼いころに母から聞かされた話の一部を思い出していた。


――――吸血鬼が他の異形から狙われやすいという事実を。


******


「いい? 偉人。

 吸血鬼はね、すごく狙われやすいの。

 だから、常に周囲へ警戒を張り巡らさなければダメよ?」


「はい、母様」


「それとね、ちゃんと日々の訓練や鍛練を怠らずに力を磨かなければね」


「はい。

 『じぶんのみはじぶんでまもれ』だよね」


「そうよ。 よく出来ました。

 そしてこれから話す話はね、出来ればずっと覚えていて、吸血鬼としての後輩に出逢った時に伝えてほしいの。

 もちろん、後世にも伝えて行ってほしいの」


 そんな会話をすると、偉人の母は話し始めた。


******


 偉人はその話を思いだす。


 吸血鬼が狙われる理由。


 吸血鬼の持つ力。


 吸血鬼の掟。


 吸血鬼の狙われる理由について説明してしまえば。


 体内に取り込んだ他者の血から生命力を蓄えるという吸血鬼の性質上、その血肉には他の生物など目じゃない程の生命力が秘められている。

 その血肉を摂取すれば、普通では治ることのない不治の病などが完治したり、死にかけの者さえ全快すると言われている。

 故に、人間のみならず他の異形からでさえ狙われやすい。

 異形の中でも強い部類である吸血鬼をそう簡単に仕留められるはずがないのに、多くの者が危険を冒してまで手に入れたいと夢見るのだ。


 そんな風に吸血鬼達は常に悪意や敵意、害意などに晒されてきた。


 やがて、吸血鬼を統治する立場にある【吸血鬼の双王】のうちの片方が、自らの周辺へ向けられる害意や悪意、敵意を感知する力を身につけたのだ。


 そしてそれは偉人の母曰く、礼羽の父の方なのだという。


 吸血鬼の間で口伝されている話では、どちらの王なのかまでは伝えられていないらしいが。


 それなら本人に聞いてしまえばいいのではとも思うのだが、それを母に言ってみると、「それは吸血鬼という種族の存亡に関わる危険性があるために、本人達はどちらが身に付けたのかを口にすることはない」と言われてしまった。


 だから、確認が取れていないが礼羽が使ったのだから、恐らくは礼羽の父がその能力持ちの吸血鬼なのであろう。


 そう偉人は自己完結した。


「まあ、その能力で敵意とか感じられないのであれば、おそらくは大丈夫だろう」


「じゃあ、進む?」


「ああ。

 何があっても、俺が必ず守ってやるから」


 偉人はさらっとそんなことを言うが、それは礼羽にとって赤面モノの言葉だったようだ。

 言われて数秒の間に熟れたリンゴのように真っ赤な顔になってしまい、カクカクとぎこちなく頷くので精一杯な礼羽であった。


 まあ、それも仕方なかろう。


 何せ、人間社会の常識が少し欠如していることや礼羽がいることもあり、忘れられがちだが偉人も間違いなく美男子である。

 美男子から「俺が必ず守ってやるから」とか言われたら、余程特殊な性癖の持ち主でない限り、女性ならときめいてしまうものだろう。


 当の本人は、何故礼羽が赤面しているのかイマイチよく分かっていないようだったが、とりあえず礼羽の手を取って前へと進み始めたのだった。


******


「あ、そろそろ姫と殿下が来るね」


「はい、龍見様」


 主階段の所にいる二人。


 礼羽達がその存在に気づく前に、二人は礼羽達に気づいていた。


「さて、今度はちゃんと引きこまないとね」


「はい。

 凛は、龍見様の仰せのままに」


「ああ、期待してるよ」


 そんな会話をして、礼羽達が来るのを待つ。


 二人と礼羽達が邂逅したのは、その会話の数分後のことだった。


******


「お待ちしておりました。 姫、殿下」


 礼羽と偉人が主階段で遭遇したのは、目元を仮面で隠した少年と昼間に会ったばかりの水色の髪をした幼馴染であった。


 仮面の少年の正体について、偉人に心当たりはなかったが、礼羽の顔が強張ったのを見て昼間の件と関係あるのだろうと悟る。


「あなた達は……」


「……凛がなんでここに?

 それにお前、どっかで……」


「殿下、それは気のせいではないでしょうか。

 あ、いえ、気のせいではないかもしれませんね。

 今日の昼間、姫の覚醒を促すためにお二人の前へと姿を現しましたから」


 そういう龍見は、付け加えて「まあ殿下はその時、凛のナイフで生死の狭間を彷徨ってましたから覚えておいでではないでしょうけど」と言った。


「やっぱりタツミなのね。

 私の覚醒を促すってことは……」


「はい、凛は龍見様の命令でのみ動きます」


 その言葉に、凛へと向けて礼羽から僅かに放たれていた殺気が龍見へと向く。


 方向が変わったと同時に、急に殺気が膨れ上がる。


「まあまあ、姫。

 そんなにカリカリなさらないでくださいな。

 せっかくの可憐なお顔が強張っておられますよ?」


 殺気などどこ吹く風とばかりに、顔色一つ変えない龍見。


 それは、礼羽の殺気など取るに足らないと言われているようなものだった。


「今回は、お二人を組織の見学へとお誘いに来たのですよ」


 龍見はそういうと主階段の壁を指し示す。


「ようこそ、我が『紺碧の騎士団』へ!!」


 そう言い放ち、龍見は礼羽と偉人の返事を聞く間も無く腕を引っ張り、壁に現れていた扉の中へと連れ込む。


 礼羽と偉人の二人は戸惑いつつも、さすがに凛と龍見からは敵意を感じないのでとりあえず、おとなしくついていくことにした。

ようやく次回、礼羽と偉人が組織へと足を踏み入れます!!


ついでに他の肝試しのメンバーは一体どうしているのか近いうちに書こうと思います。


感想等いつでもお待ちしております。

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