第15話 肝試し開始 / 動き出した二人
お待たせしました。
なかなか話が上手く進んでくれなくて……
それではどうぞ!
「そういえばさ、イクト。
どうして堂島くんの髪、短くなってたんだろう?」
「たぶん、クラスの女子からイジメられでもしたんだろ」
礼羽の問いに興味なさげな偉人の返答。
「イジメなんて、許せないわね……。
……もしかして月乃あたりなのかしら?」
だが、礼羽はクラスにイジメ問題があるということが本気で許せないようだ。
口から出た言葉よりも、本人から発せられた怒気の方が明らかに大きい。
礼羽の口から出てきたクラスメイトの名を聞いた偉人は、礼羽の勘に対してなかなか鋭いなと思いつつ、
「大方そうだろうな。
まあ確かにイジメてる奴らも悪いが、クラスで猫被ってる堂島だって悪い」
と返答する。
確かにいつも龍見のことをイジメるのは大抵そのクラスメイトとその取り巻きであった。
しかも至極どうでも良い理由でイジメは行われていた。
どこの世もそれは同じかもしれないが。
理由は簡単。
龍見が女みたいで気持ち悪いから。
オカルトが好きな根暗だから。
鈍臭くて、見ているだけでイライラしてくるから。
そのくせ気にくわないことに、なんか地味に美少女みたいな顔してるから。
気持ち悪くて気にくわない奴の顔が、苦痛に歪められているのを見るのが楽しいから。
加えて龍見は普段、クラスでキモくて鈍臭く振る舞っている。
これではイジメの標的にしてくれと自ら言っているようなものだ。
しかし本来の龍見の雰囲気を知れば話は違ってくる。
いくらクラスの中でも気の強いことで知られている月乃達でさえ、恐ろしくて声をかけるどころではなくなってしまうだろうと偉人は思っている。
妹・夏樹以外はどうでもいい。
誰が怪我をしようが、病気になろうが。
自分の行動によって、不幸になってしまう人が出てくるとしても、意に介さない。
全ては夏樹のため。
それだけを信条に生きているのだ。
「へっ?
堂島くんって猫被ってるの?」
だが、偉人のさも当然と言った口調で言った事実に礼羽は目を丸くしていた。
どうやら、龍見がクラスで見せている姿が本物だと思っていたらしい。
それも、裏の世界に通じる者以外には知る由もないのだから仕方がないのかもしれない。
「礼羽、あいつはただのヘタレでキモイ奴じゃねぇよ。
妹以外は死のうが不幸になろうが知ったこっちゃない。
妹には超がつくくらいな過保護シスコンで、それ以外の興味ないモノへは冷酷非情。
それが、堂島龍見という男だ」
「そうなんだ……
なんかイメージ崩れるね」
礼羽は呟く。
「ま、龍見に関する話はここまで。
それよりも今は、探索に集中しようぜ」
それから二人は取り留めのない会話をする。
今、二人は夜の校舎へと足を踏み入れていた。
「……組織が使用していると噂される“存在しないはず”の地下三階。
そこへ繋がる階段の扉……」
「んなもん、歴代の先輩達が探してるだろっつうの。
ってか、あいつら……“紺碧の騎士団”がそんな重要なモノを簡単にわかるようにしてるわけねぇだろうに……」
「確かに……」
偉人の言い分に頷く礼羽。
確かに、世間から姿を隠している組織ならば、その存在を知られるような物を素人にわかりやすく放置しているはずがない。
「まあ、見つからなきゃ諦めんだろ」
「それもそうね」
そんな会話をして校舎内を歩いていく二人。
その様子が誰かに監視されているとは夢にも思わず、二人は校舎中央に位置する主階段へと向かっていく。
まさか、主階段であの二人に再び相見えることになるとは。
******
「斐甲くん。
地下三階なんて、本当にあるの?」
「さあな。
とりあえず、探してみりゃわかるだろ」
「まあね」
こちらは彼方と斐甲のペア。
「……なあ、彼方」
「何? 斐甲くん」
「お、お前はその……」
話を切り出したのは斐甲なのだが。
話しづらいことなのか、言いよどむ。
その斐甲に対して彼方は、こてんと首を傾げる。
可愛らしい彼方の仕草に、斐甲思わず魅入ってしまう。
これが、女の子の魔力なのだろうか。
「すっ、す…なひ……かいるのか?」
所々、斐甲の声は弱々しくなるので大事な部分と思われるところを、彼方は聞き取ることができなかったようだ。
傾げた顔を元に戻して、頭に「?」マークを浮かべているような表情をする。
それは余計に可愛さが倍増する仕草であり、今の斐甲にとっては逆効果になってしまう物だったようだ。
林檎みたいに真っ赤な顔になってしまい、
「……やっぱ、なんでもない」
と一言呟き、顔を背ける。
彼方が「え?! なんで?」とか「あっ、待ってよ!」と呼びかけるのも聞こえていないかのように、ひとりでスタスタと歩いていってしまう。
彼方は自分が何か気分を悪くすることでもしたかな、とか考えながら斐甲の後を追いかけていく。
どうやら彼方は「他人からの好意」という物に対し、かなり鈍感なようだった。
******
その頃、残り一組のペアは。
「……堂島」
「なんだ、厳島」
何とも言えない微妙な雰囲気になっていた。
「……少し、用足してきても良いか?」
「ああ。
それじゃ、ここで待ってるから早くしろ」
正直に言って龍見は、少しゆったりしている寡黙な景に対して少し苛立ち始めていた。
「すまない。
……すぐ戻ってくる」
「ああ、行った行った」
龍見は謝る景にひらひらと手を振り、気にしてないから早くしろという意図を伝える。
それに景が申し訳なさそうな表情を浮かべつつ、近くのトイレへと足早に駆けていく。
それをひとり見送る龍見。
「さて……」
龍見は景の気配が完全に遠ざかったのを確認すると、静かに自らの秘める力を動かす。
指先へと力を集め、術を構築する。
そして、廊下の壁へと手を触れる。
「……《閉ざされし扉よ、今我が聲に応え開きたまえ。 ……開扉》」
龍見の口から、言霊が聲として紡がれる。
静かに呟かれた言霊は、確かに『世界』へと干渉する。
刹那。
龍見の触れている壁が変化する。
あっという間もなく、先程まで存在しなかったはずの巨大な扉が現れる。
「……龍見様、よろしかったのですか?」
「いいんだ。
今日は姫と殿下のお迎えでもあるのだから」
そこへ誰もいないはずなのに龍見へかけられる声。
声の主の姿は見えないが、龍見は平然と答える。
理由は単純。
その人物は龍見の部下である少女に他ならないからだ。
「それよりも、凛もそろそろ出てきておいて」
「はい。
龍見様の仰せのままに」
凛は何もない宙空から姿を現す。
それは、明らかに常人ではできない業。
「昼間の対面があんな形だったから、凛には少し殺意を向けてくるかもしれないけど……」
「凛は平気です。
龍見様の気を煩わせる必要はございません」
「すまない、凛。
損な役回りばかり押しつけることになってしまって」
「謝らないでください、龍見様。
役目ならば、凛は喜んで死地にでも赴くのですから」
終わりのない押し問答に陥りそうになるが、凛の言葉で龍見もとりあえずは引き下がる。
「まあ、今は姫と殿下をもてなすことだけ考えようか」
龍見がそう言うと、心なしか凛の目も少しは微笑んだようだ。
「――――さあ、夜の宴の始まりだ」
次回は今度こそ戦闘シーンが来るかも…?
もしかしたら戦闘の手前で終わるかもですが。
感想やご指摘、お待ちしております。
それではもうしばし、おつきあいくださいませ!




