第13話 両親の告白 / 偉人の家族
今回は、礼羽と偉人が家族と会話します。
「私の……ため?」
礼羽は、今までに見たことのない両親の真剣な表情に戸惑っていた。
「この世界でね、人と人ならざるモノ生まれた存在はそう多くないの。
特に、礼羽ちゃんの場合はお父さんが【吸血鬼の双王】の片割れ。
それだけでもいろんな者が様々な理由で近寄ってくるの。
どこから狙われるのかもわからない」
「それにな、礼羽。
お前には、未来を自由に選んでほしかったのだ。
吸血鬼として生きるか、人として生きるか……」
両親は礼羽のためを思って隠してくれていたようだ。
だが礼羽としては、「最初から正直に教えてくれていても良かったのに」というのが本音である。
「私のためだって言うけどさ……
私にだって知る権利はあると思うの。
だから……」
「知りたい」と「知りたくない」の間で葛藤しつつも言葉を紡ぐ。
逃げないで向き合わなければいけないから。
向き合って答えを出すのは自分自身だから。
父だって、ついさっきどう生きるのかは礼羽自身に選んでほしいと言ったばかりだ。
「だから、ちゃんと教えてほしい。
私のこと、お父さんとお母さんのこと。
私の知らないこと全部」
礼羽が言葉を言い終わるまで、両親は静かに聞いていてくれた。
礼羽の意思を確認するかのようにジッと見つめて。
「……良かろう。
お父さんとお母さんから教えられることは教えよう。
さっきも言ったが、お前の未来はお前の物だ」
「礼羽ちゃんがどんな生き方をしてもお母さんとお父さんは応援するから」
両親は真剣な表情で礼羽の意思を受け止めてくれた。
それに礼羽は、
「ありがとう、お父さん、お母さん」
心の底から感謝を伝える。
その言葉を受けて、両親ともに表情を優しく緩める。
人間でも人間じゃなくても、やっぱり家族っていいなと思う礼羽。
そんな礼羽へ、
「これからは、お父さんとお母さんが吸血鬼としての修行をつけるからな」
と、父は優しい表情を保ったまま言う。
その言葉に一箇所だけ違和感を覚える。
今、父は吸血鬼としての修行をつけると言った。
そこは別におかしいとは思わない。
問題は、その前の言葉だ。
「……え?
おっ、お母さんも?」
礼羽は動揺を隠さずに母へ問う。
父に関しては、今日一日通してすごい存在なのだと複数人から説明されたのだから、否が応でもわかるしかない。
しかし、お母さんは普通の人間のはずで。
だけど父は、母とともに吸血鬼としての修行をつけると言った。
なら、何故お父さんはお母さんも一緒に修行をつけるとか言ったんだろうか。
なんとなく雲行きが怪しいと思いつつも、
「えっと……お母さんはサポートだけだよね?」
母へ確認する。
「サポートだ」と言ってくれることを期待して。
だが母は、礼羽の期待を裏切った。
「え?
違うわよ、もちろん」
しかも即答。
だんだんと嫌な予感が確信に変わってくる。
「あっ、もしかして……」
急に心得たと言わんばかりの顔になって話し始めた母の言葉を聞くなと、礼羽の本能は言っている。
しかし、意識は母から逸らせない。
「礼羽ちゃんはお母さんのこと、普通の人間だと思ってたかしら?」
「にっ、人間以外の選択肢なんてあり得るの?
だって、お父さん吸血鬼なのに私は半分人間なんだし…………
お母さんが人間以外、あり得ないよね?
……というか、お父さんもそうなんだけどさ。
実際どこからどうみたって言われるまでもなく、お母さんは普通にしか……」
「実はお母さんね…………今はもう人間ではないのよ」
……はい。
この答えも、さっきの表情が変わった時点で予想はしてた。
でも、同時にあり得てほしくはなかった。
母だけは普通の存在でいてほしいというのが礼羽の望みだったのだが。
その望みは呆気なく破り捨てられた。
よく考えてみれば、明らかに凄すぎるこの父と結ばれてる人が、普通なんてあり得るはずもないのに。
もう、なんで自分の周りにはこんなに普通じゃない存在が集まっていたのか。
むしろ今までよく気づかなかったね、私?!
なんてひとりでに突っ込みたくなる礼羽。
……もう、なんだか笑えてくる。
そんな思考を一瞬、頭の中で繰り広げた礼羽は現実へと意識を向ける。
いくら現実逃避しようとも、これは変えようのない事実らしい。
いや、途中から想像してたんだから心の準備はしてたはずだけど、やっぱり……
「ええぇぇぇぇぇええっ?!」
礼羽にとってこれは、叫ぶほどの衝撃的事実だった。
しかも、「今はもう」って言ったってことは、後天的に人間じゃなくなったってことだ。
そんなことできるのはこの場に限るなら、一人しかいない。
まさか……
「お母さんも、お父さんの力で吸血鬼へと変えてもらったのよ」
やっぱり。
お母さんもお父さんのおかげで、既に人間ではなく吸血鬼になっていました。
******
一方その頃の偉人は。
家につくなり、早速母の許へと向かっていた。
今日のことを報告するためだ。
「ただいま、母さん」
リビングに入りながら、母へ帰宅の挨拶をする。
母はいつも通り、リビングのソファに腰掛けていた。
偉人の母・星羅は、一見すると20代のお姉さんに見える。
偉人だって、自分の母じゃない赤の他人だったとしたら、うっかり一目惚れしかけるかもしれない。
それくらいに綺麗だ。
そんな母は昼間礼羽に言ったとおり、人間ではない。
【吸血鬼の双王】の片割れの血を継いでいる、半人半吸血鬼だ。
恐らく、この世界で一番礼羽に近しい存在だろう。
紫がかった長髪が、母の振り向く動作とともに揺れる。
そして、母の紺色の瞳が偉人の姿を捉える。
「あら、お帰りなさい偉人。
……顔がにやけてるわよ?」
母はいつも通り返してくれるが、その言葉からしてどうやらもう、偉人が今日したことは知っているようだった。
まあ、きっと父から知らされてたんだろう。
「……そんなに、顔に出てる?」
「そこまででもないわよ。
だけど、お母さんにはわかるわ」
その言葉で、そこまで表情に出ていたわけじゃないとわかりホッとする。
そんな偉人を見て、
「まあ、別に偉人の場合は顔に出てても、何にも言われなさそうだけどね」
と言う。
「え?
それ、どういう意味?」
偉人はその言葉の意味が理解できず、聞き返す。
聞き返された母は、
「だって、偉人と礼羽ちゃんが付き合うのは時間の問題だろうって、みんな思ってたはずよ?」
息子の反応を見て、自覚してなかったのかと少し呆れていた。
「とりあえず、よかったわね。
まあ、まだまだこれからだけどね」
だけど、さすがに祝福するのは忘れない。
「ありがとう、母さん」
「明日にでも契約しちゃいなさいよ?
礼羽ちゃんからの契約はもうしてるし、礼羽ちゃんだから逃げることはないと思うけどね」
「わかってるよ。
それに明日じゃなくて今日の夜、契約してくるよ」
母の忠告に少し訂正を入れながら、わかってると頷く偉人。
その言葉に母は、
「今日の夜、出かけるの?」
偉人が言外に出かけてくると伝えたのをちゃんと理解していた。
「夜の学校にな」
「紺碧の騎士団には気をつけなさい。
普通な者達もいるけど、狂ってる奴らもいるのだから」
「……わかってるよ」
それは偉人もよく知っていた。
母の言う狂った奴らのせいで、今日久方ぶりに再会した偉人の幼馴染は、おかしくなってしまっていたのだから。
一体どんな目に合わされていたのか……。
きっと、想像を絶するような酷い目に合わされていたに違いない。
「さて、そろそろお父さん呼ぼうかしらね」
「……そうだな」
「あなた、偉人が帰ってきたわよ」
この話題はここまでと言わんばかりに、母は父を呼ぶ。
刹那。
家中に光が溢れる。
光の嵐が収まる頃には、リビングの中央にひとりの男性が現れていた。
「さっきぶりだな、偉人」
偉人によく似た髪の色と癖。
偉人よりも少しつり目だが、「偉人があと数年ほど年をとったらこうなるだろう」みたいな顔をしている。
つまり何が言いたいのかというと。
その人物は、紛れもなく偉人の父・龍皇であるということだ。
「父さん。
その……」
「なぁに、怒ってもいなければ、礼もいらん。
父として当然のことをしたまでさ」
「さて、今日は祝いだ!
偉人が想い人と結ばれた記念すべき日だ!」
この男性が龍達を統べる神・光龍だと、誰が気づくだろうか。
昼間に偉人の許へ現れたときは本来の姿である光龍の姿をしていたが、もちろん今は人の姿である。
「今日は丁度普通じゃないメニューにしてたのよ。
タイミングがよかったわ」
父だけでなく母もかなり嬉しそうだ。
「じゃあ、準備手伝うよ」
そんな二人に、偉人は手伝いを申し出る。
人間じゃなくても、関係ない。
ウチは家族全員、ほぼ人間ではない。
だけどこんなに、両親ともに子供を溺愛するような温かくて優しい家庭を作っている。
そんなことを、両親と食事の準備をしつつ偉人は考えていた。
この時の偉人はついでにこんなことも思っていた。
――俺と礼羽も、こんな温かい家庭を作れたらな、と。
礼羽の周りは両親含め普通じゃない存在が集まっていました。
そして偉人は今回思ったことを無事に実現できるのか、楽しみですね!
感想等、いつでもお待ちしております!




