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吸血神姫《ヴァンパイア・プリンセス》  作者: 瓜姫 須臾
序章 「目覚める」少女・月島礼羽
12/22

第12話 それぞれ帰宅

今回もサブタイトルと内容があってません!(←自信満々に言うなって話ですよね…)


初めて、夏樹と龍見という双子兄妹の絡みを書いてみました。

「はい、というわけで最近は不審者とかも増えてるから気をつけて帰るように。

 以上」


担任の叢雲先生の話が終わる。


「起立、礼」


『ありがとうございました』


「んじゃ、また明日な」



毎日のやりとりを終えると先生はすぐに教室から出て行く。



まるで先程の総会での出来事など無かったかのように。


周りの皆の様子を見てると、全部嘘だったのではないのかと思えてくる。



でも。




「…………っ」



爪で手首の皮膚を引き裂いてもすぐに元通りに再生する。




そう。




私の体自体が、先程までの出来事の証明なのだ。



「夢……じゃないのね」



そう呟いた時、



「そうだ。

 夢なんかじゃねえよ」



と声がかけられる。



礼羽は声のした方向に振り返る。




「イクト……」



「確かに礼羽にとっては今日は今まで知らなかった事を初めて知って不安かもしんねぇ。

 でもお前には俺がついてる。

 …………俺にとっては礼羽と通じ合えた今日は、一生のうちで一番幸せだ」


礼羽を安心させようと精一杯頑張ってくれている偉人。



その気遣いに礼羽は嬉しくなる。


だから、


「……ありがと」




偉人に感謝の言葉を伝える。



今は、恥ずかしさから少し顔を逸らしてボソッとしか伝えられないけど、いつかはちゃんと目を見ながら笑って伝えられるようになりたい。



そんなことを思っていると、



「そっ、そんなことより、早く帰って肝試しに備えようぜ」



偉人に「早く帰ろう」と急かされる。



礼羽にそのそっぽを向いた顔は見えなかったが、耳は真っ赤になっていたのでどういう表情をしているのかは容易に想像できた。



「ふふっ。

 うん、そうだね。

 帰ろっか」



そんな偉人が可笑しかったのか、礼羽はクスッと笑ってから同意の言葉を言って帰り支度を始める。


礼羽は準備ができると、偉人と二人で教室から出て家路についた。




******

同じ頃、礼羽の家では。



「さて……と。

 今日はお祝い……かしらね?」



礼羽の母・裡々羽がぽつりと呟く。



「リリ……」


「あ……あなた!

 礼羽ちゃんが血に目覚めたようなのよっ!!」



タイミングを図ったかのように、裡々羽の呟きと同時に姿を現すひとりの男性。



どことなく吸血鬼の時の礼羽と似た深紅の瞳。



髪は吸血鬼姿の礼羽のよりも少し白っぽさを増したような色素の薄い金髪。



背丈は大体偉人と同じくらいだろうその人は正真正銘、礼羽の父であり「吸血鬼の双王」と謳われる二人の王が片割れの瑰王かいおうである。



「そうか。

 ついに……」



何やら感慨深そうな顔をして呟く瑰王。




「あとね、さっそく礼羽ちゃんは契約をしたみたいなの」



「なっ、なんと!

 それはまた驚きだな。

 いやはや、いくら我が子とてそこまでやりおるなんてな……」



裡々羽の言葉に少々大袈裟に驚く瑰王だが、その言葉とは裏腹に顔にはさも「当然だ、我が愛娘なのだからな」とでも言うような誇らしげな表情が浮かんでいる。



「簡易的な契約みたいだけどね……。

 ただ……」



そこで少し声のトーンが曇る裡々羽。



その変化を敏感に感じ取る瑰王。



「どうした?」



「相手が純粋な人間じゃないの」



「ほう。

 ……して?」



裡々羽は瑰王の見極めるような視線を受けて、



「…………ふふふっ。

 嬉しいことに、偉人くんなのよ」



意を決したように、一気に明るい声のトーンへと変える。



その名前を聞いたとたん、瑰王の顔が一気に綻ぶ。



「それは真かっ?!」



「ええ!

 もう、一安心よっ!」


「良かったな!

 これで我が家も安泰だな」



二人はその後、しばしの間抱きしめあってはしゃいだのだった。




******


「に、兄さん。

 ほら、帰るよ」


「あ、夏樹。

 ちょっと待ってくれよ。

 すぐに帰り支度すませるからさぁ」


夏樹は今、兄のいるクラスの入り口に立っていた。



兄と一緒に帰るためだ。



夏樹だって本来なら兄とではなくて仲の良い友達と一緒に帰りたい。



だけど、兄はひとりにしておくと同じクラスの気が強い女子生徒からいじめられてしまう。




そんなのはさすがにかわいそうだし放っておけない。




そこで思いついたのは生徒会役員である妹の夏樹が一緒に帰るという方法だった。




「……なんで…………」



夏樹は無意識で何かを呟きかけて我に返る。



そして、呟いても意味のないことだと気づき口を閉ざす。




そこへ、



「…………やっ、やめ……」



「はっ!

 誰にモノ言ってるの?

 口の利き方が違うんじゃないの?」


兄の声とともに、気の強そうな女の子の声が聞こえてくる。



どうやら兄は、クラスの気の強い女子軍団に絡まれてしまったようだ。


何はともあれ近づいてみなければ詳しい状況がわからない。



わからなければどうにもしようがない。


夏樹は意を決して教室へと足を踏み入れ、その現場へと近づいていく。



すると、



「おっ、お願いしますからぁ……

 かっ、髪だけは……」


「アハハハハっ!

 ねぇ、聞いた?

 こいつ、『かっ、髪だけはぁ~』だって!!」


「キモッ」


「キモ男のクセに」


「女かっつうの!」


なんていうやり取りが聞こえてくる。



見れば兄は、3、4人の女子生徒に囲まれてしまっていた。



どうやって割り込もうかと夏樹が考えていたとき、女子軍団のリーダーらしき女子生徒がついに兄へ手を挙げた。



「じゃあ、そのご自慢のながぁい髪をサッパリしましょうか!!」


なんて叫びながらハサミを片手にしばってある兄の長い髪を、結んであるあたりからバサリと切り落とす。


瞬間、



「ああぁぁぁぁあああっ!!」



教室中に兄の悲痛な叫び声が響き渡る。




「ちょっ、ちょっとあなた達!

 にっ、兄さんになんてことしてくれたのよ!!」



その絶叫している兄の顔を見て思わず、兄を取り囲んでいた女子生徒達へ声を荒げてしまう。



女子生徒達の顔が不愉快げに歪むのをもろともせず、その輪の中へと割って入り兄に近寄る。




「ぼっ、僕の……髪が…………………

 ……………………ふっ。

 せっかく…………伸ばしたのにね」



「にっ、に……いさ……ん?」



「あぁ夏樹……。

 ちょっと待っておいで。

 すぐに片付けよう。

 そしたら二人で早く家に帰ろうね」



ヤバい。



兄が本気になってしまった。



夏樹としては、この現状は目を背けたくなるほどまずい状況だった。


兄は普段、クラスではへらへらと気味悪いヘタレキャラでいる。



しかしそれが兄の本性でないことくらいは夏樹にだってわかることだ。




本来の兄は血も涙もない冷徹な性格だ。



夏樹には優しくても、赤の他人へは容赦なく非道な行いをやってのける。



「兄さん、私は今日早く帰りたいからさ……

 そんな人達放っておいて、早く帰ろう?」



夏樹はなんとか兄を止めようと試みる。



「髪ならまた伸ばせばいいじゃない。

 ……ね?」



「また伸ばす……か。

 この僕の髪はそんな安いものじゃないんだよね。

 まぁいいや。

 今回は夏樹に感謝するんだな。

 じゃあ帰ろうか、夏樹」



何だかんだ言いつつ、夏樹の試みは成功したようだった。



「あんた達、あんまり兄さんを怒らせないでよね?

 私でも間が悪いと止められなくなるんだから」



ホッと胸をなで下ろしつつ、兄に絡んでいた女子達に忠告してから周りに構うことなく兄の手を引っ張り、教室から出る。



「兄さん。

 なんでそう、周りを見て行動しないの?」



教室から出ると早速夏樹は、疑問を兄へぶつける。



「僕にとって、夏樹以外はどうでもいいんだよ。

 …………いや、夏樹とあの子以外はね」



いつも通り、「夏樹以外はどうでもいい」という。



でも今日は夏樹以外の存在を初めて口にした。



それは夏樹にとっては予想外だった。



「兄さん?

 もしかして、誰か好きな人が……?」



「そっ、そんなわけないさ。

 たっ、ただ気になってしまうだけで……」



(いや、それを恋と言うんじゃないんですか、兄さん……)



兄のとんちんかんぶりに、思わず突っ込みたくなる夏樹であった。




******


数十分後。



礼羽は家についた。



家に入ろうとする。




「…………」




でも、礼羽にとってはやはり今日の知った事の衝撃が大きかったのか、玄関の戸のドアノブに手をかけることを躊躇う自分がいた。



「おかえり、礼羽ちゃん」



思い切って手をかけられないまま立ち尽くしていると、戸が開いて中から母が出迎えてくれる。



母・裡々羽は、


「今日はお父さん帰ってきたし、礼羽ちゃんにとって大切な日になったから夕飯頑張って作っちゃったわ。

 ふふふっ♪」



なんて言いながら、中へ入るように促してくる。



「おかえり、礼羽」



「あ、お父さん……」



家の中へ入りリビングへ行くと、今日知った中で一番衝撃のデカかった人間じゃない父と顔を合わせる。



「そして、おめでとう礼羽。

 ついに血に目覚めたんだな」



「お母さんもお父さんも嬉しいわ。

 礼羽ちゃんが血に目覚めてくれて」



「……なんで今まで教えてくれなかったの」



礼羽は喜ぶ両親へ静かに問う。



「それはな……」



「……あなたのためだったのよ、礼羽ちゃん」



父と母はその言葉を言うとともに、今までに礼羽が見たことのない、真剣な顔つきになったのだった。

どうでしたでしょうか?


感想等お待ちしております!



そろそろ夏樹視点の閑話書きたいなーとか思ってます(まだ書く時期未定ですが…)



これからもよろしくお願いします!!

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