第5話
第5話
「紅龍輸送隊への攻撃にぬかりはないだろうな?」
テリー・ライアット大佐はオペレータに確認をした。
「現在、交戦中であります。また、それに伴ってブルーサーチから援軍が発進された模様です」
「よろしい、では我々も作戦開始と行くか」
「了解しました」
漆黒の宇宙空間に、艦船のエンジン光がまばゆいきらめきを放った。
月面軍所属の航宙駆逐艦『バルレイ』は、その進路を統合軍軌道要塞『ブルーサーチ』に向けた。
ブルーサーチの戦力が半減したことを狙っての行動である。
現時点での戦況は、月面軍がやや有利になっていた。
それは、すべてテリー・ライアットの考える通りである。その才から、彼は月面軍総参謀長の地位を与えられていた。
「間もなく、ブルーサーチ索敵圏内に進入します」
オペレータの報告に、テリー・ライアットは冷静にうなずいた。
「総員、第1級戦闘態勢に移行せよ!」
高らかに指令を下し、自らも出撃にためにRCデッキへと向かう。
「レーダーに反応なし!」
オペレーターが状況を報告した。
「やはり、出払っていたか」
テリー・ライアットは一人つぶやくと、自ら出撃するためにRCデッキへ向かった。
「後続艦隊に打電、『攻撃を開始する』」
「了解!」
オペレーターの声を後にしながら、その足は次第に速くなっていた。
「どうやら、大佐が目標の攻略を開始した模様です」
月面軍航宙巡洋艦『バックパサー』に乗艦していたカイン・スターバック少将は、『バルレイ』からの報告を聴いていた。
「よし、我らもブルーサーチに向かう」
「了解!」
月面軍にとって、統合軍の軌道要塞『ブルーサーチ』を奪取することは、戦略的に重要な意味を持つ。
統合軍唯一の宇宙要塞だからだ。
外敵を想定していなかった統合軍は、この要塞の戦略的意味を見いだせなかったのである。
しかし……いまは状況そのものが変わってしまったのだ。
月対地球という構図が出来てしまった結果、宙圏確保という観点からこの要塞の存在は果てしなく大きいものになっている。
そして、その重要性を認識する前に奪ってしまうのだ。
月反乱が突発的なものではない証拠であった。
綿密に計画された結果なのである。
紅龍輸送隊は、いわば『囮』であったのだ。
無論、囮であっても結果的に紅龍という技術を手に入れられれば、それはそれで喜ぶべき事柄であった。
ただ、月面軍の真の目的はブルー・サーチ奪取だったのである。
「ふむ、次はシドニーだな」
カイン・スターバックは不敵な笑みを浮かべた。
彼の脳裏には、すでに次の段階に至る作戦の青写真が描かれているのだ。
それはすなわち、『シドニー攻略作戦』に他ならなかった。
すでに火星は月面軍の手に落ちている。
制宙圏は確保した。
そうなると残っているのは本格的な地上侵攻だけであったのだ。
「閣下、輸送隊襲撃部隊から連絡です」
「報告せよ」
「はッ! 想像以上の抵抗により、戦力50%以上消耗、作戦の継続は不可能なり」
カイン・スターバックの顔が曇った。
「消耗率、50%以上だと……」
それは彼の計算を狂わせるものであった。
元々、囮として派遣した部隊ではあるが、優秀な士官とそれに値する戦力を整えたはずである。
「紅龍というのは、それほどまでの兵器だということか……」
暫し黙考していたが、彼の決断は早かった。
「よし、部隊に撤収を命じる。速やかに離脱させろ」
「了解!」
こうして、ますます混迷の度合いを深めていくのである。