第4話
RC2182 第4話
「コイツ、できる!」
新型RC「ハルバード」を受領し、敵輸送作戦を急襲したシェリー・ロレルは、敵航宙巡洋艦から発進したRCと戦闘体制に入った。
最初の一撃で敵RCの左足を屠ったが、相手パイロットは動揺した様子もなく冷静に事態に対処していた。
シェリーは相手パイロットの技量の高さに少し恐れをなしていた。
「新型なのに……」
相手の剣戟をかわしつつ、思わずそう口走ってしまう。
元々、月面基地では空戦隊として戦闘機に乗っていたシェリーだが、この『動乱』の際にRCパイロットとして転向したのだ。無論、それは本人の希望である。
戦闘機とRCの操縦はかなり違うものだったが、彼女はRCパイロットとしてもその才を発揮していた。だが……。
『少尉殿! 未確認のRCと戦闘に入りました!』
僚機のユリジェス・バンドックから、悲鳴のような報告が入る。
「あれか……」
シェリーはこの作戦の一番のターゲットである『紅龍』をレーダーで確認した。
それは自分の操る『ハルバード』より華奢で美しい感じがした。
「バンドック准尉! 敵RCの性能を調べたい、攻撃せよ」
シェリーは部下に対してそう命令した。
『りょ、了解し……う、うわ!』
その瞬間だった、ユリジェス・バンドックの機体が爆発した。
「准尉!」
刹那の時間だった。
『紅龍』が撃墜したのだ。
「おのれ、おのれッ〜!」
シェリーは己を制御するすべを知っていたが、このときはそれが作用しなかった。
『紅龍』は次の目標をシェリーに定めた。
細かいレールガンの射線が自分を取り巻く空間に殺到する。
「わたしを、なめるな!」
シェリーは操縦桿を前に倒し、ありったけの力でフット・バーを踏み込んだ。
ハルバードはパイロットの無理な注文に文句をいわず、すべてのブースターを使って加速した。
耐慣性システムがなければシェリーの身体は激しい加速度に耐え切れす内臓破裂を起こしていただろう。
「イージス・システム起動!」
最新の火器管制システムである『イージスシステム』は、パイロットの指示なしでも自動的に目標を補足し攻撃するというシステムだった。そのため、パイロットは機体の操縦に専念することができる。
「落とす!」
そのとき、シェリーは自分の死さえ、まったく省みていなかった。
「正義は我が方にあり」
それがシェリーの信念だった。
月出身ということで受けた様々な差別。
そして、それに甘んじなければ生きていけなかった自分。
すべてが彼女にとって忌まわしい過去であった。
「落ちろッ!」
その美しい唇から言葉がついて出た。
敵RCは一瞬、怯んだ様子を見せたが、即座に体制を立て直した。
「月面軍に栄光を!」
そう言い放ち、シェリーは徳川葵の駆るシルフィードへと突っ込んでいった