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RC2182  作者: 和沙玲郎
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第1話

 RC2128


 第1話  出撃


 「艦長、ルナベースから緊急連絡! スクリーンに投影します!」

 通信士官からの切羽詰まった報告が、コーパック級航宙巡洋艦三番艦ミストラルのブリッジの空気を緊張させた。

 艦長のマイケル・ウォーレンは、動じた様子もなく正面の大型スクリーンを見据えた。

 「通信、入ります」

 オペレーターの報告と同時にスクリーンにネイビーブルーの軍服を着た初老の軍人が映し出された。

 『緊急事態だ』

 「どうなされたんですか? マイストロフ司令」

 『反乱が…月面都市に駐留している機動艦隊が反乱を起こした。しかも、火星駐留部隊とも同調しているらしい。今、ブルー・サーチからスクランブルがかかったが、間に合わないだろう。すでに司令部が占拠されるのも時間の問題だ。反乱軍の先行部隊の一部がそちらに向かったとの報告を受けた。くれぐれも用心してくれたまえ』

 ブリッジのクルーが一斉に衝撃を受けた。

 マイケル・ウォーレンの眉間に皺がよる。

 『いいか、くれぐれも無事に任務を果たすように心がけてくれたまえ。ブルー・サーチから援護機がそちらにも向かっている。それまでなんとか持ちこたえてくれ』

 「しかし、閣下はどうするおつもりなんですか?」

 『私はできるだけここで敵をくい止める。ツケがまわってきた、ということだよ』

 初老の軍人に、穏やかな微笑が浮かんだ。

 『中佐、くれぐれも頼んだぞ』

 「閣下…!」

 スクリーンはブラックアウトした。

 マイケル・ウォーレンは軍用のベレー帽を深くかぶり、艦長席に体を沈めた。

 しばらくの間、沈黙が辺りを支配する。しかしその直後、管制オペレーターから悲痛な報告が入った。

 「艦長! 未確認物体、急速に本艦に接近中! 数およそ五機!」

 「方向は?!」

 「銀河標準面に対してマイナス二十三度、六時の方向です!」

 「総員、甲一種戦闘配置。ヴァーミリオン小隊、出撃準備!」


 艦内に甲一種戦闘配置の警報が鳴り響いた。

 スクランブル要員であった徳川葵少尉は、ヘルメットを素早い動作で掴みあげると、一目散に格納庫へと走りだした。

 漆黒の長い髪を、素早く束ねてヘルメットを装着する。

 切れ長のやや釣り上がった瞳に、興奮の色を浮かべていた。

 「こうでなくっちゃな…」

 一人呟いた声は、誰に聞こえるわけでもなく、ヘルメットの中で消えた。

 しなやかな動作でフライトデッキから続く階段を駆け上がると、すでにそこはRC用の格納庫であった。

 スクランブル要員の整備兵が、徳川葵の姿を見つけると、チェックリストを差し出した。

 「すでに調整完了しています」

 整備兵から受け取ったチェックリストに素早く目を通す。

 「C装備? 大気圏を突入するのか?」

 「艦長からの指示です。直接、地球に降下する予定です」

 「了解した」

 リストに目を通した葵は、ネイビーブルーに塗装された自分の愛機に乗り込んだ。

 「少尉! ブーストパックを装備してますので、衝撃にはくれぐれも注意してください!」

 整備兵からのアドバイスに軽く手をあげると、葵は装甲型キャノピーを閉めた。

 ヴァーミリオン小隊機である汎用型RCシルフィードのコックピット内は広く、耐圧式のリニアシートに組み込まれたコントロールパネルが管制位置にセットされても、パイロットシートはかなり余裕ができる。これはパイロットへの圧迫感をなくすための配慮だ。 コックピット前面には三面式の疑似立体モニターを備え、後方二七〇度に及ぶ警戒レーダーとそれを補助する補助モニターが左右に取り付けてある。さらに、単独で大気圏突入ができるように、C装備には高機動のブースターを兼用する大気圏突入用の展開式ウェイブグライダーが背面に装備されていた。

 『少尉、発艦許可でました』

 通信機から管制オペレーターの声が流れた。

 「了解。ヴァーミリオン02、発艦する!」

 船体の対衝撃式の気密ハッチが音もなく開き、リニアカタパルトに微かな振動が加わる。それと同時に緊急用の補助ブースターが点火され、一気に加速がかかる。次の瞬間、シルフィードは星々が瞬く無限の空間に、青白い推進剤の航跡を描きながら飛び立っていった。


 「ヴァーミリオン02、発艦しました」

 「後続も発艦させろ! 小早川中尉は紅龍三号機に搭乗させてくれ」

 艦長が次々に指示を出す。

 ブリッジは蜂の巣をつついたように、各部署への指示と対応に追われていた。

 発艦指揮所には後続要員として、ヴァーミリオン小隊の隊員から順次報告が入る。

 「艦長、小早川中尉から連絡が入ってます」

 「まわしてくれ」

 「了解」

 オペレーターがコンソールパネルの器機を操作する。

 サブスクリーンにパイロットスーツ姿の青年士官が映し出された。

 『紅龍三号機、使用してもよろしいのでしょうか?』

 「かまわん。我々の目的はあくまでも二号機の輸送にある。最新鋭機も使わなければただのガラクタだ。ならば三号機だけでも使ってやらんとな」

 マイケル・ウォーレンは愉快そうに口元を綻ばせた。

 「現在、徳川少尉が先行している。至急作戦行動にはいってくれ」

 『了解しました』

 微笑した小早川高明中尉は、素早く敬礼をすると通信を切った。

 「なんとか持ちこたえてくれ、中尉…」

 艦長席から窓外を眺めたマイケル・ウォーレンは、祈りともつかない呟きを漏らした。 その間にも、続々と報告がブリッジに飛び込んでくる。

 「不明機、機種判明! 月面基地所属のジェンサーTypeA、5機であります。友軍信号は発信されておりません!」

 「艦船は?」

 「はッ! 周囲5万キロ以内に艦影は見あたりません」

 「結構だ。射撃管制官、主砲発射用意。敵RCに対して艦砲射撃を行う」

 「了解しました」

 艦長の命令で射撃管制オペレーターは主砲である600mm大口径ブラスターの予備加熱を始めた。

 「三斉射後に回避運動、味方機を援護しろ」

 「了解しました」

 初期の段階での迎撃指示はこの時点で一応終了する。あとは戦況に応じて対処するしかない。

 幸い、紅龍輸送任務に使用されているミストラルは、単独で大気圏の突入が可能な高性能巡航艦である。通常の任務ならば、輸送艦を使用するところであるのだが、作戦の重要性を考えた結果、最新鋭の航宙巡洋艦が投入されたのである。当然、装備されている武装は伊達ではなかった。

 「レーダー手、RCを発進させた母艦が近くの宙域に隠れているはずだ。優先的に走査せよ」

 「了解しました」

 マイク・ウォーレンは額に滲んだ汗を、無造作に軍服の袖で拭った。

  

 〜続く〜

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