なぜそんな都合のいい話があると思ったのですか
誤字の報告いただきました。ありがとうございます!
7/14 またもや誤字報告いただきました。ありがとうございます!
「婚約解消、ですか?」
「そうだ!義父上殿に免じて破棄ではなく解消にとどめてやったのだ、感謝するが良い!」
※※※
どうもこんにちは。ベルサリテ伯爵家のひとり娘、リリアローズと申します。
えー、わたくしは今婚約解消宣言をされております。
自分の誕生日パーティーの挨拶の最中に。
え、え、今じゃなくても良くない?だってさ、今日ってわたくしが成人を迎えての大切な大切な伯爵家のお披露目の真っ最中だし?
というか、挨拶の最後に女連れの婚約者が堂々とステージに上がってきたから訳わかんなくなっちゃったし?
それでも笑顔が張り付いてるわたくしと、何故か自信満々の婚約者(女連れ)を見比べて招待客も思考停止してるし?
あ、ほらウチのお父さま、頭から湯気が出るんじゃない?くらい顔が怒りで真っ赤なんだけど?
そんでさ、その横で貴方のお母上真っ青で、あっ!今!今倒れたっ!あっ良かったぁ。お父上が気がついてくださって、間一髪支えていらっしゃるわ。
瞬時にいろんなことを考えたけど、まずはこの場をどうにかせねば!
「えーっと?まあ、解消自体は承諾いたしますわ。でも、その為にはちょっと話を整理しなければならないと思いますの。……その…。」
ちらりと隣の女性を見る。その瞬間その女性が眼をうるうるとさせたと思ったら。
「リ、リリアローズさまっ、そんなに睨みつけないでくださいまし!今までは我慢してまいりましたが婚約破棄されたのです、貴方は!わたくしっ、もう貴方に睨みつけられる筋合いはございませんわ!」
「睨みつけ…?今まで我慢?あのー、貴方はどなたかしら?婚約…ああ破棄ではなく解消ですよ?その婚約解消に異存は無いのだけど、まだ状況が飲み込めてなくて。」
そう、この方とは恐らく初対面だ。だってわたくし。
説明したいのだけど、怒涛の喋りに阻まれる。
「ひ、ひどいっ!ご挨拶をしても!話しかけても!今みたいに睨みつけてきた癖に!他の方と一緒に意地悪もたくさんしてきたじゃない!そんな性悪だから捨てられてしまうのよ!」
睨みつける?他の方と一緒に意地悪?んー、何にも記憶が無いんだけどなぁ。だってわたくし…
「お前は!いつもカンティーナの事を成り上がり男爵の娘と言って馬鹿にしていたそうじゃないか!それも俺と婚約する前から!だから俺とカンティーナが親しくしているから嫉妬で、なんて言い訳はさせないぞ!」
もう!お二人とも弁が立ちすぎるわ。肝心な話を聞いてもらえない!って、今なんて言ってた?
んん?婚約前?という事は4年前?なら13歳?14歳?そのくらいよね?何を言ってるんだこの人たち。
説明を遮られ続けて喋ることを諦めたら、ここぞとばかりにないことないことなすりつけられる。
「が、学園内で!いつもいつも大勢で取り囲んで出自を馬鹿にして!持ち物を壊されたことだって!」
ん?んんん?学園?学園て言ってる?この人?
「学園?」
つい呆けた問いかけをしてしまった。
いや、だってわたくしその頃はまだ…
「そうですっ!わざわざわたくしのクラスまでやって来て取り巻きの皆さまがたを引き連れてっ」
「まだしらを切る気か!ちゃんと謝罪しろ!そうしないとお前は娶った妻が4人とも不審死しているという噂のプロムヘキシ侯爵の元に嫁入りすることになるぞ!」
「へ?」
「は?」
「んん?」
「え?」
「ぐごっ」
最後の"ぐごっ"は誰?笑ったな!気持ちは分かるけど!
みんな我慢してるのにズルくない?!
「何言ってんの?気は確かか?」
あっ!誰かがはっきり言った!勇者だなぁ。
ただそう言いたくなる気持ちは分かる。本当に何言ってんだか。
「あの、まずもってわたくしは嫁入りはできません。伯爵家にはわたくし一人しか子はおりませんので。」
招待客も皆一斉に頷く。わたくしが嫁に出てしまったら我が伯爵家の血が途絶えてしまうから、それは絶対にない。
万が一わたくしが子を成すことができなかったとしても、その場合は決められた手順で養子を取り、わたくしが教育を施す事まで決められている。
なんせわたくしがいない事には成り立たないのだ。
「はっ、何を言っておるのだ。もう後を任せられる俺がいるだろう。」
「そうよ!カプリッシユさまはもう養子に入られたの!それはつまり、ベルサリテ伯爵家の継承は貴方がいなくても問題ないということよ!大人しくカプリッシユさまの選んだおうちに嫁入りなさることね!ゴネればゴネるほど嫁入り先のランクを下げるわよ!」
えーと、なんだっけ?このお嬢さん…あ!カンティーナさん?なんだか先ほどのしおらしい涙はどこに行ったのかしら。えらく鼻息の荒いお嬢さんね。
まあ、よく分からないけど彼らの言い分を一度纏めてみよう。意思疎通の為の言葉は惜しんじゃだめ!
「えーっと、一度纏めますね。わたくしはカンティーナさんのことを4年ほど前から学園内で虐めていた。」
カンティーナさんが大きく頷く。
「で、一旦それは置いといて、貴方とわたくしの婚約者カプリッシユ・イレアリテ子爵子息が惹かれあい、わたくしとは婚約解消して貴方と婚姻。そしてベルサリテ伯爵家をお二人で切り盛りしていく、と。」
今度はお二人で大きく頷いている。
「あら、申し訳ありません。そんなお話になっていたとは全く存じませんで。イレアリテ子爵、恐らく我が父も存じ上げなかったようなのですが、」
父もうんうん頷いている。
「子爵家では周知の事実だったのですか?」
子爵に尋ねたのに、苛立ちを隠さないカプリッシユに怒鳴られてしまう。
「当たり前だろう!そもそも俺は伯爵家の養子になったのだ。子爵である父も、ただの子爵家の後継でしかない兄も口を出せることではないからな。まあ先日事実だけは元息子のよしみで教えてやったけどな。」
「まあ!イレアリテ子爵は状況を把握していたという事ですのね!」
怒りで真っ赤になっているお父さまを尻目に先に復帰したお母さまが子爵に微笑みながら尋ねる。
「ひ、ひいいい!わたくしどもは何ひとつ知らされておりませんんんん」
「わたっわたくしも!最近は次期伯爵に頭が高いなどと言われるので極力関わらないようにいいい」
「ぼっぼっぼくっあっ!すいません!わたしも弟が養子に入った頃からまともに会話しておりません!」
親子3人全否定ときたか。そりゃそうだ。この話を知っていて放置若しくは後押ししたなんてバレた日には。
子爵家なんてぺっしゃんこに潰された上に処刑なんてこともありうるんだから。
そんな大慌ての方達を見ていると、とうとうお父さまが再起動した。
やだなにあの笑い。絶対碌なこと考えてないわ!
「おお我が娘!我がリリアローズ!お前を嫁に出す日が来るなんて!想像だにしていなかった!」
あーハイハイ。乗っかるんですね。
「お父さまっ!わたくし、生涯お父さまのお側で過ごせると思っておりましたのに。ああ!カプリッシユさまに思い合う人ができるなんて!」
「カプリッシユを養子にしたばかりにこんな事になるとは!」
ガバッ。唐突にお父さまに抱きしめられる。と、小さな声で、
「あの二人の表情をよく見ておけ。どちらが主犯か確認せねばな。」
はい、お父さま。この体勢めちゃくちゃ二人の表情がよく見えます。…カンティーナさんは表情を隠すのが苦手なようね。
「お父さま、カプリッシユ様にこんな緻密なこと考えられるわけがありません。」
「お前もそう思うか。じゃああの女を少し揺さぶるか。」
ガバッ。また唐突に引き離される。
「そうだ!カプリッシユ!良いことを思いついたぞ!」
カプリッシユに向き直り父が告げる。
「お前は最愛の人を見つけたのだろう?それはとても素晴らしい事だ、誰にも文句をつけられて良いことではない。」
「義父上…。貴方なら分かってくださると!」
えぇー泣いてるじゃん。ちょっと気持ち悪い。
「ああ!だからお前達の愛を皆から祝福してもらえるようにしなければな!だがなあ、今のままだと…」
「今のままだと?」
「お前は養子に入った先で不義理を働いた恩知らずという事になる。」
「そんな!俺はリリアローズのあまりにも非道な行いを糾しただけです!しかも最大限配慮したのに!」
えっあれ配慮してたつもりなんだ!
というオーディエンスの声が聞こえたが、ややこしくなるから彼らを刺激するような発言は控えてほしい。
「そうだな、君の憤りもよく分かるが。だがよく現実を見てほしい。その、ああ我が娘の事だから信じたくはないのだが、リリアローズがそちらのお嬢さんを虐げたという話だが、何かの間違いではないか?」
お父さまが罠を張った。
「お父さまが信じられないと思うお気持ちはよく分かります!でも本当なのです!今日すぐにというのは無理ですが、当時わたくしが虐められていたことを証言してくださる方もおります!」
勢いよく食ってかかるカンティーナさん。あーあ。しっかり罠に嵌ってしまったわね。
お父さまははっきりと確信を持っている、わたくしがそんなことをしていないって。だからこの言葉を待っていたのだ。
「なんと!証人がおるのか?それは…」
「そ、それは…」
勢いで言ってしまったんだろうがそんな人いる訳ない。どうしようかと逡巡しているのが丸分かりだ。
だがすぐにハッという顔をし、少しだけ口角を上げるのが見えた。
「それは…今申し上げたら!リリアローズさまが手を回してっ」
涙とともにそんなセリフが出てきた。
「では今は証明する手段がないということだな。」
その声にパッと顔を上げ、悔しそうな顔を見せた。
多分この方法で色んなことを曖昧にしてきたんだろうな。でも、相手が無実を確信している時には通用しないわね。特に今回はもう誤魔化しようがないくらいはっきりと訴えたから。
「明日ならば…証言してくれるはずです!」
え、いいの?1日で。誰に頼むのか知らないけど、1日じゃあそんなハイリスクな証言引き受けてくれる人見つからないんじゃない?
などとわたくしが心配する必要はないわね。
さあお父さま、お次は何かしら。
「ふむ、明日か。だがなぁ。明日だとなぁ。今度は反対に。」
「君が都合の良い証人を仕立て上げる時間ができてしまうだろう?」
「そ、そんな…酷いわっ!」
「義父上!カンティーナがそんな姑息な真似をする筈がないでしょう!謝罪してください!」
カプリッシユの胸に顔を埋めて声を殺して泣く…真似でしょうね。
「何を言っておる!お前達の愛というのはそんなに脆いものなのか?!このくらい問い詰められたくらいで脆くなるような!」
「お父さま、お二人の懸念は尤もだと思いますわ。
わたくしははっきりと否定致しますが、彼女の言うことが本当ならば証拠を消されることを心配なさるのも当然でしょう。」
ここで母が提案をする。
「そうね、カンティーナさんの懸念も、貴方の懸念もどちらも間違ってはいないわ。だからこう言うのはどう?」
結局母の案が採用された。案の定カンティーナさんは嫌がったけど、意外な事にカプリッシユは乗り気だった。
「明日まで王宮事務官が預かってくれるんだ。この国の王が保証してくれるのだから安心しよう!」
どんな案かって?割と単純な話で、お父さまが懸念していた、誰でも良いからと買収するのを防ぎ。カンティーナさんが懸念していた、わたくしによる圧力を防ぐ。
その日のパーティーに居合わせた王宮事務官をなさっている方に、カンティーナさんが証言をしてくれる方のお名前とわたくしの虐めの内容を書いて渡すの。
そして明日になったらその紙を見て証言者に連絡を取り証言してもらう、と。
ああそうそう、そこまではカンティーナさん余裕綽々で記入していたわ。でもね、その事務官の方が。
「さあ、では本日は王宮にご案内いたします。もちろん女性の事務官をお付けしますので、明日の朝までは身柄を預からせていただきますよ。」
そう言った途端に真っ青だったわ。
「そ、そんなの!わたくしの事を疑っているとしか思えないではないですか!」
「はい。疑っておりますが?」
そう答えた事務官に彼女は唖然としていたが。
「だって、伯爵家の養子が実子との婚姻の約束を反故にして別の女性と結ばれて伯爵家を継ぐと宣言したんですよ?」
「しかもその女性は実子による嫌がらせを訴えている。仮にベルサリテ伯爵が納得したと仰っても、行政としては調査が入るでしょうね。」
「計画的に養子となり、計画的に虐め被害を訴えて、計画的に実子を排除する。」
「王宮ではそのような危惧があれば速やかに調査に入る部門があるのです。」
※※※
王宮事務官が調査に入る、と宣言した事でカンティーナさんは真っ青だったけど。
「お父さま、もうよろしいでしょう?こんな茶番に事務官の方にまでおつき合いさせる必要はありませんよ?」
茶番と言われたカプリッシユは憤慨していたが、カンティーナさんは助かった、と思ったらしい。
またもや涙目でどうにか誤魔化す術を考えついたようだ。
それを手で制してわたくしが問いかける。
「カンティーナさん、貴方"稀血"ってご存知?」
「は?今そんなお話をしている場合ではないでしょう!わたくしはリリアローズさまからの虐めを訴えてー」
「そこまでになさい。貴方への虐めなど、ここにいる人の殆どが信じていない筈よ。逆に言えばー」
お父さまに良いところを奪われた!
「知らないならば貴族としてはかなりのぼんくら、と言う事だな。カプリッシユ、お前もだ。だから養子は当然解消する事になる。その後は…どんな罰になるかは事務官殿に委ねるしかないな。」
食ってかかろうとするカプリッシユは我が家の警備兵達に抑え込まれた。それでも何か喚いているので口を塞がれ、いつの間に用意したのか椅子に拘束されていた。
気がつけば仲良くカンティーナさんも拘束されていた。ふう。これで説明しやすくなったわね。
「まず、カンティーナさんが訴えていた"学園での虐め"についてですけど。」
「無理なんです。だってわたくし。」
学園には通っておりませんでしたから。
「はあっ?!そんな事あり得ない!あの年頃は学園に通う事が義務でしょう?下手な嘘つかないで!クラスは違ったけど、あんたの名前があるのはちゃんと見てるんだから!」
「ですから、その説明をして差し上げようとしているのに先ほどからお二人で遮るから。」
そして、ここからは静かにお聞きくださいね、と前置きして事情を説明した。
※※※
我が国には昔、幼くして亡くなった王子がいた。
病気ではなく、事故だった。
本来なら亡くなるような怪我ではなかったのだ。
ではなぜ助けられなかったかというと、輸血ができなかったのだ。
当時すでに、大量に出血した患者に対して血液を投与する治療法はあったのだが、まだまだ発展途中の医学だったために輸血により急激な体調悪化を起こす事があった。
両親、兄妹、親戚の順に血液の相性があるのではないかと言われていたが、関係が近いからと言って相性が良いわけではないのがやっかいであった。
そこで、どうにか投与前に相性だけでも見る方法を編み出したのだが…。
「相性が悪い血液同士だと固まってしまう…?」
「まあざっくり言うとそう言うことね。だから本格的な投与をする前にテストするようになったんだけど。」
「テストと言っても簡単なもので、清潔なお皿の上で両方の血を混ぜるのよ。それで特段変化がなければ輸血、ダメなら他の候補者の血を試していくのよ。」
その王子は不幸な事に誰とも相性が合わなかった。
そして…
「亡くなってしまったの。血液についての研究が進んだのはそれからね。なぜ合う合わないがあるのか、近親者の方が確率が上がるのか。そんな研究の中でね、分かった事があるの。」
血液にはいくつかのパターンがあること。多くの人が3〜4種の型に当てはまること。両親からその型を受け継ぐこと。
「そしてね、両親から受け継ぐだけではなく、たまにとてつもなく珍しい型になってしまう人がいることも判明したの。それを"稀血"と呼ぶ事になったの。」
「で?その話に何の意味が?今関係ないわよね?」
「貴方、察しが悪いのね。…こんなのに騙されるカプリッシユも大概お察しってところかしら。」
「まあ、察しが悪いのは仕方がないわ。あんな杜撰な嘘八百考えつくんだもの。そりゃあ、ねえ?」
今は5歳になると血液の型を調べる事になっているのだが、その検査でなんと!稀血である事が判明したのだ。
……第1王子が。
そしてその1年後。わたくしも同じ稀血だと判明して、王城に召し上げられる事になったのだ。
第1王子が大怪我をした場合。暗殺等に遭った場合。わたくしが王城内にいれば血液が確保できるから。そんな理由でずっと王城通いだったのだ。
学園なんて、入学式と卒業式しか顔を出していない。
その代わり、第1王子と共に同等の教育を受ける機会を得たのだからありがたいことでもあったのだ。
そして近年研究の成果が実り、定期的に血液を採取して保存しておく術ができ。
「わたくしは常にお城に詰めておく必要がなくなったの。それで晴れて伯爵家の後継として婚約者を選ぶ事になったのよね。」
カンティーナさんの顔色が変わるのがはっきり見えた。
「そんな!そんな嘘よ!嘘に決まってる!だってわたくしは貴方に虐められて…」
「そう主張したいならすれば良いが、そうなると相手は伯爵家ではなく王家となるぞ。よく考える事だな。」
「ええ。よくお考えになって。伯爵家に対しても褒められた態度ではなかったけれど、王家の発表を否定するなら慈悲は期待しない方がよろしくてよ。」
カプリッシユが必死にもがいているので猿轡だけ外してやった。
「お、お前!騙していたのか!義父上、俺はあの悪女に騙された被害者なんです!あの女に特大の裁きを!」
「父と呼ぶでない。そもそもお前が婚約解消を宣言した時点で養子の条件から外れているからな。どのみちお前が伯爵になる未来などなかったのだ。」
「条件?何ですかそれは!」
「娘との婚姻に決まっておろうが。血のつながった娘がおるのだぞ?なぜ貧乏子爵家の次男に我が伯爵家の全てを引き継ぐなんぞ思ったのだ?」
「な、な、だって、俺は優秀で、伯爵家に認められて、」
「わたくしはね、さっき説明した"稀血"の件でとても婚約が難しかったの。万が一第一王子が大出血するような事があれば、すぐに駆けつけなければならないし、場合によっては夫よりも、子よりも、爵位よりも優先しなくてはならないもの。」
「事情をきちんと理解している貴族なら二の足を踏むだろうな。だが、普通の婚約にはあり得ない条件を提示しても、君の父上は縁談を進めてくれと言ってくれたのだ。」
「お前が貴族のまま過ごしていくにはもう婿入りしかないと言うのに!取り立てて何ができるでもないお前には有難すぎるお申し出だったんだぞ!それを!」
「そんなの!先に言ってくれよ!」
「いや、養子ったって婿として求められてることくらい教えなくても常識だろうよ。」
何処からか聞こえた呟きにハッと顔を赤くして、やっと黙ってくれた。
「まあ、ここからは王家が入りますから。伯爵、また改めてご説明にあがります。ではその方達を王城にご案内して。」
お騒がせしました、と言いながら丁寧に礼をして去って行った事務官殿と、何かを叫びながら引き摺られていく男女という、静と動のコントラストが去った今。
「なんだか最後にお見苦しいものをお見せしてしまい申し訳ございませんでした。我が家からは改めてお詫びをさせていただきますのでご容赦くださいませ。」
※※※
あの日の婚約解消騒動はひと月ほど社交界の話のタネとして消費され、いつの間にか消えた。
「人の噂なんてそんなもんよね。」
「そうね。今回のは顛末まで含めてあまりにも面白かったから少し長引いたけど。もう今の話題は…」
そう。話題はもう次に移っていた。
「ううう、その話はデリケートなものでしてできれば触れていただきたくないというか…」
「リリアローズらしくないわよ!歯切れが悪い貴方なんて初めて見たわ。」
話題は移ったが、わたくしは未だに話題の中心人物だ。
わたくしは定期的に血液を提供する事で王城から出られたわけだけれど、この血液はわたくしにとっても命の綱となり得るもので。
第一王子もまた同量の血液をストックすることで万全な準備ができている。
ただ、可能な限り近くで生活する方が、双方にとってのベストではある。
「と、いう事でね。第二王子が立太子する事になったんだ。だから僕、カプリッシユ殿の後釜を狙おうと思って。」
何が"と、いう事"なのかはさっぱり分からないが、随分前からわたくしと王子の縁組は考えられていたみたい。だって妙齢の女性を外遊先に随行させるなら妻という形が1番しっくりくるものね。
問題はわたくししか伯爵家の後継がいなかった事で、それさえなければもっと早いうちに婚約が決まっていたらしい。
「第二王子が立太子をやっと了承してくれたんだよ。アイツなら稀血問題もないし、後はアイツの決心だけ、だったんだ。」
なるほどね。第二王子は野心溢れるタイプではなかったのか。でも彼はそれで良かったのだろうか。
自分の努力ではどうしようもない、理不尽な理由で王となることを諦めて。
「あっ、また俺の気持ちとやらを押し測ってるんだろう?君はいつもそうだったからな。」
いや、それはそうでしょう?どうしようもない、理不尽な事だもの。それなのに彼はわたくしにも気を遣って、思いやりを見せて…。
「あのね、俺より酷い目にあってた自覚ある?今の話裏返してみたらさ…」
王家の問題に巻き込まれた5歳児。甘えたい年頃に親元から引き離され。学園生活という、人間関係を築くための時期をほぼ奪われ。
「あっ!わたくしって意外と悲惨な人生!」
「そうだよ!なのに文句ひとつ言わずに側にいてくれたんだ。…君以外に一生を捧げたい人なんて、見つかる気がしないよ。」
そう言った第一王子の顔は真っ赤だった。
そしてわたくしの顔も…。
「第一王子、いえリランパーゴさま。わたくしの旦那さまになって下さいますか?」
顔は真っ赤、震える声を絞り出して伝えたら。
わたくしよりももっと真っ赤な顔の彼にギュッと抱きしめられた。
ふふ。




