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第七話 俺の前では






討伐任務から王都へ戻って以降、リゼの様子は明らかにおかしかった。


クロードと目を合わせようとしない。


話しかけても、必要最低限の言葉しか返さない。



あの日のリゼの涙を、誰も気づいていなかった。


ただクロードと話していただけに見えたからだ。



けれどリゼは――


弱い自分を見られたことが、どうしても許せなかった。


その距離感に、クロードは次第に苛立ちを募らせていく。




そして一週間が過ぎた頃。


我慢の限界は、あっけなく訪れた。


稽古終わり。


背を向けて立ち去ろうとするリゼの前に、クロードが立ちはだかる。


「なんで避ける。」


「避けてない。」


「避けてるだろ。」


「どいて。」


「理由を言え。」


短い応酬が続く。


そして――



「……っ、あんたといると、私が弱くなる!」


リゼの声が、初めて大きく揺れた。


「私でいられなくなる……!

私は強くいなきゃいけないのに!」



振り払うように手を離そうとした瞬間。



クロードがその手を掴む。



「違うだろ。」



低い声だった。


リゼの動きが止まる。



「強くなきゃいけないって、お前は言う。

でもな、お前の強さは、弱さの上にある。」


「守りたいんじゃない。失うのが怖いだけだ。」


「だから全部、自分で抱え込む。」



一瞬、リゼの目が揺れる。



「……関係ない。」


「関係ある。」


「……っ」



「逃げるな。」


その言葉に、空気が止まった。



少し離れた場所で見ていた団員たちは、何も言えず顔を見合わせるしかなかった。






――――


「総長、少しよろしいでしょうか。」


王宮・宮廷護衛隊本部。


執務室の扉がノックされる。


「どうぞ。」


入ってきたのは、近衛騎士団団長ルシウスだった。


「お前が来るのは珍しいな、ルシウス。」


ゼンは書類から目を上げ、軽く笑う。


ルシウスは室内を確認すると、深く息を吐いた。


「お前の妹と、クロードの件だ。」


「ほう?」


ゼンは少し楽しそうに目を細める。


「クロードは最近ずっと機嫌が悪い。ただでさえ普段から目つきが悪いのに、今じゃビビって団員も近寄れねぇ。

リゼはリゼでクロードと距離を取るくせに、周りには妙に明るい。

そのせいで余計に悪化してる。」


「正直、やりづれぇ。」


ゼンは小さく笑った。


「お前たちには苦労をかけるな。」


「まったくだ。」


軽口のあと、ゼンは静かに書類を置く。


「――わかった。2人を呼んでくれ。」




――――




「お呼びでしょうか。」


執務室に入ってきたリゼとクロードは、互いに一切目を合わせなかった。



「リゼ。髪を切ったのか。似合っているな。」


ゼンの言葉に、リゼはわずかに視線を伏せる。


「本題に入る。」


ゼンは咳払いを一つして、表情を引き締めた。



「お前たちに任務がある。」


「……それは、私たち2人に、ですか?」


リゼが問いかけた瞬間。


「受けます。」


クロードが即答する。


「クロード……!」


「不服か?」


ゼンの声が静かに落ちる。


「兄様、いえ総長。なぜ私たちに――」


「受けます。」


またクロードが被せる。


空気が一瞬で冷える。


「……リゼは?」


「もちろん受けます!」


ゼンは満足そうに頷いた。







「なんで受けたのよ。」


執務室を出た廊下。


「任務を選べるほど偉くなった覚えはない。」


「そういう意味じゃなくて!」


「関係ない。」


クロードはリゼの言葉を遮る。


「お前が何を言っても、俺がお前の近くにいちゃいけない理由にはならない。」


リゼは言葉を失う。


「……なんなのよ。」




――――




その頃、執務室では。


「……リゼに縁談?」


ゼンは書類を見ながら、深くため息をついた。


「父上も、タイミングが良いのか悪いのか……」




――――





今回の任務は、王都近郊の小規模な盗賊団討伐。


近衛騎士団が出るには、あまりにも軽い案件だった。


(……初心に帰れ、ってこと?)


リゼは隣を歩くクロードをちらりと見る。


視線に気づいても、クロードは何も言わない。


街に到着すると、兵士たちが出迎えた。


「国王軍第3近衛騎士団、リゼ・クラウディアとクロード・ルイスです。」



兵士たちの説明を、クロードは静かに聞いていた。


その横顔を、リゼが見つめる。


「お前、さっきから見すぎ。」


「別に。」


そっぽを向くクロード。


兵士が拠点へ案内し始めると、クロードが先に歩き出した。



「……前に俺が言ったことは、深く考えるな。」


「……え?」



足が止まる。



「背中は俺が見る。お前は前だけ見ろ。」



少し間を置いて、クロードは続ける。



「……俺には、弱さを見せてもいい。」


「私は弱くない。」


「そういう話じゃない。」



クロードの言葉が、過去の記憶を呼び起こす。



――お前の強さは、弱さの上にある。



リゼの胸の奥が、じわりと熱くなる。


気づけば、彼の背中を軽く叩いていた。


「いってぇな。」


「寂しそうな背中してたから。」


小さく笑うリゼ。


クロードも、わずかに口元を緩める。


周囲の兵士たちは、意味がわからず顔を見合わせた。




その後の盗賊団討伐は、瞬く間に終わった。


帰路。



「私、ずっと一人で強いと思ってたわけじゃない。」


「でも、あんたがいると……もっと強くなれる気がする。」


クロードは少し笑った。


「今気づいたのか。」


「遅いな。」





風が、二人の間を抜けていく。




――だが、その静けさは長く続かない。





新たな波が、すぐそこまで迫っていた。















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