エピローグ
ある年の初夏、魔人族から人間界に講和の使者が訪れた。
人間界に、である。
使者を迎え入れた人間国だけではなく、近隣の国々も含めた人類そのものに向けて、の講和の使者だった。
曰く、エルフ族を匿った事をもって魔人族への敵対行為とは看做さない、人間界に居る限りはエルフ族の族滅は要求しない、その上で平和的な魔人族と人間族との関係維持を求める、という。
通知を携えてきた魔人族の使者に、人間国は対応を協議した。正直、意味が分からないほどに願ったり叶ったりな内容だ。
魔人族の国は遥か遠く地の果てにあるという。
だから全面戦争のような事にはならないだろう、とは見込んでいるものの、噂ではエルフ族だけでなくドワーフや獣人たちの国も侵攻され、大規模な被害が出たという。そんな種族が、なぜ人間界にだけ譲歩をしてくるのだ?それも、何の前触れも、交渉も無しに。
何らかの企みや計略があるのか?と疑う向きもあった。実際エルフ族たちからは、魔人族など信用出来ないと警告されている。
でもそうだとしても、正式な国家から国書で送られてきた条約の提案だ。内容が人間界側に圧倒的有利なのが疑わしすぎるが、それを踏まえても、検討に値する。
そもそもが魔人族側に、この世界の端から端まで軍隊を動かしてくるコストに見合ったメリットが無さそうだ、というのも確かなのだ。それなら交易でもした方が万倍マシだ、というのも頷ける。
人間国は、まぁ訳が分からないがとりあえずは人類全体に益しそうな条件なので、魔人族との和親条約に調印する事にした。正式な特使を迎え、これは後に、歴史的な和解として記録される事業となった。
━━━━エルフ族は人間族に警告はしたものの、実は独自の諜報活動によって、詳細までは分からないがどうやら魔人族たちの中で何かがあったらしい、とは察していた。
魔人族側は、何があったかの弱味は一切見せずに黙っている。ただ、遠く世界の果ての人間界と事を構えるつもりはない、という表明だけをした。
元剣士の男は、最後まで何も知らない。




