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後日談

 村上空に、竜が飛来した。



 国境線の警備で駐屯する衛兵たちが、大慌てで厳戒態勢をとった。

 遥か天上で旋回していてさえも、あの巨体だ。降りてこられたら、甚大な被害が出る。もしくは、村の全滅をも、覚悟する。

 人々に緊張が走る。村の大人たちもパニックだ。恐慌じみた喧騒がうるさい。


 雑役夫の男も、仕事の手を止めて空を見上げた。




 ━━━━その男の足に、何か小さいものがしがみついた。

 ?となって振り返ったら、村の幼い子供たちが数人、縋り付いてきていた。


 男は戸惑った。

 村で、男は敬遠されている。村人たちに馴染みきれず、疎外されながら、日々の糧を得るために雑役仕事に身をやつしている。村の祭りにすら、役人時代から参加出来ていない。

 必然、その大人たちの態度を見て育つ子供たちからも、男は見下され馬鹿にされ、仲間外れで石を投げられる扱いを受けてきていた。



 そんな子供たちが、男の足にギュッと力一杯抱きついて、震えているのだ。抱きつけぬまでも、男の袖を引いて、縋るような目で見てくる子までいる。

 馴れぬ事態に、男はどうしていいか分からず、困り果てた。


 この子たちの親はどうしているのだろうか?と周囲を窺ったが、近くには居なさそうだ。何故だろう?あぁ、皆んなでお外で遊んでいたんだね。それで子供たちだけで、家に帰るに帰れなくなったのか。

 それにしても、俺を頼ってくるのも違うだろうに……。



 そう思って辺りを見回してみたら、村の大人たちは錯乱状態で、衛兵たちも迎撃準備のために悲壮な顔してバタバタ走り回っている。

 手持ち無沙汰でぼーっとしていたのが自分だけだったからかもしれない。


 子供らは、ピリピリと神経質になっている他の大人たちに近寄れなかったのだろう。真相は子供たちに聞かねば分かるまいが、とりあえずはこの子供たちをどう扱ったものか、男には難解な課題だった。




 ━━━━その子供たち自身も、実は自分たちがどうしてこの男にしがみついているのか、正直いって分からなかった。ただ、理由は分からないのに、なぜだかとっても安心する。

 幼いがための動物的直感が、今、この集落の中で最も安全な場所を感じ取ったかのような、不思議な感覚 。


 村の子供たちに、竜に関する知識なんてものは無い。どれだけ危険なのかの経験も、無い。それでもその上空から圧迫してくる存在感だけで、嫌でも死の恐怖を意識せざるを得なかった。


 それが、この男のそばにいると薄らぐのだ。

 本能的な何かが、子供たちを男の近くに留まらさせた。




 心に壁のある村人たちの、しかも幼い残酷さでこれまで男を避けていた子供たちに擦り寄られて、男は驚いた。しかし男は、震えてる子供らの頭をポンポンと撫で、優しく声をかけてやる。「大丈夫だよ、すぐに居なくなるから」

 言って、また上空の竜に目を移した。


 あのサイズの竜を討伐しようとしたら、攻城砲が何発も要るだろう。とてもじゃないが、ここの守備兵では歯が立たない。

(でもまぁ、こちらを襲うつもりでもあるまい。食う気ならとっくに降りてきてる。あれは山渡りの途中なんだろう。むしろこの集落を見つけて、新しい棲家にするのには向いてないな、と思っているところだろうな )


 男は気負いもなく、昔の戦歴から自然とそう考えた。一人だけ落ち着き払っていたのも、竜の習性を経験で知っていただけだ。


 さすがに、手元に剣の一本も持たない今の状況では、あのサイズの竜相手に子供らを守り切れる自信はない。来ないだろう、と見定めているからこその落ち着きだ。




 男の読み通り、しばらくして竜は一陣の風を残して飛び去って行き、村は恐怖から解放されてホッと一安心となった。

 すると、子供たちもあっさりと男の元から離れて、ワッとはしゃいで走り去り、未練もなくさっさとそれぞれの家へと帰っていった。



 男は、雑役仕事に戻った。






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