表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生:66歳元教員ツヨシの悠々自適な開拓生活  作者: 羽越世雌
第四章:なぜこの世界に呼ばれたのか
84/100

第八十四話:鉄の文字と自由の翼

「……つまり、この『紙』に書かれた内容は、教会の検閲を通っていない。これは神の教えを歪める危険がある、と言いたいわけですな?」


ツヨシは、目の前で厳しい表情を崩さない修道女・ベアトリクスに向かって、静かに問いかけた。

彼女の背後には、教会の威光を背負った騎士たちが控えている。村人たちは遠巻きに、不安げな様子で事態を見守っていた。


「左様です、ツヨシ殿。文字は聖なるもの。無知な民が勝手に記し、広めることは混乱の元なのです」


ツヨシは眼鏡を外してレンズを拭き、フッと微笑んだ。

「なるほど。では、もし『聖典』を今の百分の一の価格で、正確に、大量に配ることができるとしたら……それは神の御心に背くことになりますかな?」


ベアトリクスが息を呑んだ。


1. 粘土から始まった「文字の種」


修道女との数日間にわたる議論の末、ツヨシは一つの「証明」を見せることにした。

それは、手書きの写本という重労働から人間を解放するための、文字の「ハンコ化」だった。


「ルナ、粘土を持ってきてくれ。あと、村の鍛冶屋に頼んでおいた低融点合金の試作もだ」


ツヨシが作ったのは、一文字ずつ独立した「活字」の原型だった。

まずは硬い木に文字を彫り、それを型にして、鉛とすずの合金を流し込む。


2. ブドウ絞り機の再利用


印刷機の心盤には、村に放置されていた古いブドウ絞り(プレス機)を改造して利用した。

「均一な圧力をかける」。ただそれだけのことが、手書きでは不可能な「美しさ」と「速度」を生む。


「インクは煤とアマニ油を混ぜたものを使う。カイル、このローラーで活字の面に薄く塗ってくれ」


ガチャン、と重厚な金属音が響く。

ツヨシがレバーを引くと、真っ白な紙に漆黒の文字が鮮やかに刻み込まれた。


3. 最初の「印刷物」


刷り上がったのは、教会の教義ではない。

それは、ベアトリクスが驚愕するほど美しい書体で刷られた「村の公衆衛生ガイド」と、その裏面に印刷された「聖典の一節」だった。


「これ……は……。人の手で書いたものより、はるかに読みやすい……」

ベアトリクスは震える指で紙に触れた。一人で一冊を書き写すのに数ヶ月かかる聖典が、この機械なら一日で数百枚単位で複製できることを、彼女は瞬時に理解した。


4. 知識の民主化へ


「ベアトリクス様。私は反乱を起こしたいわけではない。ただ、病を防ぐ知識や、計算の仕方を、皆が共有できるようにしたいだけです」


ツヨシの言葉に、修道女は沈黙した。

文字は力だ。その力を独占し続けるのか、それともツヨシという「異端」の手を借りて、神の言葉を真に全土へ行き渡らせるのか。


その夜、ベアトリクスはツヨシに頭を下げた。

「……私に、その機械の使い方を教えなさい。ただし、教会の承認を得るための『編集者』として、私がここへ残ることを条件に」


村に、小さな、しかし世界を変える「印刷所」が誕生した瞬間だった。


ツヨシの次なる課題は、爆発的に増える「情報」を管理するための「図書館」の設立、そして、読み書きができない大人たちのための「夜間学校」へと広がっていく。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ