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異世界転生:66歳元教員ツヨシの悠々自適な開拓生活  作者: 羽越世雌
第四章:なぜこの世界に呼ばれたのか
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第七十七話:教壇という名の戦場

漆黒の馬車が去ってから三日。村の入り口には、学術院が派遣した「回収部隊」が姿を現していた。

率いるのは、若き天才と目される魔導執行官、エドワード。背後には完全武装のゴーレム兵が十体、不気味な足音を立てて控えている。


「ツヨシ殿。あの子は学術院の資産だ。速やかに引き渡しを。さもなくば、この村ごと『管理下』に置くことになる」


村の広場。そこにはバリケードも武器を持った兵もいない。

ただ、一台の巨大な「黒板」と、教卓に見立てた木箱、そして平然とお茶をすするツヨシがいた。


1. ツヨシの「特別講義」


「お若い執行官殿、少し急ぎすぎだ。うちの村では、まず『授業料』を払ってもらうことになっていてね」


ツヨシはチョークを指で転がしながら、不敵に微笑んだ。

エドワードが苛立ちを見せ、魔法陣を展開しようとしたその瞬間――足元の地面が青白く発光した。


「なっ……魔力が練れない!? 沈黙サイレンスの魔法か?」


「いや、ただの『中和』だよ。ドワーフの掘り出した特定の鉱石と、エルフの精霊魔法を組み合わせた……いわば、この空間だけの特製『アース(接地)』だ。君たちの魔法理論は、常に魔力が一方向に流れることを前提にしているからね」


ツヨシは黒板に素早く魔法回路の図解を書き殴った。それは学術院が秘匿してきた「高次魔導等式」を、より簡略化し、欠陥を指摘するものだった。


2. 心理的な外堀を埋める


「君たちが少女に刻んだ数式……あれは不完全だ。無理にエネルギーを詰め込もうとするから、彼女の精神が焼き切れる。私の計算では、あと数時間であの数式は暴走し、この周辺一帯を消し飛ばす『魔力爆発』を引き起こす」


ツヨシの言葉は嘘ではない。しかし、全てを語ってもいない。

「解決策を知っているのは私だけだ。私を殺せば、君たちもろとも灰になる。……さて、ここで問題だ。君は『自分の出世』と『命』、どちらを優先するかな?」


エドワードの額から汗が流れる。彼は「知識」を重んじるがゆえに、ツヨシが書いた数式の「正しさ」を理解できてしまった。それがツヨシの狙いだった。


3. 隠された「トラップ


実は、広場の地下にはリザードマンたちが掘った空洞があり、そこには「火薬」ではなく、大量の「発酵途中の堆肥」が詰め込まれていた。

ツヨシが合図を送ると、村の各所に配置されたパイプから、鼻を突くような強烈な臭気メタンガスが噴出する。


「魔法を使えば火花が散る。火花が散れば、この可燃性ガスがどうなるか……理科の実験で習わなかったかな?」


魔法を封じられ、さらに物理的な爆発の恐怖というブラフに晒されたエドワードたちは、完全に硬直した。


4. 勝利のチャイム


「撤収しろ。学術院に伝えろ。あの少女は現在、私の『補習授業』を受けている。彼女が卒業するまで、手出しはさせんとな」


ツヨシがチョークを教卓に置くと、カツンと乾いた音が響いた。

その音に押されるように、エドワードは捨て台詞を残して馬車へと逃げ帰っていった。


遠くでリーザが呆れたようにため息をつく。

「ツヨシさん、あのガスの話……本当は爆発するほど濃くなかったですよね?」


「ああ、ただの『臭い玉』だよ。だが、知識がある者ほど、自分の知らない理屈には臆病になるものさ」


ツヨシは震える手を隠すようにポケットに入れ、空を見上げた。

知略で追い払いはしたが、これで学術院との全面対決は避けられなくなった。

しかし、その表情には、かつて教え子を守り抜いた時のような、清々しい充実感が浮かんでいた。

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