表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界転生:66歳元教員ツヨシの悠々自適な開拓生活  作者: 羽越世雌
第三章:未開の地のポテンシャル
71/76

第七十一話:月下の美食家と、知恵の食卓

結界を破り、静まり返った村に現れたのは、重厚な鎧を纏った騎士団……ではなかった。

豪奢な絹のローブを纏い、銀の縁取りの眼鏡をかけた小太りの男と、その背後に控える数人の「鑑定士」たち。


男の名は公爵家筆頭司膳官、ガストル。

この地方一帯の「食の利権」を管理し、美味しいもののためなら手段を選ばないことで知られる、いわば食の独裁者である。


「この辺境に、王都をも凌ぐ『未知の味』があると聞き及んだ。もしそれが事実なら、この村の調理場はすべて王宮の直轄地として接収させてもらう」


1. 無理難題:三つの「存在しない味」


ガストルは不敵な笑みを浮かべ、ツヨシにこう言い放った。

「老いぼれ、貴様の腕が本物なら、私の出す三つの難題に答えろ。できねば、村の食材はすべて没収だ」


「宝石のように輝きながら、噛めば消える雲のような食べ物」


「黄金の色を持ち、一口で海と山を同時に旅するような食べ物」


「最も卑近ひきんな素材を使い、最も高貴な気分にさせる食べ物」


村人たちが不安にざわめく中、ツヨシは眼鏡を指で押し上げ、教師時代の「試験対策」のような落ち着きで頷いた。

「……分かりました。明日の朝までお時間をいただけますか」


2. ツヨシの「解答」:日本の知恵を総動員する


翌朝、村の広場に即席の食卓が用意された。

ツヨシが差し出したのは、異世界の住人が見たこともない「三つの和食」だった。


第一の解答:琥珀色の「水信玄餅みずしんげんもち


知恵:森で見つけたアガーに似た植物の抽出液を使用。水晶のような透明度を持ち、口に入れた瞬間に体温でほどける。


結果:ガストルは言葉を失った。「雲を食べているのか……? いや、これは水の魂か!」


第二の解答:黄金の「うに海苔巻き(天ぷら仕立て)」


知恵:川で獲れる希少な「黄金の蟹」を油で揚げ、内陸では貴重な海産物(に似た素材)を海苔で巻いた。磯の香りと山の油のコクが爆発する。


結果:ガストルは椅子から転げ落ちそうになった。「口の中で海が荒れ狂い、山が歌っている!」


第三の解答:究極の「卵かけご飯(TKG)」


知恵:どこにでもある鶏の卵と米。しかし、醤油(大豆と麦の魔法発酵)という「魔法の液体」を一滴垂らすことで、庶民の食を王族の晩餐へと変えた。


結果:ガストルは一心不乱に米をかき込んだ。眼鏡が曇るのも構わずに。


3. 教員ツヨシの「採点」


完食したガストルに対し、ツヨシは静かに告げた。

「ガストルさん。食は『利権』ではありません。最も卑近な素材が人を感動させるのは、そこに育てる者の愛情と、工夫する者の知恵があるからです。これらを奪えば、この味は二度と再現できませんよ」


ガストルは食べ終わった茶碗を眺め、深く溜息をついた。

「……完敗だ。この『醤油』という黒い液体に込められた年月、力で奪えるものではなかった」


4. 意外な「和解」


ガストルは接収を取りやめる代わりに、ある「提案」をした。


「ツヨシ殿、私をこの村の『外部監査役』として雇ってはくれまいか。王宮には私がうまく報告しておく。その代わり、月に一度……いや週に一度、この『たまごかけごはん』を食べさせてほしい」


美食の独裁者は、ただの「食いしん坊な太っちょ」へと変わっていた。


知恵比べで村を守り抜いたツヨシ。

しかし、ガストルが王宮に送った「和食の噂」は、思わぬ方向に波紋を広げようとしていた。


「ツヨシさん、また一人、弟子が増えちゃいましたね」

「ははは。教育の基本は、まずは胃袋を掴むことから、ですよ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ