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異世界転生:66歳元教員ツヨシの悠々自適な開拓生活  作者: 羽越世雌
第三章:未開の地のポテンシャル
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第六十五話:森のルビーと秘密のソース

「ツヨシさん、これですよね? 探していた『観賞用の毒の実』って……」


狩人の少年アルフが、怪訝そうな顔で差し出したカゴの中には、ツヤツヤと輝く真っ赤な果実が並んでいた。

大きさはテニスボールほど。この世界では「レッドベリー・スネーク」と呼ばれ、その鮮やかすぎる色から毒があると信じられ、庭先に植えて色を楽しむだけのものだった。


「……これですよ、これ。アルフ君、よくぞ見つけてくれました」

ツヨシは眼鏡を指で押し上げ、愛おしそうにその実を手に取った。

「これは毒などではありません。正しく扱えば、天上の恵みとなる……いわば『森のルビー』です」


1. 毒抜き(?)の特別授業


「いいですか、皆さん。先入観は知識の敵です」

ツヨシは村人たちの不安げな視線を浴びながら、共同調理場の台に立った。


まずは果実の皮に薄く切れ目を入れ、熱湯にくぐらせる。

「これは『湯むき』といいます。こうすることで、口当たりの悪い皮を綺麗に取り除けるのです」


スルスルと剥ける赤い皮。村人たちは、まるで魔法の儀式を見るかのように固唾を呑んで見守っている。

ツヨシは皮を剥いた実を刻み、昨日完成した「極上の中力粉」で作った太めの麺……もとい、今回は少し平たく切った「フェットチーネ風」の麺を準備した。


2. 厨房に広がる未知の香り


フライパン(村の鍛冶屋に作らせた厚手の鉄板)に、森で採れた香草と、貴重な猪の脂、そして細かく砕いたニンニクに似た根菜を入れる。

パチパチとはじける音と共に、食欲をそそる香りが立ち上がった。


そこへ、刻んだレッドベリーを投入する。

「ここでじっくり火を通し、酸味を甘みに変えていくのがコツです」


真っ赤な果実が熱で崩れ、濃厚なソースへと変化していく。ツヨシは隠し味に、村で醸造されている少し酸っぱい果実酒と、一掴みの塩を加えた。


「さあ、仕上げです」

茹で上がったばかりのモチモチの平打ち麺を、ソースの中にダイブさせる。鮮やかな赤が白い麺に絡みつき、調理場全体が華やかな香りに包まれた。


3. 疑念が確信に変わる瞬間


「……毒じゃないのか? 本当に大丈夫なんだな?」

村長が恐る恐る、フォーク(これもツヨシの提案で自作したもの)を動かす。


麺を口に運んだ瞬間、村長の目が見開かれた。

「……っ!? なんだこれは! 爽やかな酸味の後に、強烈な旨味が追いかけてくる。猪の脂のしつこさが、この赤いソースで完全にかき消されているぞ!」


「美味しい! 甘酸っぱくて、食欲がどんどん湧いてくるわ!」

リナも、口の周りを赤く染めながら夢中で食べている。


「これなら食欲の落ちる夏場でもいけますし、肉料理の付け合わせにも最高ですよ」

ツヨシは、自分の皿を掲げて満足げに微笑んだ。


4. イタリアンの風、吹く


その日の夕食後、村の広場は「赤い麺」の話題で持ちきりだった。

これまで捨てられていた(あるいは眺めるだけだった)果実が、最高のご馳走に変わったのだ。


「ツヨシさん、次はあの実を乾燥させて保存できないかしら?」

「先生! 他の野菜もこのソースで煮込んだら旨いんじゃないか?」


村人たちの自由な発想に、ツヨシは元教員としての喜びを感じていた。

「ええ、いいですね。その意気です。開拓とは、発見と実験の繰り返しですから」


ツヨシは夜空を見上げ、ふと思う。

(次は……チーズが欲しいところですね。ヤギのミルクを加工して、本格的なピッツァでも焼きましょうか)


異世界の食卓に、また一つ、新しい「文化」が根付いた瞬間だった。

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