第六十四話:放課後の麺打ち実習
「いいですか、皆さん。道具が変われば、素材が変わる。素材が変われば、人生が変わる。今日はそれを証明しましょう」
ツヨシの声が、新設された村の共同調理場に響く。
目の前のテーブルには、昨日完成した「魔導製粉機」で挽いたばかりの、真っ白な粉が山のように積まれていた。これまでの石臼ではどうしても混じってしまった外皮の破片すら見当たらない、宝石のような輝きを放つ粉だ。
1. 「コシ」という未知の概念
「ツヨシさん、この粉でまたパンを焼くの? こんなに細かいなら、きっとふわふわになるわね!」
リナが目を輝かせるが、ツヨシは静かに首を振った。
「いえ、今日はパンは焼きません。作るのは『麺』……それも、私がいた世界で愛されていた『ウドン』という料理です」
ツヨシは粉に少量の塩水を加え、手際よく混ぜていく。
「大事なのは、しっかり練って寝かせること。そして……」
ツヨシは生地を丈夫な布に包むと、床に置いた。
「アルフ君、ガン君。この上で足踏みをしてください。ダンスをするように、リズムよくです」
「えぇっ!? 食べ物を足で踏むのかい?」
驚く若者たちに、ツヨシは眼鏡をクイと押し上げて微笑んだ。
「これが『グルテン』を鍛える……いえ、魔法よりも強力な『コシ』を生む儀式なのです」
2. 麺の開拓者たち
半信半疑ながらも、若者たちが代わる代わる生地を踏みつける。
しばらくして取り出された生地は、赤ちゃんの耳たぶのように滑らかで、驚くほどの弾力を持っていた。
それをツヨシが薄く伸ばし、包丁で細長く切っていく。
沸騰した大釜に放り込まれた白い筋が、踊るように茹で上がっていく光景に、村人たちは釘付けになった。
「さあ、まずはこの森のキノコで出汁をとったスープに入れて食べてみてください」
3. 衝撃の喉越し
最初に口にしたのは、村一番の食いしん坊、ガンだった。
「ズズッ、ズズズッ……!」
音を立てて啜るという、この世界にはない食べ方に最初は戸惑っていた周囲だったが、ガンの表情が変わるのを見て静まり返った。
「……なんだこれ!? モチモチしてるのに、喉を通り過ぎる感覚が最高だ! 噛むと押し返してくるような、この歯ごたえ……これが『コシ』か!」
「本当だわ! パンとは全然違う。ツルツルしてて、いくらでも食べられそう!」
リナも、新しい食感に目を丸くしている。
4. 新たな特産品の予感
「この麺は、乾燥させれば長期保存も可能です。冬の備蓄にも、交易品にもなるでしょう」
ツヨシの言葉に、村長が深く頷いた。
「ツヨシ殿、これは革命だ。あの製粉機があるからこそ、これほど大量の麺が安定して作れる。村の男たちも、これなら力仕事の合間に手軽にエネルギーを補給できるぞ」
ツヨシは、満足そうにウドンを啜る若者たちの姿を見て、ふと教え子たちの顔を思い出していた。
(美味しいものを食べている時の顔は、どの世界でも同じですね)
だが、ツヨシの計画はこれだけでは終わらない。
「次は……この粉を使って『パスタ』や『餃子の皮』にも挑戦してみましょうか」
ツヨシの「家庭科」の授業は、まだまだ続くようであった。




