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異世界転生:66歳元教員ツヨシの悠々自適な開拓生活  作者: 羽越世雌
第三章:未開の地のポテンシャル
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第六十三話:失敗は成功の父、あるいは別の何かの母

「……さて、この『鉄の暴れ馬』たちをどうしたものか」




ツヨシは広場に並んだ、大人たちの「情熱のなれの果て」を眺めて溜息をついた。


アルフの作った「全自動・開墾ゴーレム(試作一号)」は、今や広場の隅で巨大なオブジェと化している。魔石を抜かれたその姿は、まるで首を垂れた鉄の巨人のようだ。




「先生、やっぱり壊しちまうのか? 結構頑張って組んだんだがよ……」


アルフが申し訳なさそうに頭をかく。




「いえ、アルフさん。これだけの機構を作り上げたのは立派な才能です。ただ、『畑で使う』には出力が大きすぎただけなんです。……ふむ、少し見方を変えてみましょう」




ツヨシはゴーレムの背中にある、あの忌まわしき「回転式巨大ツルハシ」を指差した。




1. 破壊兵器から「村の土木作業員」へ




「アルフさん、このツルハシ、垂直に固定して地面を叩くのではなく、横向きに寝かせて、さらに回転速度を落とせますか?」


「え? ああ、ギヤを噛ませ直せばできるが……そんなんで何をするんだ?」




「村の北側にある岩場。あそこに水路を引きたいと言っていましたよね。硬い岩盤を手作業で砕くのは重労働ですが、この出力を一点に集中させれば――」




数時間後。


ガガガガガッ! という凄まじい轟音と共に、岩場に鮮やかな溝が刻まれていった。


「おおおっ! すげえ! 俺たちが一週間かかる岩削りが、たったの数分だ!」


アルフが叫ぶ。




「そうです。繊細な畑仕事には向きませんが、力任せの土木工事なら、この『暴走ゴーレム』は最高の相棒になります」




2. 溶鉱炉から「村の集中暖房システム」へ




次にツヨシが目をつけたのは、ガンが作った「地面を溶かすほど熱い炉」だった。




「ガンさん、この炉を直接使うのは危なすぎます。でも、この熱を『水』に伝えて、そのお湯を村の地下に通したらどうなると思いますか?」


「お湯を地下に? そりゃあ……地面が温かくなるな」




「そうです。冬場、雪が積もって動けなくなるこの村にとって、路面の凍結防止と、各家庭への温水配給は革命になります。この過剰な熱源を、大きな貯水タンクの加熱に使ってください」




「なるほど……! 鉄を溶かすんじゃねえ、冬の寒さを溶かすんだな!」


ガンの目が輝き、さっそく配管の設計に取り掛かった。




3. 泡立て器から「自動製粉機」へ




「あの高速回転の術式……もっと出力を上げて、回転軸を強化すれば、あれができるはずだ」




ツヨシは硬質な魔導合金の歯車と、巨大な石臼を特注した。




「ツヨシさん、こんな重い石臼をどうするんだ? 村の風車で挽くなら、今のままでも十分だろう?」


力自慢のガンが、荷台に積み込まれた部品を見て首をかしげる。




「ガン君、風待ちは非効率です。それに、手作業での脱穀と製粉に、村の女性たちがどれほどの時間を費やしているか知っていますか?」




ツヨシが作ろうとしていたのは、**『魔導式・多機能脱穀・製粉機』**だった。




ツヨシは、さっそく組み上げを開始した。泡立て器で培った「回転制御」の術式を、今度は重厚な石臼の駆動部へと組み込む。




「アルフ君、この術式に魔力を流してみてください。一定の速度を保つように、優しくですよ」




アルフが魔力を込めると、巨大な石臼が「グォォォン」と地鳴りのような音を立てて滑らかに回転し始めた。上部のホッパーから放り込まれた硬い麦が、みるみるうちに雪のような細かな白い粉へと姿を変え、下の受け皿に流れ落ちていく。




「な、なんだこれ!? 魔法で石臼が勝手に回ってる!」


「しかも、手で挽くよりずっと細かくて、さらさらだわ!」




リナが驚きの声を上げる。これまでは数人がかりで一日中かかっていた作業が、一人の魔導師が横に座っているだけで、わずか数十分で終わってしまうのだ。




4. 労働からの解放と「学び」の時間




「これで、脱穀から製粉までが一気に終わります。浮いた時間はどうしますか?」


ツヨシは眼鏡を光らせて、若者たちを見渡した。




「そりゃ、もっとたくさんパンが焼けるし、休めるけど……」


「いいえ。空いた時間は『勉強』に充ててもらいます。これからは読み書き算盤ができないと、この村の交易は支えられませんからね」




ツヨシの「教育者」としての笑顔に、若者たちは喜び半分、戦慄半分といった表情を浮かべた。




魔法の力で家事を楽にする。それはツヨシにとって、村人たちが「より良く生きるための時間」を創出するための、壮大な教育計画の一環でもあった。




ツヨシの「リサイクル」哲学




夕方、ツヨシは改良された「元・失敗作」たちが村を豊かにしていく様子を見守っていた。




「ツヨシ先生、やっぱりあんたはすごいな。俺たちがゴミにするしかなかったもんを、全部宝に変えちまった」


アルフが感心したように言う。




「いえいえ、私はただ『適材適所』を考えただけですよ。教育と同じです。数学は苦手でも、絵を描かせたら天才という子もいます。道具だって、使う場所を間違えなければ、すべてが役に立つのです」




ツヨシはそう言いながら、自分の手元にある小さな「失敗作」を弄んだ。


それは、ルミナが望遠鏡のレンズを磨く際に失敗して、光が妙な屈折をするようになったガラスの破片だ。




「……これも、万華鏡にすれば子供たちが喜ぶかもしれませんね」




村に新しい「音」が響き始めた。


ゴーレムが岩を砕く音、水路を流れる水の音、そして石臼の音。


失敗を笑い飛ばし、それを知恵で乗り越える。開拓村は、ツヨシが思っていた以上に逞しく、進化しようとしていた。

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