第六十二話:大人の本気は、時として子供より始末が悪い
子供たちの発表会が終わった翌日。
ツヨシは集会所の裏で、村の男たちが深刻な顔をして円陣を組んでいるのを見つけた。
「いいか、ポルやミリーがあれだけの物を作ったんだ。俺たち大人が『今まで通り』なんて面ができるか?」
中心にいたのは、村一番の力自慢、アルフだった。
「そうだ! ツヨシ先生が言ってた『テコの原理』と『歯車』。これを使えば、あの腰が痛くなるクワ仕事とおさらばできるはずだ!」
「俺は『水圧』に賭けるぜ。川の水を高い所に溜めて、一気に流すエネルギーで……」
ツヨシは物陰で頭を抱えた。
(……まずい。知的好奇心に火がついた大人は、加減というものを知らないんだ)
「大人の自由研究」発表会(非公式)
数日後、ツヨシは村の広場へ呼び出された。
そこに並んでいたのは、子供たちの「夢」とは一線を画す、生々しい「欲望」の結晶だった。
1. アルフの「全自動・開墾ゴーレム(試作一号)」
アルフが披露したのは、巨大な木製の骨組みに、魔石を組み込んだ重機のような代物だった。
「先生、見てくれ! 魔法で動く脚に、背中には巨大な回転式ツルハシを付けた。これで森を歩けば、勝手に畑が出来上がるって寸法だ!」
「アルフ君……それ、見た目が完全に『歩く破壊兵器』だよ。あと、そのツルハシの回転数だと土が飛び散って、周囲の家が泥まみれになると思うんだ」
2. 鍛冶屋のガンの「超高音熱・自動製鉄炉」
ガンが作ったのは、ツヨシが以前呟いた「ふいご」の自動化を発展させたものだった。
「先生に聞いた『酸素の送り込み』を魔法で強化した。風魔法の術者に頼まなくても、この魔石の回路があれば、鉄がバターみたいに溶けるぜ!」
「……ガンさん、それは素晴らしいけど、炉の周りの地面が溶け始めてるよ! 断熱材という概念を思い出して!」
3. 料理番たちの「魔導式・高速回転ミキサー」
主婦たちまでもが参戦していた。彼女たちが作ったのは、手回し式のハンドルを一度回すと、魔法の慣性で十分間回り続ける泡立て器だ。
「ツヨシ先生、これでお菓子のホイップが楽になるわ!」
「お、おう……それは純粋に便利そうだね。でも、回転が速すぎてボウルが粉砕されてないかい?」
ツヨシの特別講義:安全と平和
大人たちの「自由研究」は、どれも実用的だが、あまりにパワーが有り余っていた。
ツヨシは急遽、広場に大きな黒板を持ち出した。
「皆さん、静かに! 素晴らしい発明ばかりですが、一つ忘れていることがあります」
ツヨシは黒板に大きく書いた。
『制御』
「力は出せばいいというものじゃありません。ガソリン……ああいえ、魔力の消費効率、そして使う人の安全。これがないものは、道具ではなく『暴走する塊』です。アルフさん、そのゴーレムに『緊急停止スイッチ』は付いていますか?」
「……あ」
アルフが間抜けな声を出す。
「ガンさん、その炉が壊れた時、村全体が火の海になる可能性は?」
「……考えてなかったぜ」
ツヨシは優しく、しかし元教員らしい厳格さで説いた。
「大人の自由研究は、子供たちの模範でなければなりません。便利さを求めるのは素晴らしい。でも、それは『誰も傷つかない』ことが前提です」
開拓村の「産業革命」前夜
結局、大人たちの発明品はその日のうちに解体、あるいはツヨシの監視下で改良されることになった。
しかし、この「大人の自由研究」をきっかけに、村には新しい役職が生まれた。
『技術開発局』。
局長は、もちろんツヨシだ。
「先生! 次は『氷を運ばなくても冷たいままの箱』を作りたいんだが!」
「それは冷蔵庫だね。よし、構造を説明するから、まず魔法回路の安定化から始めようか」
夕暮れ時、ツヨシは冷えたお茶を飲みながら空を見上げた。
(悠々自適な隠居生活のはずが、なんだか工場の工場長みたいになってきたな……。まあ、みんなが楽しそうだから、よしとするか)
村の夜空には、ルミナの望遠鏡が捉えたクレーターのある月が、これまで以上に明るく輝いていた。




