第六十一話:恐怖の自由研究
「いいかい、みんな。明日から十日間は『夏休み』だ。ただし、一つだけ宿題を出すよ」
集会所に集まった子供たちに、ツヨシは懐かしい響きを告げた。
「それは『自由研究』だ。何でもいい、自分の不思議に思ったことを調べて、形にしてみてごらん」
ツヨシが意図したのは、朝顔の観察や、珍しい昆虫の採集、あるいは近所の川の石を調べるような、牧歌的なものだった。
だが、ツヨシの教え子たちはすでに「科学的思考」という名の魔法の杖を手に入れていた。
自由すぎる研究発表会
十日後。集会所には、ツヨシが予想だにしなかった「成果物」が並んでいた。
「……さて、トップバッターのポル君、君は何を調べたんだい?」
村のわんぱく坊主、ポルが誇らしげに差し出したのは、一本の不思議な杖だった。
「先生! 僕は『位置エネルギー』と『弾性エネルギー』について研究しました! 題して『全自動・石つぶて加速装置』です!」
それは、ゴムの代わりに魔法の斥力を利用し、放物線を描かずに直進する、実質的な「レールガン」のプロトタイプだった。
「ポル君、これは研究というより……兵器だね。放課後、先生と没収について相談しようか」
エコロジー(?)な大発明
続いて発表したのは、おとなしい少女のミリー。
彼女が見せたのは、村の井戸に取り付けられた銀色の複雑な装置だ。
「先生に教わった『気化熱』と『循環』を使いました。夏場は水がぬるくなるので、魔石の力で空気を冷やして、それを水に当てる……『全自動・村中冷房システム』です!」
「……ミリーちゃん、これはエアコンの室外機かな? しかも村全体の温度を下げるって、君の魔力は一体どうなってるんだい?」
ツヨシは冷や汗を拭った。彼女は氷魔法をそのまま使うのではなく、効率的な熱交換を魔法で再現したのだ。開拓村の一部だけが、現代のオフィスビルのような涼しさになっている。
最大の衝撃「ルミナの自由研究」
そして最後、大人げなくも参加したルミナが、布を被せた巨大な物体を持ってきた。
「ツヨシ先生! 私は先生が言っていた『もっと遠くの真理が見たい』という言葉に感銘を受けました!」
「……え、そんなこと言ったっけ?」
「言いました! だから作りました! 魔法レンズによる『大気圏外観測用・魔導反射望遠鏡』です!」
ルミナが布を剥ぎ取ると、そこには磨き抜かれた巨大な魔晶石のレンズが鎮座していた。
彼女は「屈折」の概念を極め、さらには「空気の揺らぎ」を魔法で打ち消す(適応光学)という、現代の天文学者が泣いて喜ぶような技術を一人で構築してしまったのだ。
「これで月を調べたんです。先生、月にはウサギも女神様もいませんでした……代わりに、たくさんの『穴』がありました!」
「……それはクレーターだね。うん、君たちはもう、私の教える範囲を成層圏まで超えてしまったようだ」
先生の決意
ツヨシは発表会の終わりに、深い溜息をついた。
子供たちの目は、未知への好奇心でキラキラと輝いている。かつての教室で見た、あの輝きと同じだ。
しかし、このスピードで技術が進歩すれば、いずれこの平穏な開拓生活が「産業革命」という名の嵐に巻き込まれるのは明白だった。
「みんな、素晴らしい研究だった。でもね、自由研究で一番大切なのは……『それで誰を幸せにするか』だ。ポル君、その加速装置で鳥を撃つんじゃなく、種まきに使えないか考えてごらん」
「種まき……あ! 高速で土に種を打ち込めば、耕さなくていいかも!」
「(……極端だな。まあ、いいか)」
ツヨシは、自分が蒔いた「科学」という種が、異世界の魔法という水を得て、想像を絶する花を咲かせ始めたことを確信した。
教育者としての喜びと、元一般人としての恐怖。その両方を抱えながら、ツヨシの開拓生活はますます「ハイテク」な方向へと突き進んでいくのだった。




