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異世界転生:66歳元教員ツヨシの悠々自適な開拓生活  作者: 羽越世雌
第一章:教務部長の村おこし
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第六話:湯煙と、黄金の燻製エビ

徴税官バートを追い返してから数週間。辺境の村ノアには、秋の終わりを告げる冷たい風が吹き込み始めていた。


「……やはり、冬の備えには『風呂』と『暖房』が欠かせんな」


ツヨシは村の共同浴場跡地に立っていた。かつては温泉が湧いていたようだが、今は配管が詰まり、冷たい水が溜まっているだけだ。


「顧問、また何か企んでるの?」

ミーナが、厚手の防寒着を羽織ってやってきた。


「企むとは人聞きが悪い。これは『福利厚生』の充実だよ。ミーナさん、君は冬に冷たい水で体を洗うのが好きかな?」


「まさか! 霜焼けで指が痛くなるのはもう嫌だよ」


「だろう? そこでだ。カイ君、少し手を貸してくれ。この古びた配管を『高圧洗浄』でぶち抜き、熱交換魔法回路を組み込む」


ツヨシはシステム管理者としての精密な配線技術を、今度は「水道配管」に応用した。魔石の熱を効率よく水に伝えるため、オンライン百科事典から得た「床暖房」と「瞬間湯沸かし器」の理論を組み合わせていく。


作業の合間、ツヨシはもう一つのプロジェクトを進めていた。

それは、村の池で養殖を始めた「異世界エビ」の加工だ。


「ただのエビじゃない。これを燻製にし、さらにオリーブオイルに似た油で漬け込む。名付けて『ノア特産・黄金の燻製エビ・オイル漬け』だ」


広場に設置された自家製スモーカーから、桜のチップ(の代わりの異世界の香木)の芳醇な香りが漂う。

ツヨシはかつて和太鼓部の顧問として、音の響きを追求したように、今度は「煙の回り方」を極限まで追求していた。


その日の夕方。

村人たちは驚愕の声を上げた。


「……あったかい! お湯が出てるぞ!」

「見てくれ、脱衣所の床までポカポカだ!」


ツヨシがリフォームした共同浴場は、現代のスーパー銭湯さながらの快適さを備えていた。洗面所には「洗面所暖房」が完備され、湯船からはたっぷりとした湯気が立ち上っている。


「いやぁ、定年後に自宅の便座を温水洗浄式に変えた時の感動を思い出すな」


風呂上がりの村人たちに、ツヨシは完成したばかりの燻製エビと、自家製の麦酒を振る舞った。


「さあ、試食会だ。これは来年、辺境伯領の市場で売るための試作品だが……皆の意見を聞かせてほしい」


パリッとした殻の食感、凝縮されたエビの旨味、そして香木の香りが絶妙に調和している。

村人たちは口々に「これなら金貨が稼げる!」「来年が楽しみだ!」と希望に満ちた声を上げた。


「顧問、本当にすごいよ。食べるものも、住む場所も、全部魔法みたいに良くなっていく」

ミーナが、湯上がりの赤い顔で笑う。


「魔法じゃないよ、ミーナさん。これは『改善』の積み重ねだ。学校も村も同じ。少しずつ、不便を潰していけば、そこはいつか天国になる」


ツヨシは、かつて山岳部のキャンプで生徒たちと囲んだ焚き火を思い出しながら、異世界の夜空を見上げた。

指の痛みはもうない。仏像製作のノミを握る力も、ビールを持つ手も、今の彼には漲るような生気がある。


「さて、次は正月……いや、冬至のイベントでも企画するか。吹奏楽部の顧問だった頃の経験を活かして、村の音楽祭というのも悪くないな」


六十六歳のツヨシが描く「理想のニュータウン」は、冬の寒さを吹き飛ばすほどの熱量で、着実にその完成度を高めていた。

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