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異世界転生:66歳元教員ツヨシの悠々自適な開拓生活  作者: 羽越世雌
第三章:未開の地のポテンシャル
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第五十一話:国境を越える「実習」の嵐

リベルニア王国の国境を越えた瞬間、ツヨシを乗せた馬車を止めたのは、王宮からの迎えではなく、窓の外に広がる「絶景」だった。


それは、見渡す限りの赤土と、手入れの放棄された広大な荒野。

国王が手紙で「不毛の地」と嘆いていたその場所を見て、ツヨシの教員生活で培った「開拓魂」に火がついた。


「……ほう。これは、なんという贅沢なキャンバスだ」


迎えに来たエドワード王子が「先生! 王宮で父上が待っています!」と叫ぶのも無視し、ツヨシは馬車から飛び降りた。彼は地面に膝をつき、土をひとつまみ口に含む。


「王子、王宮へ行くのは中止です。今すぐここに、全校……いや、全軍を集めなさい」


【王宮改革? いえ、国家プロジェクトです】


ツヨシの「家庭訪問」を心待ちにしていた国王(と、掃除の強要から逃げたかった廷臣たち)の前に現れたのは、泥だらけのジャージ姿のツヨシだった。


「陛下、挨拶は抜きです。あの北部の荒野、あれを放置するのは教育上よろしくない。あそこを『リベルニア国立・総合農業実習センター』に作り替えます」


「えっ、いや、あそこは魔物の出る呪われた地で……」

「魔物? ちょうどいい。体育の授業の代わりに『害獣駆除』の実習になります。それより、この国の予算書を見せてください。無駄な金色の装飾品を売れば、トラクター……もとい、魔力駆動の耕運機が百台は買えますね」


ツヨシの目は、もはや教え子の更生ではなく、「大規模農場の経営者」のそれになっていた。


【始まった「国営ツヨシ農場」の狂乱】


数日後。リベルニア王国の軍隊は、剣を捨ててスコップを握っていた。

ツヨシのプロデュースにより、軍の組織図は以下のように書き換えられた。


第一騎士団(通称:土木班):魔力剣による抜根および岩盤破砕。


魔導師団(通称:灌漑・散布班):水魔法による大規模な水路の維持と、風魔法による肥料の均一散布。


近衛騎士(通称:害獣ガード兼収穫班):収穫物の運搬と品質管理。


「いいか諸君! 腰を入れろ! 土の香りは平和の香りだ! 収穫祭で自分の育てた野菜を食べる喜びを知らずして、何が騎士の誇りか!」


ツヨシの怒声が荒野に響き渡る。

エドワード王子は、王宮で掃除をさせていた時よりも生き生きと、泥にまみれて「トラクター型ゴーレム」を操縦していた。


【パニック、そして繁栄へ】


最初こそ「王宮が乗っ取られた」「騎士道が死んだ」と大パニックが起きていた王国だったが、わずか数ヶ月で事態は一変した。


ツヨシが持ち込んだ「連作障害防止」の知識と、「効率的な生産ライン」の概念。

さらには「給食」として全国民に安価で栄養豊富なジャガイモが供給され始めると、不満を漏らしていた民衆は手のひらを返した。


「ツヨシ先生こそが真の賢者だ!」

「王宮の中を掃除するより、国中を耕す方がずっといい!」


国王は、豪華な王座からではなく、野外に設置された「農作業指揮所(ただのプレハブ小屋風の建物)」で、ツヨシと一緒におにぎりを頬張りながら、昨日の収穫高について語り合うようになっていた。


【一方、ツヨシの心境は……】


「……やれやれ。少し立ち寄るだけのつもりが、つい熱が入ってしまいました。ですが、やはり土は嘘をつきませんね」


夕日に染まる広大な農地を眺めながら、ツヨシは満足げに頷く。

しかし、彼の背後では、さらなる「未開の地」を抱える隣国からの使者たちが、行列を作って順番待ちをしていた。


「ツヨシ先生! 我が国の砂漠もぜひ、実習場にしていただきたい!」


ツヨシの隠居生活は、さらに遠のいていくのであった。



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