第五十話:王宮の朝はラジオ体操から始まる
一ヶ月の「特別指導」を終え、リベルニア王国へ帰還したエドワード王子は、別人のようになっていた。
宝石だらけの服を脱ぎ捨て、なぜか「ツヨシ」と刺繍された特注のジャージ(風の魔導衣)を身に纏い、その瞳には強い意志が宿っていたのである。
「父上、母上。僕は目が覚めました。この国に必要なのは、甘っちょろい魔法教育ではなく、『勤労』と『規律』です!」
感動の再会を期待していた国王夫妻の前に、エドワードは一本の鍬を突き立てた。
【地獄の朝礼、開幕】
翌朝。リベルニア王宮の時計が午前六時を指した瞬間、城中に魔導拡声器を通したエドワードの声が響き渡った。
「全近衛騎士、および文官諸君! 直ちに中庭へ集合せよ! 遅刻した者は、校庭(中庭)十周の刑だ!」
眠い目をこすりながら集まったエリートたち。彼らの前で、エドワードはおもむろに奇妙な音楽を流し始めた。
「いいか、まずは第一からだ! 腕を前から上に上げて、大きく背伸びの運動! ほら、そこの騎士団長、腰のキレが足りないぞ!」
伝説の「ラジオ体操第一」である。
鎧をガシャガシャ鳴らしながら、困惑しつつ体操する騎士たち。その光景は、王宮というよりは、完全にどこかの「昭和の学校」と化していた。
【王宮菜園計画:玉座よりジャガイモ】
エドワードの暴走は止まらない。
彼は次に、王宮の美しく整えられたバラ園を全て掘り返し始めた。
「王子! 何をなさるのですか! そのバラは建国記念の……!」
「黙れ! 花を愛でて腹が膨れるか! ここは今日から『第一実習圃場』とする。大臣、君も鍬を持て。土に触れれば、歪んだ政治も少しはマシになるはずだ!」
泣きながらジャガイモを植える大臣たち。
さらにエドワードは、王宮内の食堂に「給食当番制」を導入。
「自分の皿は自分で洗う!」「残さず食べる!」「いただきますを言うまでは食べ始めない!」
厳格なツヨシ・ルールの徹底により、これまで優雅だった王族の食事風景は、一気に「合宿所の食堂」へと変貌を遂げた。
【そして、ツヨシのもとへSOSが届く】
数日後。ツヨシが学園で穏やかに茶をすすっていると、リベルニア王国から一羽の伝書鳩が飛んできた。
『ツヨシ教長殿。至急、助けていただきたい。エドワードが……エドワードが、私の寝室まで『朝の清掃点検』と称して軍手で棚の埃をチェックしに来るのです。おまけに『雑巾がけが甘い』と、国王である私にバケツを持たせる始末。このままでは国がジャガイモ畑に沈みます』
手紙を読んだツヨシは、眼鏡をクイと押し上げた。
「……やれやれ。エドワード君、少し『教育』の加減を間違えたようですね。やりすぎは禁物だと教えたはずですが」
傍らでその様子を見ていた剣聖(給食当番)が、苦笑いしながら尋ねる。
「教長、どうなさるんですか?」
「仕方がありません。家庭訪問、あるいは『移動教室』といきましょうか。ちょうど、隣国の土質にも興味がありましたからね」
(第二章完)




