第四十九話:特別指導、ジャガイモは見ておられる
ツヨシ学園の校門前に、一台の豪華絢爛な馬車が止まった。
降りてきたのは、宝石をジャラジャラと身に纏った隣国の第一王子、エドワード。そして、その背後には困り果てた顔の国王の使いが控えていた。
「おい、ここが伝説の賢者がいるというボロ家か? この僕を呼び出すとは、よほど死にたいらしいな!」
エドワード王子は、かつて王宮で十人以上の家庭教師を「退屈だ」という理由でクビにし、気に入らないことがあれば魔法で教室を吹き飛ばしてきた「不登校の暴君」として有名だった。
【教長、現る】
ツヨシは、泥のついた軍手を外し、麦わら帽子を被り直して現れた。
「……ほう。君が新入生のエドワード君ですか。挨拶もなしに怒鳴るとは、家庭での躾に少し問題があったようですね」
「なんだと!? 貴様、僕を誰だと思って……!」
エドワードが火球を放とうと指先を向けた瞬間、ツヨシの鋭い視線が彼を射抜いた。
長年、教壇から数多の「問題児」を沈黙させてきた本物の「眼力」である。
「廊下で魔法を使わない。それと、目上の者と話す時はポケットから手を出しなさい。……一分以内に準備を。特別カリキュラムの時間です」
【特別指導:大地の声を聞け】
エドワードが連れて行かれたのは、教室ではなく、広大なジャガイモ畑だった。
「……は? なんだこの汚い場所は。僕は真理を教わりに来たんだ。泥遊びをしに来たんじゃない!」
「真理なら、その足元にありますよ。今日から一週間、君の担当は『第四区画の土寄せと雑草抜き』です。終わるまで、君に昼食はありません」
ツヨシは無造作に鍬を放り投げた。
「ふざけるな! 誰がこんな……」と言いかけたエドワードだったが、ツヨシの背後に控える「給食当番の剣聖」と「廊下掃除中の聖女」が、憐れみの混じった、しかし逃亡を許さない鋭い視線を向けていることに気づき、喉を鳴らした。
【王子の挫折と、小さな発見】
最初の一時間は罵詈雑言。
次の二時間は泣き言。
そして三時間が経過した頃、空腹に耐えかねたエドワードは、渋々鍬を握った。
「くそっ、なんで僕が……! この草、硬すぎるだろ! 魔法が使えれば一瞬なのに……!」
「魔法で草を焼けば、土の栄養まで死んでしまいます。君の指先は、破壊のためだけにあるのですか?」
ツヨシは時折、王子の横を通っては、ボソリとアドバイスを置いていく。
夕暮れ時、エドワードの手はマメだらけになり、豪華な服は泥まみれになっていた。しかし、彼が必死に土を寄せた一列のジャガイモたちは、朝よりも心なしか誇らしげに見えた。
「……ふん。少しは綺麗になったじゃないか。僕の美学には反するけどな」
その言葉を聞いたツヨシは、小さく頷いた。
【ジャガイモの煮っころがしと涙】
その日の夜。学園の食堂(兼、ツヨシの家)で、エドワードの前に出されたのは、何の変哲もない「ジャガイモの煮っころがし」と「麦飯」だった。
「……毒でも入っているんじゃないか?」
毒づきながらも、猛烈な空腹に勝てず一口食べたエドワードは、目を見開いた。
「っ……あまい……」
「それは君が今日、一日中守っていた区画で採れた去年の残りですよ。自分で守ったものの味はどうですか」
エドワードは、何も言えなかった。
王宮の山海の珍味よりも、泥まみれになって手に入れた一粒のジャガイモが、これほどまでに腹に染みるとは知らなかった。
「……明日も、やる。今日やり残した区画があるからな。僕がやらないと、あそこのジャガイモが死んでしまう」
ツヨシは眼鏡の奥で目を細めた。
「いい返事です。では明日は、朝のラジオ体操から参加してもらいましょうか」
こうして、異世界のわがまま王子は、伝説の賢者の下で「労働の喜び」という名の最強の魔法を学び始めることになった。




