第四十六話:足元に眠る巨竜
カイン(カズヤ)が村に腰を落ち着けて三日が過ぎた。
かつての最強傭兵団長は、ツヨシに命じられるまま「数学の知識を活かした灌漑計画」の計算に追われていた。
「……おい、先生。ずっと気になってたんだが、この村の『位置』、あんた分かってて選んだのか?」
カインは羊皮紙に描かれた村の地図を指さし、不機嫌そうに尋ねた。
【不自然な豊穣】
「位置、か。いや、ただ水が綺麗で、日当たりが良かったから選んだだけなんだが……。それがどうしたんだ?」
ツヨシが鍬の手を休めて聞き返す。
「この土地は、周辺の魔力濃度が異常に安定しすぎている。本来、未開拓地ってのはもっと荒ぶる魔物が出るはずだ。だが、ここは結界に守られているかのように静かすぎる」
カインは懐から、古ぼけた金属製の「魔力探査機」を取り出した。それは彼がかつて古代遺跡を略奪した際に入手したアーティファクトだという。
「俺が軍団長だった頃、ある禁書を読んだ。……『失われた黄金時代』、すなわち一万年前の古代文明の首都。そこには地脈を制御し、無限のエネルギーを生み出す装置があったとされている」
カインが装置を地面にかざすと、針が振り切れるほどの反応を示した。
【学校の地下室のような秘密】
「先生。あんたが毎日耕しているその畑の、ちょうど三十メートル真下だ。そこには土じゃない、何らかの『構造物』がある」
アイリスやレオポルド王子も集まってきた。
「まさか、ツヨシ殿が選んだこの地が、伝説の聖地だというのですか?」
「聖地なんて可愛いもんじゃない。……見てろ」
カインが指を鳴らすと、小さな衝撃波が地面を叩いた。すると、普段なら土が舞うはずが、どこか金属的な「カーン」という低い反響音が村中に響き渡った。
「……まるで、体育館の下に隠し倉庫があるようなものだな」
ツヨシは苦笑いしながら呟いたが、事態の深刻さは理解していた。
【発掘された「記憶」】
翌日、カインの指揮のもと、村の広場の一角を掘り進めることになった。
アイリスの怪力とカインの土魔法を合わせれば、三十メートルの穴など数時間で完成する。
そして、彼らが辿り着いたのは、土ではなく「白銀の壁」だった。
泥を拭うと、そこには幾何学的な紋様が浮かび上がり、ツヨシには見覚えのある、だがこの世界には存在しないはずの「文字」が刻まれていた。
「これは……漢字、か……?」
そこには、剥げかけた塗料でこう記されていた。
『——国立環境エネルギー研究所:第十七試験区——』
「先生、読めるのか? その奇妙なルーン文字を」
アイリスが目を見開く。
「……ああ。どうやらここは、私のいた世界……あるいは、それと地続きの未来か過去の遺産らしい」
【新たな脅威と可能性】
その文字が光を放った瞬間、村全体の土壌が淡く輝き始めた。
ツヨシの育てていた野菜が異常な速度で成長し、枯れかけていた遠くの森までが緑を取り戻していく。
「この装置が、土地を浄化していたのか……」
だが、喜びも束の間、カインが空を仰いだ。
「……まずいな。これだけの魔力反応が出れば、帝国の魔道衛星や、俺の部下どもが放っている偵察鳥に気づかれる」
ツヨシの「悠々自適な開拓生活」は、図らずも「世界の中心」を掘り当ててしまったことで、政治と戦争の渦中に引きずり込まれようとしていた。
「困ったな……。私はただ、美味しい野菜を作って、皆と笑って過ごしたいだけなんだがね」
ツヨシは白銀の壁に手を触れ、かつての教え子と今の弟子たちを見つめた。
「だが、まあ……隠しきれないなら、正々堂々と『学校の敷地』として管理するしかないか」




