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異世界転生:66歳元教員ツヨシの悠々自適な開拓生活  作者: 羽越世雌
第二章:社会構造の変革(魔物との共生)
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第四十四話:王国からの引き抜き工作

「……報告は、以上でございます」

「……もう一度言え。耳の掃除が必要なようだ」


アストレア王国の王都。豪華絢爛な謁見の間で、国王は頭を抱えていた。

隣国から「婚約」のために派遣されたはずの第一王子レオポルドが、辺境の村で「鶏の糞掃除」に明け暮れ、あろうことか「見習い開拓生」を名乗っているという。


「……即座に特使を送れ。アイリスを連れ戻すのはもちろんだが、その『ツヨシ』とかいう男……。王子を洗脳するほどの智略、そして魔導具の知識。生かしてはおけん。……いや、我が国に引き抜くのだ」


【特使の来訪:エリート官僚の傲慢】


数日後。村には王宮筆頭魔導師兼、外交特使のセバスチャンが訪れていた。

彼はレオポルド王子が泥だらけで「コンクリートの練り方」を学んでいる姿を見て絶句したが、すぐに気を取り直してツヨシのもとへ向かった。


「ツヨシ殿とお見受けする。私はアストレア王国特使のセバスチャンだ。単刀直入に言おう。貴殿を、王立魔導学院の名誉教授、及び国王陛下直属の特別顧問として迎えたい」


ツヨシは開拓用の作業着のまま、穏やかに微笑んだ。

「はっはっは。私のような隠居した老人に、随分な大役ですね」


【甘い誘惑と、ツヨシの「教壇」】


セバスチャンは、用意していた「条件」を並べ立てた。

「報酬は現在の百倍。王都の一等地に屋敷を構え、研究費は無制限。どうだ、こんな泥臭い村で鍬を振るうより、遥かに有意義な人生だと思わないかね?」


村人たちはざわついた。これだけの条件なら、ツヨシ様は行ってしまうのではないか。アイリスも不安そうにツヨシの背中を見つめる。


しかし、ツヨシはゆっくりと眼鏡を外して、それを丁寧に拭きながら答えた。

「特使殿。私は以前、別の世界で四十年間、教壇に立っておりました。その時に学んだ一番大切なことは、『教育は贅沢品ではなく、生きるための力』だということです」


「何が言いたい?」


「王宮で少数のエリートに秘術を教えるより、この村で、子供たちが明日のお腹を満たすための知恵を教える。私にとっては、こちらの方がずっと『有意義』なんです。報酬なら、昨日の夕方に教え子の子供からもらった『よく書けたテストの答案用紙』で、もう十分いただいていますよ」


【「大人」の交渉術】


セバスチャンは苛立ち、強硬手段を匂わせた。

「……断れば、この村は王国の公認を失い、不法占拠として軍を出すことになるかもしれんのだぞ?」


その瞬間、レオポルド王子が割って入った。手には「セメント用のスコップ」を握りしめている。

「セバスチャン! 先生を脅すつもりか! ならば、まずこの私を斬ってからにしろ! 私はここで、人生で初めて『自分の足で立つ』喜びを知ったのだ!」


ツヨシは王子を制し、セバスチャンに向き直った。

「特使殿、そう焦らないでください。引き抜きは断りますが、『技術提携』なら考えてもいいですよ」


「技術提携……だと?」


「ええ。この村で作った『魔導農具』や『浄水設備』のライブラリを公開しましょう。その代わり、この村の自治を認め、交易の関税を免除する。……王国にとっても、一人の老人を拉致するより、国家全体の生産性が上がる魅力的な提案ではありませんか?」


【結果:特使、うっかり「村の食事」に胃袋を掴まれる】


ツヨシは、交渉の締めくくりに「接待」として、自家製の味噌を使った『特製豚汁』と、土鍋で炊いた『銀シャリ』を振る舞った。


「……っ!? 何だこの深い旨味は……! この白い粒の一つ一つが、宝石のように輝いて……」


エリート意識の塊だったセバスチャンも、一口食べた瞬間、その「生活の質」の高さに打ちのめされた。王宮の最高級料理にもない、心に染み渡る味。


「……わかりました。ツヨシ殿。この件、陛下には私から『彼は国家の脅威ではなく、世界の宝である』と報告しましょう。……ただし、その、この『味噌』というのを、少し分けていただけないだろうか」


「もちろんです。お土産に持たせましょう」


【結末:平和な日常、そして……】


特使の馬車が帰っていくのを見送りながら、アイリスが言った。

「ツヨシ先生、また上手く丸め込みましたね」


「いやぁ、美味しいものを一緒に食べれば、大抵のことは解決するもんですよ」


その横で、レオポルド王子が叫んでいる。

「先生! 豚汁のパワーで、次の用水路の掘削、私一人で十メートル行けます!」


ツヨシは苦笑いしながら、「はっはっは、無理は禁物ですよ、一号くん」と声をかけるのだった。

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