第三十九話:ドワーフの職人魂と「魔法式全自動洗濯機」
「ツヨシよ、この『スクリュー』とかいう羽根の角度……あと3度傾ければ、水の回転効率が1.2倍になる。どうだ?」
ドワーフの族長ガンテツが、煤けた顔で図面を突き出す。
「なるほど、流体力学を感覚で理解しているんですか。素晴らしい。では、脱水時の遠心力に耐えられるよう、軸受けには例の『ミスリル合金』を使いましょう」
ツヨシの作業場は、今や「異世界版シリコンバレー」と化していた。
【家事革命:魔法式全自動洗濯機の誕生】
開拓地の女性陣(元盗賊や移住してきた魔族の娘たち)にとって、最大の重労働は川での洗濯だった。冬の冷たい水、腰を痛める作業。それを見かねたツヨシが、ドワーフと共同開発したのが「魔導洗濯機一号機」である。
水洗:
水系魔石を動力源とし、ボタン一つで最適な量の水が溜まる。
回転:
ガンテツが削り出した高精度なギアと、風系魔導師による「旋回魔法」の組み合わせ。
乾燥:
微弱な火系魔法で温風を送り、最後はふっくらと仕上げる。
「……信じられない。放っておくだけで、汚れが落ちて乾いてるなんて。これは魔法じゃなくて、神の奇跡だわ!」
洗濯機から出てきたタオルを抱きしめ、村の女性たちは涙した。
【教育者ツヨシの「知的財産権」講座】
技術が急速に発展する中、ツヨシはドワーフたちを集めて青空教室を開いた。今回のテーマは「特許と技術の共有」だ。
「いいですか、ガンテツさん。この技術を独占してはいけません。ですが、正当な報酬なしに盗ませてもいけない。我々は『ライセンス契約』という概念をこの世界に広めるんです」
ツヨシは黒板(に加工した石板)に、現代社会の経済システムを書き出していく。
「ただの職人で終わるか、産業の父になるか。ドワーフの誇りを、形にする時です」
ガンテツは震える手で酒を煽った。
「……ツヨシ、あんたは恐ろしい男だ。この仕組みがあれば、わしら職人は一生食いっぱぐれねえどころか、歴史に名が刻まれる」
【温泉街の夜:床暖房と地酒】
その夜、ドワーフたちが手がけた「温泉旅館・ツヨシ亭」の離れで、ささやかな祝宴が開かれた。
ドワーフの技術で温泉の排熱を床下へ通す「床暖房」が完璧に機能し、冬の足音が聞こえる外気とは裏腹に、室内は春のような暖かさだ。
「教皇様に聖騎士、魔族の戦士にドワーフの族長……。いやはや、私の教え子(?)も随分と賑やかになりましたね」
ツヨシは、ドワーフが持参した度数の高い「ドワーフ銀杯酒」をちびちびと舐めながら、窓の外の開拓地を眺める。
かつては荒野だった場所に、魔法の街灯が灯り、人々の笑い声が絶えない。
【新たな影:商会の野欲】
しかし、平和な開拓地を放っておかない勢力もいた。
「魔法の洗濯機」や「特許」という概念、そして莫大な利益を生む「温泉リゾート」。
大陸最大の商業組織「黄金の天秤商会」の極秘会合。
「……あの老いぼれから、全ての権利を買い叩け。応じぬなら、経済封鎖だ。教皇や魔王軍が守っているとはいえ、金が動かなければ街は枯れる」
ツヨシの元に、丁寧な、しかし冷徹なまでの「招待状」が届く。
それは、商業都市メトロポリタでの「通商協議」への呼び出しだった。
「……やれやれ。今度は政治と経済の授業が必要なようですね」
ツヨシは静かに眼鏡を拭き、腰のスコップを一撫でした。




