第三十八話:裸の付き合いと極楽の露天風呂
「……出たぞーッ! お湯だ! 温かいお湯が吹き出したぞ!」
アルベルト騎士団長の歓喜の叫びが、村の北側にある岩山に響き渡った。
聖教国が誇る秘宝「聖剣」は今、ツヨシの指導により「ツルハシ代わりの掘削具」として酷使され、ついに地下深くの熱源へと到達したのだ。
ツヨシはタオルを首にかけ、満足げに頷いた。
「いやあ、お疲れ様。アルベルト君。これでようやく、私の悲願だった『教育的リフレッシュ施設』が作れるよ」
【異世界初のスーパー銭湯「悠々湯」建設】
ツヨシの指示は的確だった。
定年後に趣味で通い詰めた全国の温泉地の記憶を呼び起こし、彼は現場監督として騎士たちと魔族たちを指揮した。
石造りの大浴場:
騎士団が切り出した大理石を、魔族の土魔法で隙間なく接合。床には「滑り止め」の加工を施す念の入れようだ。
魔力式追い炊き機能:
火系魔導師たちが「一生の不覚」と泣きながら、風呂の温度を42度に保つ魔法陣を刻み込んだ。
サウナと水風呂:
「我慢の先にある『ととのう』という境地を教えよう」というツヨシの言葉に、騎士たちは新たな修行だと思って食いついた。
【「裸の付き合い」の教育的効果】
数週間後、ついに「悠々湯」がプレオープンを迎えた。
そこには、前代未聞の光景が広がっていた。
「……おい、魔族。背中を流してやろうか?」
「ふん、人間ごときに。……だが、その、左の方が少し痒いな。頼む」
脱衣所で武器を預け、服を脱ぎ捨てれば、そこにあるのはただの「おじさん」と「若者」の肉体だけだ。
ツヨシが提唱する「裸の付き合い」は、種族間のわだかまりを溶かす強力な洗浄剤となった。
湯船に浸かりながら、アルベルトは隣に座る魔族の戦士に語りかける。
「……我々はなぜ、あんなに血眼になって戦っていたのだろうな。こうして湯に浸かっていれば、平和が一番だとわかるものを」
「全くだ。ツヨシ先生の言う通りだ。戦いよりも、風呂上がりの一杯の方が価値がある」
【風呂上がりの黄金コンビ】
風呂から上がった客たちを待ち受けていたのは、ツヨシが用意した「湯上がり処」だった。
「はい、お疲れ様。冷えた牛乳……と言いたいところだけど、今日は特製の『フルーツ水』と、出来たての『温泉卵』だよ」
ツヨシが手際よく配るのは、村の養鶏場で採れた卵を温泉の熱でじっくり仕上げた温泉卵。それに、ほんの少しの岩塩を振っただけのシンプルなものだが、火照った体には何よりのご馳走だ。
「……う、うまい。この絶妙な半熟加減、奇跡か!?」
「ツヨシ先生、この黄色い飲み物(マンゴー風果実水)は一体……!? 魂が洗われるようだ!」
【波乱の予感:観光地の噂】
この「温泉リゾート」の噂は、瞬く間に近隣諸国へと広がった。
教皇が持ち帰った石鹸とカレー、そして「敵同士が全裸で笑い合っている」という衝撃的な報告。
視察を終えた各国の商ギルドや、密偵たちは皆、同じ感想を抱いて帰国した。
「あそこは楽園だ。それも、一人の老教師が支配する、恐ろしく平和な楽園だ」
そんな中、ツヨシの元に一人の客が訪れる。
それは聖教国の人間でも、魔王軍の魔族でもなかった。
「……お主が、噂の『導師』か? ウチの若い衆が世話になったようで」
現れたのは、小柄だが筋肉質な体躯に、長い髭を蓄えた老人。
大陸随一の技術集団「ドワーフ族」の族長であった。
「ツヨシさん。あんたの作った『モール』と『風呂』、面白いが……構造が甘いな。わしらドワーフの技術を入れれば、もっとすごいもんができるぜ?」
ツヨシは眼鏡を指で押し上げ、不敵に微笑んだ。
「それは心強い。ちょうど『全自動洗濯機』と『床暖房』の設計で行き詰まっていたところなんですよ。……さあ、まずは一風呂浴びてから話をしましょうか」
ツヨシの開拓生活は、ついに「異世界産業革命」の入り口へと差し掛かろうとしていた。




