第三十六話:騎士団の「奉仕作業」と驚異のインフラ整備
「いいか、お前たち! 剣は置け! スコップを持て! 聖教国で培ったその筋肉は、人を傷つけるためではなく、道を切り拓くためにあるんだ!」
村の外縁部では、騎士団長アルベルトが、かつてないほど気合の入った声で部下たちを鼓舞していた。
数日前まで「異端殲滅」を叫んでいた男は、今やツヨシから任命された『土木実習主任』として、泥にまみれて指揮を執っている。
「ツヨシ先生、見てください! 排水溝の傾斜、完璧に十五度を保っています!」
ツヨシは竹尺を手に、深く頷いた。
「うん、アルベルト君。いい仕事だ。基礎がしっかりしていれば、百年の風雪にも耐えられる。君には建築の才能があるね」
「もったいないお言葉です!」
アルベルトは、教皇に褒められた時よりも嬉しそうに顔を輝かせた。
【騎士団、魔改造される】
ツヨシの提案は合理的だった。
三千人の屈強な男たちを遊ばせておくのは食料の無駄だ。ならば、彼らに「技術」を教え、村のインフラを整備してもらう。これがツヨシ流の『奉仕作業による更生プログラム』である。
重装騎士による整地:
全身鎧の重さを活かし、騎士たちが一列になって足踏みをすることで、地面がローラー車並みに踏み固められた。
魔法騎士による治水:
攻撃魔法しか知らなかった魔導士たちは、火力の調整を覚え、「岩盤をピンポイントで加熱して砕く」「水流操作で土砂を運び出す」という高度な精密魔法を習得。
聖騎士による栄養管理:
神聖魔法は、怪我の治療だけでなく、堆肥の分解促進や害虫駆除に応用された。
【カレーライスの衝撃】
作業の合間の昼休み。村の広場には巨大な大釜がいくつも並んでいた。
今日の献立は、ツヨシ直伝の「開拓地カレー」だ。
「さあ、みんな、並んで。おかわりはあるから、慌てないでね」
聖女三姉妹が笑顔で配膳を担当する。
「……これが、禁断の煮込み料理……」
ある騎士が、震える手でスプーンを口に運んだ。
スパイスの刺激と、飴色になるまで炒められたタマネギの甘み、そして村で獲れたての野菜。
「美味い……。国で食べていた硬いパンと薄いスープは何だったんだ……」
「俺、もう聖教国には帰りたくない。ここで一生、溝を掘って暮らしたい」
騎士たちの目からは、熱い涙がこぼれ落ちていた。
【教皇の動揺と「家庭訪問」】
一方、聖教国の王都。
教皇は、送られてくる定期報告書を読んで、椅子から転げ落ちそうになっていた。
『報告:鉄血騎士団は現在、異端の村にて「下水道の重要性」を学んでいます。アルベルト団長は現在、堆肥作りに熱中しており、帰還の意思は皆無とのこと。また、魔族の子供たちと一緒に行う「朝のラジオ体操」が騎士団内で大流行しております』
「……何なのだ、このツヨシという男は! 我が国の誇る精鋭を、たった数日で農作業員に変えてしまうとは!」
教皇は震える声で側近に命じた。
「……馬車を出せ。私が直接、その村へ行く。これは『視察』ではない。……『家庭訪問』だ!」
【一方その頃、ツヨシは】
「ふむ、そろそろ新しい校舎を建てたいところだね。アルベルト君、次は『コンクリートの配合』について実習しようか」
「はい! 喜んで、ツヨシ先生!」
ツヨシの開拓生活は、いつの間にか国家のパワーバランスを塗り替える、巨大な「教育プロジェクト」へと変貌していた。




