第三十五話:最強騎士団と「平和学習」の遠足
「先生! 大変です! 西の街道から、太陽を反射するほどピカピカの鎧を着た集団が迫っています!」
見張りをしていた元魔王軍の偵察兵(現在はツヨシの教え子・村の郵便係)が、息を切らして学校(仮設テント)に飛び込んできた。
ツヨシは老眼鏡を上げ、黒板に書いていた『持続可能な村づくり』の手を止めた。
「ほう、ピカピカの鎧か。それはきっと、社会科見学の団体さんかな?」
「違いますわ、ツヨシ様! あれは聖教国の『鉄血騎士団』……。問答無用で異端を焼き払う、狂信者の集団です!」
ステラが青ざめながら杖を握りしめる。
しかし、ツヨシの反応は至って冷静だった。
「なるほど、鉄の血か。鉄分不足はイライラの元だからね。よし、みんな。今日は急遽予定を変更して『平和学習』のフィールドワークだ。ノートと鉛筆を持って外に出よう」
【騎士団長アルベルトの困惑】
「異端の村を浄化せよ! 神の雷を持って、邪悪なる老教師を討つべし!」
騎士団長アルベルトは、白馬に跨り、三千の重装騎士を率いて村の入り口まで到達した。
だが、そこで彼が目にしたのは、武装した軍勢ではなく、整列して「おはようございます!」と元気よく挨拶をする魔族の子供たちと、一人の温和そうな老人だった。
「……何だ、この光景は。罠か? 精神攻撃の一種か?」
アルベルトが剣を抜こうとした瞬間、ツヨシが歩み寄ってきた。
「はい、そこのリーダー君。公共の場で大きな声を出すのは感心しないな。近所迷惑という言葉を知っているかな?」
「き、貴様がツヨシか! 聖教国の権威を汚し、聖女たちをたぶらかした大罪人め!」
「たぶらかすだなんて、人聞きの悪い。私はただ、彼女たちに『美味しいお米の研ぎ方』を教えただけだよ。ところで君たち、そんな重い鎧を着てここまで歩いてきたのかい? 水分補給は? 熱中症対策は万全かな?」
【特別授業:非暴力不服従と炊き出し】
アルベルトが攻撃の号令をかけようとするが、なぜか声が出ない。
ツヨシの放つ「教員歴四十年の威圧感」……それは、悪いことをして職員室に呼び出された時のあの独特の「圧」と同じものだった。
「まずは座りなさい。話はそれからだ。……あ、そこの騎士君、剣をガチャガチャさせない。危ないだろう?」
ツヨシの合図で、村人(魔族と元特使たち)が手際よく「麦茶」と「おにぎり」を運び出した。
「戦う前に、まずはお腹を満たそう。空腹は争いの元だ。これは私の村で獲れた新米で作った、塩むすびだよ」
騎士たちは戸惑った。彼らは「魔族を殺せ」と教わってきたが、「魔族から差し出されたキンキンに冷えた麦茶」をどう処理すべきか、教本には書いていなかった。
一人、また一人と、喉の渇きに耐えかねて麦茶に手を伸ばす。
「……っ! なんだこの喉ごしは! 聖水よりも身体に染み渡る……!」
「この白い塊……塩加減が絶妙だ。母さんの味を思い出す……」
【教育という名の無力化】
「団長! このおにぎり、中身に『鮭』が入っています! 絶品です!」
「馬鹿者、食べるなと言って……むぐっ! ……美味い、美味すぎる!」
三千の精鋭騎士団は、わずか三十分で「ツヨシの青空教室」の生徒へと成り下がった。
彼らは地面に体育座りをさせられ、ツヨシの「命の大切さ」についての講義を神妙な面持ちで聴いている。
「……というわけで、剣は人を傷つけるためではなく、料理や工作のために使うのが本来の姿だ。分かったかな?」
「「「はい、ツヨシ先生!!!」」」
三千人の野太い返事が山々に響き渡った。
【聖教国の終焉(?)】
村の入り口では、聖女三姉妹がその光景を眺めていた。
「あら、騎士団の皆さんも『入学』されたようですわね」
クラリスが微笑む。
「これでまた、カレーの仕込みが大変になりますわ」
ベアトリスが嬉しそうに溜息をつく。
一方、聖教国本国。
「……騎士団が、全員体育座りで説教を受けているだと……?」
教皇は震える手で報告書を破り捨てた。
ツヨシの開拓生活は、ついに一国家の軍事力を「更生」させるまでに至ったのである。




