第三十四話:聖女三姉妹と禁断の調理実習
運動会の熱狂が冷めやらぬ村に、新たな来訪者が現れた。
純白の法衣に身を包んだ、麗しき三人の乙女。聖教国が誇るエリート集団「審問聖女隊」――通称、聖女三姉妹である。
「……あ、あれはコンスタンス大司教様? なぜ……なぜ骸骨と肩を組んで踊っていらっしゃるの!?」
長女のクラリスが絶句する。彼女たちの目の前では、運動会の打ち上げ(通称:バーベキュー大会)が開催されており、元特使たちが魔族と一緒に肉を焼き、談笑していた。
「おのれ、ツヨシという男……。よほど強力な精神汚染魔法を使っているようね」
次女のベアトリスが杖を構える。
「お姉様、まずは様子を見ましょう。あの男の『術』の正体を暴くのが先決です」
三女のドロシーが冷静に分析する。
そんな彼女たちの前に、エプロン姿の老人が現れた。
「おや、新しいお客さんかな? ちょうど良かった、今から『調理実習』を兼ねた炊き出しを始めるところなんだ。君たちも手伝ってくれるかい?」
ツヨシの屈託のない笑顔。その背後には、彼を「神」のように慕う魔王ゼノンと、ライバル心を燃やすステラの姿があった。
【特別授業:カレーライスという名の衝撃】
ツヨシは彼女たちの正体を知ってか知らずか(おそらく知っている)、三人に包丁とエプロンを持たせた。
「いいかい、料理は教育だ。火加減、水加減、そして何より『相手を思う心』。これが欠ければ、どんな魔法も料理も人を幸せにはできない」
聖女たちは、ツヨシの威圧感ゼロ、しかし教員としての年季が入りまくった「指導」に、思わず「はい、先生!」と返事をしてしまう。
今回のメニューは、ツヨシがスパイスから調合した「特製・魔界野菜のカレー」である。
「……何ですの、この香りは? 鼻腔を突き抜け、魂を揺さぶるような……」
クラリスが一口食べた瞬間、彼女の脳内に「草原を駆け抜ける純白の一角獣」のイメージが広がった。
「辛い……。でも、止まらない。このジャガイモのホクホク感、聖教国の配給食とは比べ物になりませんわ!」
ベアトリスが涙を流しながらスプーンを動かす。
「先生……おかわりを、おかわりをお願いします……」
ドロシーはすでに三杯目に突入していた。
【ステラの防衛本能】
その様子を、ステラがじっと見つめていた。
「(……いけません。あの三姉妹、ツヨシ様の料理に完全に胃袋を掴まれていますわ。これでは『教え子』という名のハーレムに新入生が加わってしまう……!)」
ステラはツヨシの隣を確保し、甲斐甲斐しく汗を拭く。
「ツヨシ様、お疲れではありませんか? デザートのプリンは、私が魔法で冷やしておきましたわ」
「おっ、気が利くねステラさん。流石は私の自慢の教え子だ」
ツヨシに頭を撫でられ、ステラは勝ち誇ったような顔で聖女たちをチラリと見た。聖女三姉妹の間に、妙な火花が散り始める。
【その頃、聖教国では】
「……まだか。聖女たちからの報告はまだか!」
審問官長が憤怒に震えていた。
そこに届いた一通の通信書。
『先生のカレー、最高です。現在、ナンを焼く修行に入ったため、帰還は無期限延期とします。 追伸:ここの魔王様は意外と話が分かります』
「……どいつもこいつも! 洗脳だ! 完璧な洗脳だ!」
聖教国はついに、最終兵器である「異端審問騎士団」の総動員を決定しようとしていた。
しかし村では、ツヨシが新しい教え子たちに「キャンプの火起こし」を教えている。
「いいかい、マッチがない時は摩擦熱。これ、テストに出るからね」
異世界の脅威よりも、ツヨシの「生活の知恵」の方が、着実に世界を塗り替えていた。




