第三十三話:波乱の第一回・村合同運動会
「……ひぃ、ひぃ、もう動けません……」
「コラ、大司教君! 腰が高い! 雑草は根っこから抜くと言っただろう!」
ツヨシの厳しい声が響く。
聖教国の特使コンスタンスと騎士団は、重い鎧を脱がされ、村の「特別実習生」として畑仕事に邁進していた。彼らの傲慢な態度は、数日間の農作業と、ツヨシによる夜な夜なの「道徳講義」によって、すっかり鳴りを潜めていた。
「よし、今日はここまで。明日は待ちに待った『村合同運動会』だ。しっかり休んでおくように」
ツヨシの宣言に、村中が沸き立った。
魔族と人間、そして元敵対勢力が混ざり合う、前代未聞のスポーツの祭典が幕を開けようとしていた。
【運動会当日:快晴】
村の広場は、色とりどりの旗で飾られていた。
赤組は大将・魔王ゼノン率いる「魔族・魔物連合」。
白組は大将・ステラ率いる「人間・移住民連合」。
「ゼノンさん、手加減は無用ですが、破壊魔法はやめてくださいね」
「心得ているよ、ツヨシ先生。しかし、勝負事となれば負けるわけにはいかない」
ゼノンはやる気満々だ。四天王のザルガスも、頭に赤いハチマキを巻いて「うおおお!」と雄叫びを上げている。
一方の白組、ステラはツヨシの隣を陣取り、ライバル心を燃やしていた。
「ツヨシ様、見ていてください。私たちの絆が、力自慢の魔族に勝ることを証明してみせますわ!」
第一種目:多種族混成・二人三脚
これはツヨシが発案した「相互理解」のための種目だ。
走者はくじ引きで決められる。
「……な、なぜ私がこの骨と!?」
絶叫したのは、実習生として参加させられたコンスタンス大司教。彼の相方は、村の警備担当のスケルトン兵だった。
「いいか、コンスタンス君。呼吸を合わせるんだ。イチ、ニ、イチ、ニ……!」
「骨に呼吸なんてありませんぞー!」
しかし、走り出してみれば意外にも息が合う。生死を超えた絆が、爆速の走りを生み出していく。
メインイベント:騎馬戦
会場の熱気は最高潮に達した。
赤組の騎馬は、ザルガスを土台にした魔王ゼノン。
白組の騎馬は、屈強な開拓民を土台にしたステラ。
「魔王、覚悟!」
ステラが聖剣(竹ぼうき製)を振りかざす。
「受けて立とう、聖女!」
ゼノンが魔力を抑えた衝撃波を放つ。
その激闘は、種族の壁を超えて観客を熱狂させた。
子供たちが「頑張れー!」と種族関係なく応援し、大人たちは酒を酌み交わしながら勝負の行方を見守る。そこには、かつての憎しみ合いなど微塵も感じられなかった。
【不穏な影】
運動会が終盤に差し掛かった頃、コンスタンス大司教の懐で、小さな通信水晶が怪しく光った。
『……コンスタンスよ、報告せよ。聖者ツヨシの確保はまだか?』
水晶から漏れ聞こえるのは、聖教国の実権を握る「審問官長」の声。コンスタンスは一瞬、畑で抜いた泥だらけのジャガイモを見つめ、それからツヨシの笑顔を見た。
「……審問官長、こちらコンスタンス。現在……高度な『精神操作魔法』の渦中にあり、脱出は困難。……なお、聖者の指導により、我が騎士団は現在『大地の恵み』について深い洞察を得ております……」
『何を言っている!?』
「とにかく、今は……運動会のリレーが始まりますので、切ります!」
コンスタンスは通信を叩き切ると、バトンを持って走り出した。
「ツヨシ先生! 私も走りますぞ! イチ、ニ! イチ、ニ!」
ツヨシはそれを見て、目尻を下げて笑った。
「やれやれ、みんな良い顔をするようになった。これぞ教育の成果だね」
しかし、聖教国本国はツヨシを「危険な洗脳者」として認定し、さらなる強硬手段――「聖女部隊」の派遣を決定していた。
村の平和を揺るがす、次なる「転校生」たちが近づいていた。




