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異世界転生:66歳元教員ツヨシの悠々自適な開拓生活  作者: 羽越世雌
第二章:社会構造の変革(魔物との共生)
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第三十話:地獄の管理職研修(導入編)

「……我々が、なぜこのような人間の老人から教えを乞わねばならんのだ」


ノアの村の広場。そこには、一目で「タダモノではない」と分かる四人の異形が並んでいた。

魔王軍四天王。

破壊の化身「爆炎将軍ザルガス」、冷徹な知略家「氷結女王リリス」、死の瘴気を纏う「腐敗僧正モルト」、そして巨躯を誇る「巌岩王ゴレム」。

彼らの放つ殺気で、村の家畜たちは泡を吹いて倒れそうになっていた。


「おい、そこ。並び方がなっていないぞ。背の順に並びなさい」


竹刀を脇に抱え、ジャージ姿(女神ステラによる特注品)のツヨシが歩み寄る。


「貴様……死にたいか! 私は爆炎のザル……」

「返事は『はい』か『Yes』だ! 組織の基本は挨拶と規律。ザルガス君、声が小さい! やり直し!」


ツヨシの一喝。それはただの怒声ではない。六十六年の教員生活で培われた、何千人もの「問題児」を更生させてきた魂の咆哮だ。その覇気に、伝説の将軍ザルガスが思わず「は、はいっ!」と直立不動になった。


「よろしい。では、管理職研修第一プログラムを開始する。テーマは『共通体験によるチームビルディング』だ。……ステラ君、ミュージック・スタート!」


「了解よ、ツヨシ! 爆音で行くわよ!」


上空から女神ステラが流したのは、魔界には存在しない軽快なピアノの旋律。


「さあ、第一ボタンを外して! 腕を前から上に上げて、背筋を伸ばす運動! いっち、に、さん、し!」


魔界最強の四天王たちが、ツヨシの掛け声に合わせてラジオ体操を始めた。

氷結女王リリスは顔を真っ赤にしながら腕を振り、腐敗僧正モルトは関節を「パキパキ」と鳴らしながら前屈している。


「いいか、君たち。部下を動かすのは力ではない、信頼だ。そして信頼は、規律正しい生活から生まれる。ザルガス君、ジャンプの打点が低すぎる! 筋肉は裏切らないと言っただろう!」


「くっ……この男、ただの人間ではない……。動きに一切の隙がない……!」


実はツヨシ、かつて剣道部の顧問として全国大会へ導いた実績があり、その体捌きは無意識に達人の域に達していたのだ。


午前中の体操と掃除が終わり、次は「給食」の時間である。


「今日の給食当番はリリス君とゴレム君だ。全員に平等に、愛情を込めてカレーをよそうように。一粒の米にも神様……いや、この世界だと精霊かな? が宿っているんだからな」


魔界で弱肉強食を地で行く四天王にとって、「平等に分ける」という概念は衝撃的だった。

リリスは震える手でお玉を握り、村の子供たちにカレーを配っていく。


「ほら、おばちゃん、大盛りにして。頑張ったもんね」

「お、おば……!? ……っ、ああ、食べなさい。たくさん食べて、強くなるのよ……」


リリスの冷徹な仮面が、子供たちの笑顔の前に少しずつ剥がれ落ちていく。


その様子を遠くから魔王ゼノンが満足げに眺めていた。

「……ツヨシ、やはり貴様は恐ろしい男だ。我が四天王が、わずか半日で『教育』されつつある……」


しかし、この平和な光景を快く思わない影があった。

魔界に残された旧勢力、魔王をも「甘い」と断ずる強硬派の軍勢が、ノアの村へと進軍を開始していたのである。


「教育など無用。人間は家畜。ツヨシという老いぼれごと、この村を更地にしてくれるわ」


空が暗雲に包まれ、不穏な魔力が村を襲おうとしたその時、ツヨシは出席簿を開き、静かに眼鏡を上げた。


「……ほう。授業中に乱入してくる不届き者がいるようだね。……四天王諸君、これは『校外学習』だ。害虫駆除のやり方を、実践で学んでおいで」


「「「御意!!」」」


カレーを完食した四天王たちが、かつてないほど清々しい、そして恐ろしい笑顔で立ち上がった。

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