第三話:泥にまみれた村に「光」を
「ミーナさん、君がこの村の『環境美化部』部長としての初仕事だ。まずは村人全員に声をかけて、この広場に集まるように伝えてきてくれないか?」
ツヨシの言葉に、ミーナは戸惑いながらも頷き、駆け出していった。
その間に、ツヨシは「準備」を進める。
リュックから取り出したのは、前世で外壁掃除に愛用していた高圧洗浄機――。
しかし、それは異世界の魔力によって「水魔石式・噴射洗浄杖」へと姿を変えていた。
「よし、まずは『校務分掌』スキルで、村人たちの適正を把握するとしよう」
広場に集まってきたのは、十数人の老人と子供たちだった。皆、泥に汚れ、表情には生気がない。
ツヨシが視線を走らせると、一人一人の頭上に「分掌適正」が浮き上がる。
『教務・会計適正:高(元名主の老人)』
『体育・土木適正:中(体格の良い少年)』
『保健・給食適正:高』
「……ふむ、なかなかの布陣だ。これなら文化祭の準備よりはスムーズにいきそうだな」
ツヨシは咳払いを一つして、かつての全校集会を彷彿とさせる通る声で宣言した。
「皆さん、お集まりいただき感謝します。私はツヨシ、この村の『環境特別顧問』に就任しました。これから、この泥だらけの広場を、皆さんが裸足で歩けるほど美しく変えます。これは『部活動』です。強制ではありませんが、参加者には『特別報酬』を用意しましょう」
「特別報酬……? 食べ物か?」
一人の少年が疑わしげに尋ねる。
「ああ。最高に香ばしい、肉の燻製だ」
ツヨシは「水魔石式・噴射洗浄杖」を構えた。
「まずは、この石畳の『汚れ』を落とす。よく見ていてください。これが『掃除』の真髄です!」
ツヨシが杖のトリガーを引くと、凄まじい水圧が放たれた。
数十年分の泥と苔がこびりついた石畳が、一瞬にして真っ白な本来の輝きを取り戻していく。
「おおおっ!? 魔法か!?」
「いや、ただの水だ。だが、圧力をかければ刃にもなるし、最高の掃除道具にもなる」
ツヨシは慣れた手つきで広場を洗浄していく。泥が剥がれ、隠れていた美しい紋様が姿を現すと、村人たちの目にも少しずつ光が宿り始めた。
「さあ、洗浄が終わったところから『天然石シート』を敷いていくぞ! 体力の余っている者は私に続け! ミーナさんはその間に、この香木を細かく砕いてくれ!」
ツヨシはリュックから電気圧力鍋に似た魔導具を取り出し、森で仕留めた魔獣の肉を放り込んだ。
洗浄の間に肉を柔らかくし、仕上げに先ほどの雑草(虫除け草)と香木を使って、広場の隅で燻し始める。
数時間後――。
夕暮れ時、ノアの村の広場は一変していた。
泥だらけだった地面は、ツヨシが持ち込んだ「天然石シート」と、水圧で磨き上げられた石畳によって、まるで王都の広場のような気品を放っている。
そして、そこにはたまらない香りが漂っていた。
「……いい香り。これが、クンセイ?」
ミーナが喉を鳴らす。
「ああ。肉を煙でコーティングすることで、保存性を高め、旨味を凝縮させる。さて、環境美化部、初日の活動報告会を始めよう。皆さん、お疲れ様でした!」
ツヨシが切り分けた燻製肉を口にした瞬間、村人たちの間に衝撃が走った。
噛みしめるほどに溢れる肉汁、鼻に抜ける香木の芳醇な香り。
「おいしい……。こんなの、生まれて初めてだ」
「ああ、泥だらけだったのが嘘みたいだ。座っても服が汚れないなんて」
老人たちが涙ぐみながら広場の石畳を撫でる。
ツヨシは冷えたエール(魔導冷蔵庫で冷やしたものだ)を一口飲み、満足げに頷いた。
「環境が変われば、心が変わる。心が動けば、体も動く。……次は、各家庭の『洗面所暖房』と『便座』の改善かな。冬が来る前に、システム管理者の端くれとしてインフラを整えなければ」
ツヨシの「異世界・大規模リフォーム」は、まだ始まったばかりだった。




