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異世界転生:66歳元教員ツヨシの悠々自適な開拓生活  作者: 羽越世雌
第二章:社会構造の変革(魔物との共生)
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第二十九話:魔王、現場を視察する

「……これは、我が軍の精鋭たちなのか?」


魔王ゼノンは、漆黒のローブに身を包み、人間に擬態してノアの村の入り口に立っていた。

彼の眼前に広がる光景は、魔界の常識では到底理解しがたいものだった。


かつて戦場で「血に飢えた狂戦士」と恐れられたオークたちが、お揃いの麦わら帽子を被り、「よいしょ、よいしょ」と掛け声を合わせながら、村の子供たちと一緒にレンガを運んでいる。


「ゼノン君、お疲れ様。視察の予約は明日だったはずだが、フライングかな?」


背後から声をかけられ、魔王は肩をびくつかせた。そこには、エプロン姿で堆肥の詰まった袋を担いだツヨシが立っていた。


「ツヨシ……貴様、我が軍の兵士に一体何を教え込んだ。あのスケルトン共を見ろ。あいつら、村の老婆の肩を叩いているぞ。骨が折れたらどうするんだ」


「ああ、あれは『リハビリテーション』の実習ですよ。彼らは指先の力加減が精密ですからね。それよりゼノン君、立ち話もなんだ。ちょうど『学校運営委員会』という名の飲み会を始める。君も来なさい」


ツヨシに強引に腕を引かれ、魔王は村の集会所へと連行された。


そこには、村長や農家、そして引退した騎士だけでなく、作業を終えたデス・バロンまでもが並んで座っていた。机の上には、ツヨシが醸造を手伝った特製の「エール(ビール)」と、採れたての夏野菜の天ぷらが並んでいる。


「さあ、まずは一杯。労働の後の喉越しは格別だよ」


ツヨシに勧められ、ゼノンはおそるおそる黄金色の液体を口にした。


「……っ!? なんだ、この清涼感は……! 魔界のドロリとした血酒とは比較にならん!」


「それは『達成感』という隠し味が入っているからだね。ゼノン君、君の部下たちは今、誰かを殺すためではなく、誰かに感謝されるために汗を流している。彼らの顔を見なさい。あんなにいい顔をして笑うオークを、君は見逃していたんじゃないか?」


ゼノンが顔を上げると、広場ではオークたちが村人から「ありがとう、助かったよ」と声をかけられ、照れ臭そうに鼻を鳴らしていた。


「……感謝、だと? 我ら魔族は、恐怖で支配するのがことわり……」


「恐怖は短期的には効くが、教育エンパワーメントは永続的な平和を生む。私はね、この村を『世界一の学び舎』にしたいんだ。種族や身分に関係なく、お互いの長所を教え合い、短所を補う。それこそが、究極の自給自足だと思わないかね?」


ツヨシは眼鏡の奥の目を優しく細め、魔王のジョッキにエールを注ぎ足した。


その時、天界から様子を覗いていた女神ステラが、思わずツッコミを入れる。


「ちょっと! 魔王がツヨシの説教に感動して、泣きながら天ぷら食べてるんだけど! 世界征服はどうしたのよ、世界征服は!」


しかし、魔王の心はすでに決まっていた。

彼は立ち上がり、ツヨシに向かって深く頭を下げた。


「ツヨシ殿……お願いがある。我が城の幹部全員に、一週間の『管理職研修』を施してはもらえんか」


「はっはっは、いいよ。ただし、私の授業は厳しいぞ。まずは『朝のラジオ体操』からだ」


こうして、魔王軍の幹部たちが「ツヨシ先生」の元へ研修に送り込まれるという、前代未聞の事態が幕を開けるのだった。

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