第二十八話:魔物インターン、村へ行く
「皆さん、おはようございます。今日から一週間、我が村で『社会科見学兼・労働体験』を行う特別講師の皆さんです」
ノアの村の中央広場。ツヨシの爽やかな挨拶とは裏腹に、村人たちは石像のように固まっていた。
それもそのはず、ツヨシの背後に整列しているのは、重装備のオーク三体と、目から怪しい光を放つスケルトン五体、そして引率役(学級委員長)のデス・バロンだったからだ。
「ツ、ツヨシさん……これは一体、どういう状況で?」
村長のノアが、震える声で尋ねる。
「ああ、魔王軍との業務提携ですよ。彼らの有り余る筋力と不眠不休の特性を、村のインフラ整備に活用させてもらうことにしました。もちろん、私が責任を持って『指導』します」
ツヨシはそう言うと、手にした出席簿でオークの腹をパチンと叩いた。
「いいかね、オーク君。君たちの今日の目標は『威嚇』ではなく『共生』だ。村人に挨拶する時は、斧を置いて、語尾に『です・ます』をつけなさい。いいな?」
「ブォッ……ハイ、ワカリマシタ……デシュ」
「よろしい。では、第一作業班(オーク組)は北側の灌漑用運河の掘削。第二作業班(スケルトン組)は、夜通しの道路舗装。夜間勤務手当として、後で魔力結晶を支給するからね」
村人たちは最初こそ悲鳴を上げて逃げ惑ったが、ツヨシの徹底した管理教育により、魔物たちが驚くほど従順に働いているのを見て、次第に表情を変えていった。
特にスケルトンたちの働きぶりは目を見張るものがあった。
彼らには「疲れ」という概念がない。ツヨシが設計した「ローラー式道路転圧機」を、無表情(そもそも顔に肉がないが)で引き続ける姿は、まさに究極の重機だった。
「……信じられん。あのスケルトン、私が三日かかるはずだった石運びを、たった一時間で終えてしまった」
村の大工が、ポカンと口を開けて呟く。
一方、オークたちは休憩時間に配られたツヨシ手作りの「特製おにぎり」に涙していた。
魔王城では「奪い合い」か「生肉」しかなかった食生活に、日本の「おもてなしの心(塩加減絶妙)」が深く突き刺さったのだ。
「これ……ウマイ……。オレ、ニンゲン……コロス……ヤメル」
「おやおや、食育の効果がすぐに出たね」
ツヨシは満足げにノートに筆を走らせる。
その日の夕方、女神ステラが(いつものようにポテトチップスを片手に)空中から現れた。
「ちょ、ちょっとツヨシ! 天界の監視モニターがエラー吐いてるんだけど! 『魔王軍の凶悪度が急低下し、勤労意欲がカンストしました』って、どういうこと!?」
「ステラ様、良い教育は種族を救うんですよ。次は魔王ゼノン君を呼んで、秋の収穫祭の企画会議をやらせようと思っていましてね」
「アンタ、もうそのうち『世界平和』とかいうレベルじゃなくて、『多種族共生型・超福祉国家』とか作りそうね……」
ツヨシの開拓生活は、もはや単なるサバイバルではなく、異世界の理そのものを書き換える「教育改革」へと進化しつつあった。




