第二十話:図書整理と「検索エンジン」の衝撃
賢者会議での衝撃的なプレゼンテーションから数日。ツヨシは王都に滞在する時間を利用して、念願だった「王立大図書館」を訪れていた。
「……これはひどい。これでは必要な情報に辿り着く前に、人生が終わってしまいますよ」
ツヨシは、天を突くような本棚の山を見上げて溜息をついた。数万冊に及ぶ魔導書や古文書が、分類もされず、ただ「届いた順」に近い状態で積み上げられている。かつて図書委員会の顧問として、図書室のバーコード化を推進したツヨシにとって、それは耐え難い光景だった。
「顧問、ここにある本、全部魔法で守られていて勝手に触ることもできないみたいです」
エルナが、幾重にも張られた結界を指差して困惑する。
「エルナさん、魔法の結界よりも、この『アクセスの悪さ』こそが最大の防御になってしまっている。これでは宝の持ち腐れだ。……よし、アルフォンス先生、司書長を呼んできてください。勝手に整理させてもらうと伝えなさい」
翌日から、王立図書館の「大掃除」が始まった。
ツヨシがまず取り掛かったのは、オンライン百科事典の知識を用いた『日本十進分類法(NDC)』の導入だった。
「いいですか、知識は『ジャンル』『主題』『形式』で分ける。魔法学は4類、歴史は2類……といった具合にね。そこに、私が開発した『魔力タグ(RFIDチップのようなもの)』を全書籍に埋め込みます」
ツヨシは、ドローンで上空から書棚をスキャンし、一冊一冊の魔力署名をデータベース化していった。
「ツヨシ殿、そんなことをして何になるのだ? 司書が記憶していれば済む話だろう」
不審げに尋ねる司書長に対し、ツヨシはロビーに設置したばかりの大型ディスプレイを指差した。
「司書長、これを試してください。探したい本の『単語』をここに入力するだけでいい」
ツヨシが「検索窓」に『古代 灌漑施設』と入力すると、ディスプレイに瞬時に該当する本の棚番号と、現在の貸出状況が表示された。
「……なっ! 数十秒で、目的の一冊が特定されただと!? 私が数日かけて探し出すものを、この板切れが瞬時に!?」
「これが『検索エンジン』の力です。情報の価値は、持っていることではなく『引き出せる速さ』で決まるんですよ。校務支援システムが導入された時の、あの書類探しの手間が省けた時の感動……それを今、ここで再現しました」
整理が進む中で、ツヨシは一冊の「奇妙な本」に突き当たった。
それは魔力タグが弾かれ、検索システムでも『未定義』と表示される、真っ黒な表紙の無題の本だった。
「検索:この書籍の識別コード」
【検索結果:該当なし。ただし、マナの波形が『ノアの村の地下回廊』と同一の共鳴を示しています。】
「……ほう。どうやら、この修学旅行には『お土産』が用意されていたようですね」
ツヨシがその本を手に取った瞬間、オンライン百科事典がこれまでになく激しく点滅し、一筋の光が脳内を駆け抜けた。
それは、この世界の「創造」と、前世の「地球」を繋ぐ、禁断のログデータの一端だった。
「顧問? どうしたんですか、急に黙り込んで」
心配そうに覗き込むエルナに、ツヨシはいつもの穏やかな笑みを浮かべた。
「いや、エルナさん。どうやら私の『隠居生活』は、さらにインフラ整備が必要になりそうだ、と思ってね。……さて、司書長。整理のお礼に、この図書館の『貸出カード』をデジタル化しておきましたよ。これで返却期限も自動通知されますからね」
ツヨシの知識という名の「高圧洗浄」は、ついに世界の深淵に溜まった埃を掃き出し始めていた。
だが、この「図書整理」によって、王都に隠されていた不都合な真実が明るみに出ることを、まだ誰も知らなかった。




