第6章:ユメクイにパンツを履かせる
粘土をこねる。
真新しい、まだ誰の記憶も染みついていない粘土。
“僕”はそれを、不器用に丸めて、伸ばして、くっつけていく。
夢の中で見たユメクイを、現実に引き寄せるために。
鼻が長くなりすぎた。
母が通りすがりに言った。
「ゾウ?」
違う。これはユメクイだ。
夢を食べる、あの生き物。
でも、裸のままでは風邪をひくかもしれない。
だから、“僕”は考えた。
パンツを履かせよう。
青い粘土で、少し大きめのパンツを作る。
ユメクイは文句を言わなかった。
むしろ、ちょっと誇らしげに見えた。
それでも寒そうだったから、服を着せることにした。
机の引き出しを開けて、包み紙を探す。
飴玉の包み紙。
ガムの包み紙。
キャラメルの包み紙。
色とりどりの紙を、ユメクイの体に貼っていく。
いちごの匂い。
ミントの匂い。
焦げた甘さ。
包み紙からは、いろんな美味しい匂いがした。
夢の中では、こんな匂いはしなかった。
夢はいつも、色ばかりで、味がなかった。
“僕”はユメクイの目を黒く塗った。
サングラスみたいに。
カラフルに目がくらまないように。
夢の色に惑わされないように。
ユメクイの鼻先をそっと撫でた。
包み紙の服を着たユメクイは、少しだけ笑っているように見えた。
「もう夢なんか喰うなよな」
そう言ったら、ユメクイは静かにうなずいた気がした。
包み紙の匂いが、部屋の中に広がっていく。
それは、現実の匂いだった。
誰かが食べた、誰かが笑った、誰かが忘れた、そんな匂い。
夢よりも、少しだけ甘かった。
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