第5章:夢の終わりとユメの選択
夢が、崩れ始めていた。
水槽のガラスにヒビが入り、熱帯魚の形をした飴玉が溶けていく。
色が流れ、床に染みを作る。
赤、青、黄色、オレンジ──それらは、記憶の断片だった。
ユメは、静かに立っていた。
キャンディーは、ドレッドヘアの包み紙をほどきながら、何かを探していた。
「夢が終わる時は、少しだけ痛いの」
そう言って、銀色の包み紙を差し出した。
「これは、ラストキャンディー。
味は秘密。
でも、食べたら選べる。
ユメとして残るか、“僕”として目覚めるか」
“僕”は飴玉を見つめた。
包み紙には、何も書かれていなかった。
ただ、指先に触れると、少しだけ温かかった。
ユメクイが戻ってきた。
今度は、何の色も纏っていなかった。
真っ白な影。
記憶を喰い尽くした後の、空っぽの姿。
ユメは言った。
「ユメクイは、夢の終わりを告げるの。
でも、終わりは始まりでもあるよ」
キャンディーはサングラスを額に戻した。
「色を拒む方法は教えたけど、選ぶのはあなた」
そして、笑った。
その笑い声は、もう“僕”の記憶にはなかった。
“僕”は飴玉を口に入れた。
味は──わからなかった。
でも、涙が出た。
冷たくて、温かくて、懐かしくて、怖かった。
水槽が割れた。
夢が崩れた。
ユメクイが消えた。
ユメは、“僕”を見ていた。
「さよなら、ユメちゃん」
“僕”は言った。
でも、ユメは微笑んだだけだった。
目を開けると、現実だった。
でも、口の中には、まだ飴玉の味が残っていた。
それは、涙ミントの味だった。
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