表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/7

第4章:夢の味と現実の痛み

ピーペッパー味の飴玉は、甘くて、少しだけ痛かった。

口の中で転がすたび、記憶がざらついた。

“僕”は夢の中でユメだったけれど、飴玉が“僕”を呼び戻す。


ピーチの甘さは、母のジャムの味。

ペッパーの刺激は、父の怒鳴り声。

混ざり合って、涙の味になった。


「ユメちゃん、泣いてるの?」

キャンディーが尋ねた。

ユメは首を振った。

でも、“僕”は泣いていた。


水槽の中の魚が、一匹ずつ色を失っていく。

赤が褪せ、青が灰になり、黄色が白に溶ける。

ユメクイが近づいていた。


キャンディーはサングラスをかけた。

「色が消える時は、こうするの」

でも、“僕”はそれを拒んだ。

色が消える瞬間を、見届けたかった。


ユメクイは、夢の底から這い上がってきた。

その姿は、誰かに似ていた。

“僕”の記憶の中の、忘れたはずの人。

名前が出てこない。

顔もぼやけている。

でも、感情だけが残っていた。


怒り。

後悔。

愛。

痛み。


ユメクイは、それらを喰おうとしていた。

飴玉を通じて、“僕”の記憶に触れ、味を確かめていた。


「やめて」

ユメが言った。

でも、声は届かなかった。


キャンディーは、包み紙のねじれた飴玉を差し出した。

包み紙は銀色で、ほんのり青く光っていた。

彼女は、少しだけ声を落として言った。


「これは、涙ミントの味。

 ひんやり冷たいけど、記憶を守るわ」


その声は、まるで秘密を打ち明けるようだった。

“僕”は飴玉を受け取った。

口に入れると、冷たさが広がり、胸の奥にしまっていた記憶が、そっと息を吹き返した。


ユメクイは一瞬だけ立ち止まった。

その目は、僕の目だった。


「それ、僕の夢じゃない」

“僕”が言った。

ユメが振り向いた。

「ううん、これは私の夢。あなたの記憶を借りてるだけ」


夢と記憶が、重なっていた。

ユメと“僕”の境界が、溶け始めていた。


水槽の中で、最後の魚が消えた。

ユメクイは、色のない世界に溶けていった。


キャンディーはサングラスを外した。

「色が戻る時は、こうするの」

そして、笑った。

その笑い声は、懐かしくて、少しだけ怖かった。


---

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ