後日談・家族編 『ママをめぐる青薔薇家の攻防戦』
あれから12年。
成長した息子たちは、誰よりも“ママ”を愛し、リューベンス家の日常はますますにぎやかに――
今回は、微笑ましくも甘々な家族のひとときをお届けします。
リューベンス邸の朝は、相変わらず穏やかでにぎやかだった。
リビングに香る朝の紅茶と、焼きたてのハーブパン。
テーブルを囲むのは、今や立派に成長した二人の息子と――その間に座る、変わらぬ笑顔の“ママ”。
「ママ、今日の髪、すごく似合ってる」
「ほんと。朝食前にそれ言うあたり、さすが俺の弟だな」
「なにそれ、兄さんは口数少ないだけで、ぜったい心の中で“ママかわいい”って思ってるでしょ?」
「うるさい」
「図星だ~」
にやりと笑う次男・ミカエルは、母譲りの明るい水色の瞳に、勝ち気な笑顔が映える。
対して長男・ユリウスは、父そっくりの鋭い眼差しを保ちながらも、母の前ではほんの少しだけ口元が緩む。
「はいはい、ごはん冷めちゃうからね。いただきますの挨拶からですよ~」
「「はーい、いただきます、ママ」」
「……“ママ”だけに挨拶してない?」
◆ ◆ ◆
長男のユリウスはもう十五歳。ミカエルは十二歳。
貴族学院では優秀な成績を修め、日々の鍛錬にも抜かりない――まさに将来を期待される“貴公子”たち。
だが、母・ルシアの前では、その“看板”は一瞬で外れる。
「ママ、今日の午後、街まで一緒に出かけようよ。新しいカフェできたんだって」
「ちょうど私も気になってたところ~♪」
「ちょっと待て、それなら俺が護衛代わりに連れて行く――」
「護衛って……お兄ちゃん、ママとデートのつもりでしょ」
「貴族婦人の外出には付き添いが必要だと、先生も言っていた」
「その理由、毎週使ってる」
「ミカエルこそ、用もないのについて回るな」
「用ならあるもん! ママと一緒にいるっていう、大事なやつ!」
二人のやりとりに、ルシアは紅茶を手にしてふわっと笑った。
「じゃあ、ふたりとも一緒に行きましょう?」
「「……!!」」
「えっ、それでいいの?」
「ママがいいなら、いい……けど、俺が右側だ」
「じゃあ僕は左手もらう! ママ、両手空いてる?」
「はいはい、しっかりつかまっててね♪」
両腕に大きくなった息子たちを抱えたルシアの姿は、もはや“奥様”というより“女神”だった。
◆ ◆ ◆
夕刻。
外出から戻った家族を出迎えたのは、変わらぬ冷静な夫――クラウス。
「……いつから君は“両腕の騎士団”に守られるようになったのだ?」
「ふふっ、クラウス様が相手してくれないからですよ?」
「……君を囲むには、すでに定員オーバーのようだな」
「でも、やっぱりクラウス様の紅茶の香りが一番ほっとします。ねぇ?」
彼女が近づき、そっと手を取った瞬間、両サイドから鋭い声が飛ぶ。
「パパ、ちょっと待った」
「ママはまだ僕と話してたよ?」
「……何年経っても、油断ならんな」
クラウスは、ふっと目を細めた。
「争いは止めない。だが――」
彼はルシアを優しく抱き寄せると、静かに言った。
「――最終的に私が勝つ」
「……きゃっ」
「パパ、ずるっ……!」
「はい、残念でした~♪」
ママの笑顔に、三人の男たちがそれぞれの温度で嫉妬しながらも、静かな幸せに包まれていく。
◆ ◆ ◆
青薔薇は、咲いてから散るまでが美しい。
そしてその香りは、家族の中で長く、深く、息づいていく。
今日もこの屋敷では、愛と笑いとちょっぴりの取り合いが、優しく響いていた。
大人になっても変わらない“ママ大好き”な息子たちと、揺るがぬ夫の愛情。
青薔薇のように、今もこの家には優しい温もりが咲き続けています。
どうぞ、これからもごきげんな日々が永く続きますように――。