本物の仲間だった ノワール
「裏切り者!」
「国を売った大罪人め!」
「死ぬなら罪を償ってから死ね!」
広場に集まった人々が、掲示された新聞の絵に石を投げつけている。
それは大罪人ノワール・ディスタの絵だった。
ノワール・ディスタは国を滅茶苦茶にした組織の一員。
そう言われている。
実際に、その組織の者達と一緒に行動するところを見た人間が何人もいた。
だから、根も葉もないでたらめというわけではなかった。
だけど、納得できない。
あいつは本物の仲間だった。
俺達の仲間だ。
誰が何と言おうと、俺達は仲間だと思っている。
裏切り者なんかじゃないのに。
人々にいってやりたい気持ちがふつふつと湧いてくる。
拳が震えていた。
しかし隣にいた少女が俺の手を握って首を振った。
大罪人ノワール・ディスタの妹ミスティアだ。
ノワールには妹がいた。
ミスティアは兄をしたっていたし、兄であるノワールもミスティアを大切にしていた。
彼女はくわしい事情を分かっていないながらも、兄の事を信じているのだろう。
「兄が、皆さんを心の底から裏切るはずがありません。たとえ表面的にどうだったとしても」
それは俺達も良く知っている事だった。
あいつが行方不明になる前、俺達はその場にいた。
敵の組織にはめられて、装備もなしに魔物にとりかこまれた俺達に、あいつは隠し持っていた武器を投げ渡してくれた。
魔物の相手で忙しくて、ノワールの表情なんてよく見えなかったけど。
でも、仲間だからそうしてくれたのだと信じている。
いま、あいつはどうしているのだろうか。
「犯罪者め!」
「国でなくなった人達に詫びろ!」
「むごたらしく苦しんで死ね!」
何か理由があるのなら、どうか話してほしい。
それならきっと皆で、その問題を解決するために協力するのに。
おまえの居場所はまだここに残ってるんだから。
この世界のどこかで、生きていてくれれば……。